「2年A組みゃうみゃうカフェ大成功を祝してかんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
九重くんの音頭でクラスメイト全員が一斉にグラスを掲げる。文化祭は無事に大成功を収め、今年の出し物の中で最も売上が良かったのは僕たちのクラスだったので全校集会で表彰された。
それを祝して担任の葉月先生がクラスメイトみんなを焼肉屋さんへ連れて行き、食べ放題コース〈極〉を奢ってくれることになったのだ。
今日は土曜日。いつも見慣れている制服姿のクラスメイトたちは私服だ。制服姿ではわからなかった彼らの素の部分を垣間見れて端の席でも楽しめた。
玲乃はインフルエンサーのPRの仕事をしてからこのあと合流する予定だ。玲乃は平日は学校へ行きそのまま動画やモデルの撮影に入ることも多い。特に高校生で平日は時間が限られているのもあって、学校が休みの土日祝日に仕事が重なることが増えていてかなり多忙な様子だ。
7月末になり外の景色が夏色一色へと変貌を遂げた。入道雲が泳ぐ澄み切った青い空。日本らしい蒸し蒸しとした夏の暑さには閉口する。焼肉屋さんは冷房が効いておりかなり過ごしやすい。念の為に冷え対策の長袖のカーディガンを持ってきたが、それも必要なさそうだ。目の前の炭火焼きカルビからはじゅうじゅうと白い煙が立ち上り、熱波が空気を伝って肌を撫でるからだ。
僕は九重くんやAチームのキャストらが集まる10人がけのテーブル席を見渡せる1番端の4人がけの席に座っていた。
葉月先生から席は自由に選んでいいと言われていたので、クラスメイトたちは各々仲の良い友人たちと席を共にしている。
文化祭で話す機会が多かったとはいえ、彼らにくっついているのも申し訳ないので僕は葉月先生と2人きりで席に腰掛けていた。
店内は全面禁煙とのことで葉月先生はたびたび外にある喫煙所へ向かうので、実質僕は一人で座っていることになる。
焼肉はひとり税込4500円する焼肉食べ放題の〈極〉コースを葉月先生がみんなに振舞ってくれた。僕は葉月先生と共に注文したカルビやタンがテーブルに提供されると、喫煙所から戻った葉月先生がすぐに食べられるように炭火焼きの網にお肉を載せた。もちろん、僕もできたての焼肉をお腹いっぱい食べたい。
30人いるクラスメイトの中で不在なのは玲乃一人だけ。今回の文化祭のおかげでクラスの団結力がパワーアップしたようだ。
僕も2日目に急遽、女装コンカフェキャストに扮して売上を伸ばすことができて感無量だった。自分でも役に立てることを見つけられた気がした。今回の文化祭は僕にとっても思い出深いものになった。
以前、トラブルになった村野と三上は僕と玲乃には一切話しかけず教室の隅でこじんまりと過ごしていた。文化祭準備には顔を出すものの、部活が忙しくあまり教室で姿を見かけなかった。
変に執着されるよりはマシだと思い、互いの存在をスルーすることにしている。それが僕と彼らの暗黙の了解だ。
映画研究同好会のSNSによる展示も成功を収めた。
後輩それぞれの『人生で最も影響を受けた作品』を一言紹介文を載せて投稿すると、いいねやコメントがちらほらと届いた。それを後輩たちへ伝えるとみんな嬉しそうにはしゃいでいた。その様子を見て1年生の彼らに文化祭の楽しい思い出作りの機会を提供できたことに部長としてほっと安堵した。
そんなことを考えていると葉月先生が戻ってきた。食べ放題コース〈極〉が始まってから30分を過ぎたところだった。
「守須。そういや今回はお手柄だったそうだな」
「いえ……僕ひとりの手柄というわけではなくて、メイクや衣装のサポートをしてくれた西園寺さんたちのおかげです」
率直に自分の気持ちを伝えると葉月先生は穏やかな笑みを頬にたたえた。こういう風に優しく笑うこともある先生なんだとその時知って不思議な気持ちになった。
「そういう謙虚なところがみんなを引き寄せるのかもな」
「え?」
思ってもみなかった言葉に僕は首を傾げる。
「九重がな、俺に言ってきたんだよ。今回のクラスのMVPはお前だとさ。クラスのみんなで話し合った結果らしいぞ。主濱と西園寺も候補に上がってたみたいだが守須の頑張りを皆見ていたらしい。九重について回って各チームの進捗状況を把握してグループチャットで共有したり、文化祭当日は廊下でお客さんの列整備をしていたそうじゃないか。クラスが替わって間もないが文化祭を通して普段は大人しくて引っ込み思案の守須の一生懸命な姿を見て心動かされたんだと」
葉月先生は焼肉を大盛りの麦ご飯に載せて一口で頬張る。
「……そんなふうに思われてたんですね」
僕は少し恥ずかしいような、嬉しいような、クラスのみんなに対して感謝の気持ちが倍増した。
照れ隠しのために俯き加減でわかめスープを飲む。ほっと身体の内側から温まるような心地良さにこれが幸せなんだろうなとひとり思い耽っていた。
そんな時だった。店の入口のベルが鳴り響き、カツカツとブーツの音を鳴らして僕のもとへ見慣れた姿が近づいてきた。九重くんが席から立ち上がりみんなに聞こえるように咳払いをする。
「えー。みなさんお待ちかねのキング玲乃のご到着です。拍手でお迎えください」
途端にみんなの視線が玲乃へと注がれる。直後、鳴り止まないほどの歓声と拍手が店内に響き渡った。
「いや、他のお客さんもいるから。静かにしてくれない? キングとか超恥ずかしいんだけど」
顔は笑っているものの目は据わっている玲乃を見てみんなが「ごめんねー」と笑って謝る。
「玲乃ー。うちらの席空いてるよ」
スマホを片手に西園寺さんが手をひらひらと振るのが見えた。僕はてっきり玲乃はそちらの席へと向かうのだと思っていたが
「いや。仕事で疲れたからこっちに座る」
と言って僕と葉月先生のテーブルの席へ腰掛けてきたのだ。
「睦。奥行ける?」
「あ、うん。荷物こっち置こうか?」
「ああ。ありがと」
玲乃と僕のやりとりに葉月先生は意外そうな顔をした。
「珍しいな。お前ら2人の組み合わせは」
僕はぴく、とその言葉に反応する。確かに普段の学校生活では僕が玲乃とラフに話しているところを見たことがある人はいない。僕は誤魔化すように言葉を洩らす。
「えっと。文化祭の準備とかで話す機会が多くて」
「「「かんぱーい!」」」
九重くんの音頭でクラスメイト全員が一斉にグラスを掲げる。文化祭は無事に大成功を収め、今年の出し物の中で最も売上が良かったのは僕たちのクラスだったので全校集会で表彰された。
それを祝して担任の葉月先生がクラスメイトみんなを焼肉屋さんへ連れて行き、食べ放題コース〈極〉を奢ってくれることになったのだ。
今日は土曜日。いつも見慣れている制服姿のクラスメイトたちは私服だ。制服姿ではわからなかった彼らの素の部分を垣間見れて端の席でも楽しめた。
玲乃はインフルエンサーのPRの仕事をしてからこのあと合流する予定だ。玲乃は平日は学校へ行きそのまま動画やモデルの撮影に入ることも多い。特に高校生で平日は時間が限られているのもあって、学校が休みの土日祝日に仕事が重なることが増えていてかなり多忙な様子だ。
7月末になり外の景色が夏色一色へと変貌を遂げた。入道雲が泳ぐ澄み切った青い空。日本らしい蒸し蒸しとした夏の暑さには閉口する。焼肉屋さんは冷房が効いておりかなり過ごしやすい。念の為に冷え対策の長袖のカーディガンを持ってきたが、それも必要なさそうだ。目の前の炭火焼きカルビからはじゅうじゅうと白い煙が立ち上り、熱波が空気を伝って肌を撫でるからだ。
僕は九重くんやAチームのキャストらが集まる10人がけのテーブル席を見渡せる1番端の4人がけの席に座っていた。
葉月先生から席は自由に選んでいいと言われていたので、クラスメイトたちは各々仲の良い友人たちと席を共にしている。
文化祭で話す機会が多かったとはいえ、彼らにくっついているのも申し訳ないので僕は葉月先生と2人きりで席に腰掛けていた。
店内は全面禁煙とのことで葉月先生はたびたび外にある喫煙所へ向かうので、実質僕は一人で座っていることになる。
焼肉はひとり税込4500円する焼肉食べ放題の〈極〉コースを葉月先生がみんなに振舞ってくれた。僕は葉月先生と共に注文したカルビやタンがテーブルに提供されると、喫煙所から戻った葉月先生がすぐに食べられるように炭火焼きの網にお肉を載せた。もちろん、僕もできたての焼肉をお腹いっぱい食べたい。
30人いるクラスメイトの中で不在なのは玲乃一人だけ。今回の文化祭のおかげでクラスの団結力がパワーアップしたようだ。
僕も2日目に急遽、女装コンカフェキャストに扮して売上を伸ばすことができて感無量だった。自分でも役に立てることを見つけられた気がした。今回の文化祭は僕にとっても思い出深いものになった。
以前、トラブルになった村野と三上は僕と玲乃には一切話しかけず教室の隅でこじんまりと過ごしていた。文化祭準備には顔を出すものの、部活が忙しくあまり教室で姿を見かけなかった。
変に執着されるよりはマシだと思い、互いの存在をスルーすることにしている。それが僕と彼らの暗黙の了解だ。
映画研究同好会のSNSによる展示も成功を収めた。
後輩それぞれの『人生で最も影響を受けた作品』を一言紹介文を載せて投稿すると、いいねやコメントがちらほらと届いた。それを後輩たちへ伝えるとみんな嬉しそうにはしゃいでいた。その様子を見て1年生の彼らに文化祭の楽しい思い出作りの機会を提供できたことに部長としてほっと安堵した。
そんなことを考えていると葉月先生が戻ってきた。食べ放題コース〈極〉が始まってから30分を過ぎたところだった。
「守須。そういや今回はお手柄だったそうだな」
「いえ……僕ひとりの手柄というわけではなくて、メイクや衣装のサポートをしてくれた西園寺さんたちのおかげです」
率直に自分の気持ちを伝えると葉月先生は穏やかな笑みを頬にたたえた。こういう風に優しく笑うこともある先生なんだとその時知って不思議な気持ちになった。
「そういう謙虚なところがみんなを引き寄せるのかもな」
「え?」
思ってもみなかった言葉に僕は首を傾げる。
「九重がな、俺に言ってきたんだよ。今回のクラスのMVPはお前だとさ。クラスのみんなで話し合った結果らしいぞ。主濱と西園寺も候補に上がってたみたいだが守須の頑張りを皆見ていたらしい。九重について回って各チームの進捗状況を把握してグループチャットで共有したり、文化祭当日は廊下でお客さんの列整備をしていたそうじゃないか。クラスが替わって間もないが文化祭を通して普段は大人しくて引っ込み思案の守須の一生懸命な姿を見て心動かされたんだと」
葉月先生は焼肉を大盛りの麦ご飯に載せて一口で頬張る。
「……そんなふうに思われてたんですね」
僕は少し恥ずかしいような、嬉しいような、クラスのみんなに対して感謝の気持ちが倍増した。
照れ隠しのために俯き加減でわかめスープを飲む。ほっと身体の内側から温まるような心地良さにこれが幸せなんだろうなとひとり思い耽っていた。
そんな時だった。店の入口のベルが鳴り響き、カツカツとブーツの音を鳴らして僕のもとへ見慣れた姿が近づいてきた。九重くんが席から立ち上がりみんなに聞こえるように咳払いをする。
「えー。みなさんお待ちかねのキング玲乃のご到着です。拍手でお迎えください」
途端にみんなの視線が玲乃へと注がれる。直後、鳴り止まないほどの歓声と拍手が店内に響き渡った。
「いや、他のお客さんもいるから。静かにしてくれない? キングとか超恥ずかしいんだけど」
顔は笑っているものの目は据わっている玲乃を見てみんなが「ごめんねー」と笑って謝る。
「玲乃ー。うちらの席空いてるよ」
スマホを片手に西園寺さんが手をひらひらと振るのが見えた。僕はてっきり玲乃はそちらの席へと向かうのだと思っていたが
「いや。仕事で疲れたからこっちに座る」
と言って僕と葉月先生のテーブルの席へ腰掛けてきたのだ。
「睦。奥行ける?」
「あ、うん。荷物こっち置こうか?」
「ああ。ありがと」
玲乃と僕のやりとりに葉月先生は意外そうな顔をした。
「珍しいな。お前ら2人の組み合わせは」
僕はぴく、とその言葉に反応する。確かに普段の学校生活では僕が玲乃とラフに話しているところを見たことがある人はいない。僕は誤魔化すように言葉を洩らす。
「えっと。文化祭の準備とかで話す機会が多くて」
