5月半ばだと言うのに蒸し暑くてかなわない。
僕は制服を脱ぎ去るとシャワーを浴びにいくことにした。とりあえず汗を流してボディーソープをもこもこと泡立てて肌を撫でるように洗う。10分もかからずに身体が清められて気分がさっぱりとした。
そのままの流れで黒のハーフパンツと白いTシャツを着て、通学用のリュックを背負う。
冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取ってひとくち口に含む。
こくん、と飲み干してから玄関を出て隣の部屋のインターフォンを鳴らす。
これから過ごす時間が僕にとってはすごく大事なんだ。
「んー。いつまで待たせる気?」
「ご、ごめん」
玄関先で僕を待ち受けていたのは、玲乃だった。頬っぺたをむっとさせて眉間に皺を寄せている。かなり不機嫌な様子だ。僕はこれ以上玲乃の機嫌を悪くしないように黙って早足で部屋に入った。
すたすたと長い足で歩く玲乃の歩幅に追いつくには、僕はせかせかと足を運ばなければならない。身長186センチの玲乃と身長170センチの僕とでは足の長さも歩幅も違うのだ。
玲乃の後ろをくっついていくので精一杯で、不意に玲乃が立ち止まったことに気付かずに、そのまま玲乃の背中に顔を押し付けてしまった。その瞬間、ふわりと玲乃の汗の匂いと香水だろうか、それが混ざって甘くていい匂いにくらくらとしてその場で軽く額を押さえる。
「なぁに。俺の背中に頭ごっつんこした?」
幼い子どもを宥めるように声をかけてきた玲乃に僕は俯きながら謝る。でも、いい匂いする……。
「うん。前見てなくて……ごめん」
「別にいいけど」
玲乃の部屋に通される。7畳の長方形の部屋。
玲乃の部屋には黒い家具が多く、壁には電飾をつけてネオン色を帯びている。なんかお洒落なバーみたい。
玲乃が部屋の電気を付けると部屋の全貌を見ることができた。黒いアイアンフレームのベッドと、黒いカウチのソファ。足は猫足だ。部屋の中央に置いてある黒くて白いローテーブルに向かい合わせになって座ると、玲乃は「ふわぁ」と欠伸を洩らし大きく伸びをした。見れば見るほど猫の仕草みたいだと僕は思う。
「今日の合図、最初わかってなかったよね?」
古典の授業終わりのことだろうか。困り眉でこくんと頷く。
「口パクしてたよね。でも僕、わかんなくて……人差し指でしーってしてるのは見えたからわかったんだけど。『放課後俺の部屋に来て』って意味だよね?」
「そう。よくわかりました。睦はお利口さんだね」
ぽんぽんと玲乃に頭を撫でられる。幼稚園児に接するような対応に僕は内心むくれていた。
玲乃が人差し指を口にあてて「しー」とするのは、僕と彼だけが知っている合図だ。
玲乃は顎に指を添えながら無言で僕の目を見つめてきた。真正面からまじまじと玲乃の顔を見ることが少ないからか、僕は目を泳がせて最終的に机の上に目線を落とした。
「『放課後』って口パクした」
「そっか」
「何で帰ってくるの遅かったの? 寄り道でもしてきた?」
怒涛の質問攻めに僕はふるふると首を横に振る。
「教室の掃除してて遅くなったんだ。待たせちゃってごめん」
「はあ? それ今日は村野と三上が当番だよね? なんで睦がやるの」
眉を顰める玲乃に僕の緊張感はMAXになる。背筋に冷たい汗が伝う。さっきシャワー浴びたばっかりなのに。
「えっと、2人が部活の集会があるって言ってたから代わることにしたんだ。忙しいみたいだったから」
「……へえ。俺との約束よりもそっちのほうを優先したんだ」
むすっとした表情の玲乃を見て僕はますます焦ってしまい、ひらひらと胸の前で手を振る。
「ち、ちがくて。あの……教室の掃除も玲乃との約束も大事だから両方良いとこ取りしたくなって……僕の我儘だよ」
僕は制服を脱ぎ去るとシャワーを浴びにいくことにした。とりあえず汗を流してボディーソープをもこもこと泡立てて肌を撫でるように洗う。10分もかからずに身体が清められて気分がさっぱりとした。
そのままの流れで黒のハーフパンツと白いTシャツを着て、通学用のリュックを背負う。
冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取ってひとくち口に含む。
こくん、と飲み干してから玄関を出て隣の部屋のインターフォンを鳴らす。
これから過ごす時間が僕にとってはすごく大事なんだ。
「んー。いつまで待たせる気?」
「ご、ごめん」
玄関先で僕を待ち受けていたのは、玲乃だった。頬っぺたをむっとさせて眉間に皺を寄せている。かなり不機嫌な様子だ。僕はこれ以上玲乃の機嫌を悪くしないように黙って早足で部屋に入った。
すたすたと長い足で歩く玲乃の歩幅に追いつくには、僕はせかせかと足を運ばなければならない。身長186センチの玲乃と身長170センチの僕とでは足の長さも歩幅も違うのだ。
玲乃の後ろをくっついていくので精一杯で、不意に玲乃が立ち止まったことに気付かずに、そのまま玲乃の背中に顔を押し付けてしまった。その瞬間、ふわりと玲乃の汗の匂いと香水だろうか、それが混ざって甘くていい匂いにくらくらとしてその場で軽く額を押さえる。
「なぁに。俺の背中に頭ごっつんこした?」
幼い子どもを宥めるように声をかけてきた玲乃に僕は俯きながら謝る。でも、いい匂いする……。
「うん。前見てなくて……ごめん」
「別にいいけど」
玲乃の部屋に通される。7畳の長方形の部屋。
玲乃の部屋には黒い家具が多く、壁には電飾をつけてネオン色を帯びている。なんかお洒落なバーみたい。
玲乃が部屋の電気を付けると部屋の全貌を見ることができた。黒いアイアンフレームのベッドと、黒いカウチのソファ。足は猫足だ。部屋の中央に置いてある黒くて白いローテーブルに向かい合わせになって座ると、玲乃は「ふわぁ」と欠伸を洩らし大きく伸びをした。見れば見るほど猫の仕草みたいだと僕は思う。
「今日の合図、最初わかってなかったよね?」
古典の授業終わりのことだろうか。困り眉でこくんと頷く。
「口パクしてたよね。でも僕、わかんなくて……人差し指でしーってしてるのは見えたからわかったんだけど。『放課後俺の部屋に来て』って意味だよね?」
「そう。よくわかりました。睦はお利口さんだね」
ぽんぽんと玲乃に頭を撫でられる。幼稚園児に接するような対応に僕は内心むくれていた。
玲乃が人差し指を口にあてて「しー」とするのは、僕と彼だけが知っている合図だ。
玲乃は顎に指を添えながら無言で僕の目を見つめてきた。真正面からまじまじと玲乃の顔を見ることが少ないからか、僕は目を泳がせて最終的に机の上に目線を落とした。
「『放課後』って口パクした」
「そっか」
「何で帰ってくるの遅かったの? 寄り道でもしてきた?」
怒涛の質問攻めに僕はふるふると首を横に振る。
「教室の掃除してて遅くなったんだ。待たせちゃってごめん」
「はあ? それ今日は村野と三上が当番だよね? なんで睦がやるの」
眉を顰める玲乃に僕の緊張感はMAXになる。背筋に冷たい汗が伝う。さっきシャワー浴びたばっかりなのに。
「えっと、2人が部活の集会があるって言ってたから代わることにしたんだ。忙しいみたいだったから」
「……へえ。俺との約束よりもそっちのほうを優先したんだ」
むすっとした表情の玲乃を見て僕はますます焦ってしまい、ひらひらと胸の前で手を振る。
「ち、ちがくて。あの……教室の掃除も玲乃との約束も大事だから両方良いとこ取りしたくなって……僕の我儘だよ」
