「ようこそ! 2年A組みゃうみゃうカフェへ!」
西園寺さんを筆頭にコンカフェのキャストたちがお客さんを教室の入口まで出迎えた。
コンカフェの命名は西園寺さんがしたそうだと九重くんから聞いた僕は「なるほど。かなりインパクトのある名前だな」と感心したものだ。
文化祭1日目がスタートし、教室の前の廊下には2年A組のクラスだけ長蛇の列ができていた。
その整備に追われるのが九重くんをリーダーとするDチームだった。途中列の札と最後尾の札を用意しお客さんに頭の上で掲げてもらう。
幸い大きなトラブルなく列は進んでいく。僕もお客さんからの質問に精一杯声を出して答える。
隣のクラスは迷路の出し物をしているので、廊下にもお客さんの悲鳴や楽しそうな声が響くのだ。いつもの僕の声量では全く周りの人に聞こえなくなってしまう。だからお腹から息を吸ってはきはき喋るようにした。
「すごいお客さん並んでるね。九重くんのSNS運用が大当たりで集客ができてるのかな」
文化祭が開幕して1時間後に九重くんと僕はDチームの2人の女子生徒とバトンタッチした。九重くんと僕は教室に入り水分補給をとりながら廊下の人だかりを眺めた。
「まじでSNSの力って半端ねえなって改めて思った。文化祭専用のアカウントを作成して、ABCDチームそれぞれの当日までの準備してるオフショット載せたり、内装と外装の紹介ツアー動画載せたり、1番はキャストたちの紹介動画の反響が大きくてさあ。西園寺は5000いいね超えてるし、玲乃に関してはずば抜けて2万いいねだぜ? やっぱインフルエンサーって知名度高いんだな」
ちらり、と僕は教室内に設けられた席をまわるキャストのうちの一人に目が釘付けになる。
ふわふわの白いシフォンメイド服に身を包みメイクを施した女装姿の玲乃を目で追いかけた。髪色も白髪だからか天使のように儚い印象の西洋ドールのような見た目をしている。
お客さんと会話をしたり、フードやドリンクの提供をしている様子を見てやはり玲乃は完璧人間だと僕は思った。
「よっすー。2人とも休憩中?」
にゅっと後ろから顔をのぞかせたのはCチームのリーダーの冴島くんだった。九重くんは肩を組み出迎え、僕は軽く会釈した。
「冴島のチームすげえわ。普段過ごしてる教室じゃないみてえに華やか。ほんとにザ・コンカフェの内装と外装だ。Cチームのみんな愛してるぞー」
ぎゅぎゅっと九重くんが冴島くんの肩に抱きついて離れない。やはり九重くんはスキンシップが豊富な人なんだと僕は再確認した。
「やめやめ。男同士でくっつきあってんの暑苦しいわ。俺の彼女が見たらドン引きするわ」
『彼女』というワードに睦の心がぴくんと跳ね上がった。
そうか。文化祭、恋人と一緒にまわるのも珍しくないか。
僕は白い大理石柄の床シートに並べられた机を見てはっとする。
4人がけの席が3つ、8人がけのバーカウンター、2人がけの席が4つ。
その席に座っているのは半分以上が男女のカップルだった。みんな思い思いにカフェでの時間を楽しそうに過ごしている。それを見ていると僕の胸はなぜだかきゅっと抓られたように痛み、目を逸らす。
午後の時間は再び九重くんと僕が廊下で列の整備をしていた。
Dチームの女子生徒2人は午後に美術部員として出し物の発表があるのだというので交代したのだ。
午後になっても長蛇の列は尽きることなく隣のクラスにまで列が伸びてしまった。隣のクラスは人の入りが落ち着いて閑古鳥が鳴いている様子だ。
教室の入口でお客さんに案内をしていると、大きなうちわを持った女性2人組が目の前にやってきた。
僕はそのうちわをごくんと唾を飲み込んで見入る。うちわの片側には『玲乃投げキッスして!』とピンク色のもこもこした文字で縁取られており、裏面には玲乃の顔が印刷されたホログラム仕様の写真が貼られてあった。
2人とも髪の毛をハーフアップにしてゆる巻にしている。目の下にはきらきらしたハートストーンが付けられていてまるでアイドルのような見た目だ。
僕は心の中がざわざわと渦巻いて息が苦しくなりかけたが、これも仕事と割り切って2人を店内へ案内した。
九重くんに人手不足のためチェキ撮影の担当に加わるように言われた僕は、教室内に足を踏み入れた。
教室の出口側に設けられたSNSフォトブースでは『みゃうみゃうカフェ』のネオンの文字が浮かび上がり、その周りを白い薔薇や雲が囲んでいる。それを背景にして写真撮影ができるスポットだ。僕は予め練習していた通りにチェキをセットしてお客さんとキャストを撮影する。
「西園寺さまー!」
キャーキャーと黄色い声が教室を吹き抜ける。
男装した西園寺さんの人気はうなぎ登りで、ツーショットチェキに並ぶ女性のお客さんが後を絶たない。西園寺さんは写真を撮られることに慣れているようで、1枚1枚丁寧に対応をしている。
みゃうみゃうカフェでは好みのキャストとのツーショットチェキが1枚300円で撮影可能だ。一人につき上限10枚まで撮影ができるシステムだ。
キャストの中で1番人気なのは飛び抜けて玲乃だった。西園寺さんと交代でフォトブースを入れ替わりながら今度は玲乃の撮影に入る。
僕はチェキを撮ることに夢中で気づかなかった。先程、入口で案内した2人の女性のお客さんがそれぞれ玲乃とツーショットを撮ろうとしていることに。
「玲乃ー! SNS見たら2年A組の玲乃って何者? ってみんな噂してたよ」
デコレーションされたうちわを持った女性が玲乃の隣に近づく。話をしたそうにうずうずしている様子に気がついた玲乃は静かに言葉を残した。
「俺も話したいけどごめんね。お客さんたくさんいるからまた今度話そうね」
玲乃のやんわりとした断り方が気に食わなかったのか女性がわあわあと喚き出す。
「えー。せっかく来たのに塩対応じゃん。SNSに呟いちゃうよー」
半ば脅しのような言葉を呟くと、女性は玲乃の腕に自身の腕を絡めて胸を押し付けた。玲乃の眉がつり眉になるのを見越した僕が女性と玲乃の間に割って入る。自分でも驚いた。こんなふうに玲乃を助けようと無意識に踏み出した一歩があまりにも積極的だったことに。
西園寺さんを筆頭にコンカフェのキャストたちがお客さんを教室の入口まで出迎えた。
コンカフェの命名は西園寺さんがしたそうだと九重くんから聞いた僕は「なるほど。かなりインパクトのある名前だな」と感心したものだ。
文化祭1日目がスタートし、教室の前の廊下には2年A組のクラスだけ長蛇の列ができていた。
その整備に追われるのが九重くんをリーダーとするDチームだった。途中列の札と最後尾の札を用意しお客さんに頭の上で掲げてもらう。
幸い大きなトラブルなく列は進んでいく。僕もお客さんからの質問に精一杯声を出して答える。
隣のクラスは迷路の出し物をしているので、廊下にもお客さんの悲鳴や楽しそうな声が響くのだ。いつもの僕の声量では全く周りの人に聞こえなくなってしまう。だからお腹から息を吸ってはきはき喋るようにした。
「すごいお客さん並んでるね。九重くんのSNS運用が大当たりで集客ができてるのかな」
文化祭が開幕して1時間後に九重くんと僕はDチームの2人の女子生徒とバトンタッチした。九重くんと僕は教室に入り水分補給をとりながら廊下の人だかりを眺めた。
「まじでSNSの力って半端ねえなって改めて思った。文化祭専用のアカウントを作成して、ABCDチームそれぞれの当日までの準備してるオフショット載せたり、内装と外装の紹介ツアー動画載せたり、1番はキャストたちの紹介動画の反響が大きくてさあ。西園寺は5000いいね超えてるし、玲乃に関してはずば抜けて2万いいねだぜ? やっぱインフルエンサーって知名度高いんだな」
ちらり、と僕は教室内に設けられた席をまわるキャストのうちの一人に目が釘付けになる。
ふわふわの白いシフォンメイド服に身を包みメイクを施した女装姿の玲乃を目で追いかけた。髪色も白髪だからか天使のように儚い印象の西洋ドールのような見た目をしている。
お客さんと会話をしたり、フードやドリンクの提供をしている様子を見てやはり玲乃は完璧人間だと僕は思った。
「よっすー。2人とも休憩中?」
にゅっと後ろから顔をのぞかせたのはCチームのリーダーの冴島くんだった。九重くんは肩を組み出迎え、僕は軽く会釈した。
「冴島のチームすげえわ。普段過ごしてる教室じゃないみてえに華やか。ほんとにザ・コンカフェの内装と外装だ。Cチームのみんな愛してるぞー」
ぎゅぎゅっと九重くんが冴島くんの肩に抱きついて離れない。やはり九重くんはスキンシップが豊富な人なんだと僕は再確認した。
「やめやめ。男同士でくっつきあってんの暑苦しいわ。俺の彼女が見たらドン引きするわ」
『彼女』というワードに睦の心がぴくんと跳ね上がった。
そうか。文化祭、恋人と一緒にまわるのも珍しくないか。
僕は白い大理石柄の床シートに並べられた机を見てはっとする。
4人がけの席が3つ、8人がけのバーカウンター、2人がけの席が4つ。
その席に座っているのは半分以上が男女のカップルだった。みんな思い思いにカフェでの時間を楽しそうに過ごしている。それを見ていると僕の胸はなぜだかきゅっと抓られたように痛み、目を逸らす。
午後の時間は再び九重くんと僕が廊下で列の整備をしていた。
Dチームの女子生徒2人は午後に美術部員として出し物の発表があるのだというので交代したのだ。
午後になっても長蛇の列は尽きることなく隣のクラスにまで列が伸びてしまった。隣のクラスは人の入りが落ち着いて閑古鳥が鳴いている様子だ。
教室の入口でお客さんに案内をしていると、大きなうちわを持った女性2人組が目の前にやってきた。
僕はそのうちわをごくんと唾を飲み込んで見入る。うちわの片側には『玲乃投げキッスして!』とピンク色のもこもこした文字で縁取られており、裏面には玲乃の顔が印刷されたホログラム仕様の写真が貼られてあった。
2人とも髪の毛をハーフアップにしてゆる巻にしている。目の下にはきらきらしたハートストーンが付けられていてまるでアイドルのような見た目だ。
僕は心の中がざわざわと渦巻いて息が苦しくなりかけたが、これも仕事と割り切って2人を店内へ案内した。
九重くんに人手不足のためチェキ撮影の担当に加わるように言われた僕は、教室内に足を踏み入れた。
教室の出口側に設けられたSNSフォトブースでは『みゃうみゃうカフェ』のネオンの文字が浮かび上がり、その周りを白い薔薇や雲が囲んでいる。それを背景にして写真撮影ができるスポットだ。僕は予め練習していた通りにチェキをセットしてお客さんとキャストを撮影する。
「西園寺さまー!」
キャーキャーと黄色い声が教室を吹き抜ける。
男装した西園寺さんの人気はうなぎ登りで、ツーショットチェキに並ぶ女性のお客さんが後を絶たない。西園寺さんは写真を撮られることに慣れているようで、1枚1枚丁寧に対応をしている。
みゃうみゃうカフェでは好みのキャストとのツーショットチェキが1枚300円で撮影可能だ。一人につき上限10枚まで撮影ができるシステムだ。
キャストの中で1番人気なのは飛び抜けて玲乃だった。西園寺さんと交代でフォトブースを入れ替わりながら今度は玲乃の撮影に入る。
僕はチェキを撮ることに夢中で気づかなかった。先程、入口で案内した2人の女性のお客さんがそれぞれ玲乃とツーショットを撮ろうとしていることに。
「玲乃ー! SNS見たら2年A組の玲乃って何者? ってみんな噂してたよ」
デコレーションされたうちわを持った女性が玲乃の隣に近づく。話をしたそうにうずうずしている様子に気がついた玲乃は静かに言葉を残した。
「俺も話したいけどごめんね。お客さんたくさんいるからまた今度話そうね」
玲乃のやんわりとした断り方が気に食わなかったのか女性がわあわあと喚き出す。
「えー。せっかく来たのに塩対応じゃん。SNSに呟いちゃうよー」
半ば脅しのような言葉を呟くと、女性は玲乃の腕に自身の腕を絡めて胸を押し付けた。玲乃の眉がつり眉になるのを見越した僕が女性と玲乃の間に割って入る。自分でも驚いた。こんなふうに玲乃を助けようと無意識に踏み出した一歩があまりにも積極的だったことに。
