九重くんと分かれた僕はそのまま奥まったところにある部屋へと向かう。もともと生徒会の会議室として使われていたらしいが、手狭になりこの会議室は古巣となったと聞いている。
現在は映画研究同好会の活動場所として借りている小さな部屋だ。
部屋のプレートに『映画研究同好会』と掲げられているのを見つつ、僕は部室のドアを引いた。
「よおー。守須。みんな待ってたぞ」
「みんな待たせてごめんね」
顧問の佐藤先生が読みかけの本を片手に僕を見つめた。佐藤先生は保健室の先生もしている。そんな中、映画を見たり読書をするのが趣味らしく、映画研究同好会の顧問を務めてくれている。
僕の背中の怪我のことに触れる素振りはない。それに少しほっとした。部室に来たのは村野と三上にいじめを受けて以来初めてなので、部室にいる4人の目線が一気に僕に注がれた。みんなに謝罪をしてから部室のドアを閉める。
「部長! お久しぶりです」
元気よく笑顔で話しかけてくれる屋久島くんは、初めてできた僕の後輩のうちの1人だ。
他の3人の後輩もそれぞれ丸テーブルの周りを囲うように椅子に座った。それを確認してから僕はこほん、と息を吐く。
「では文化祭に向けて映画研究同好会の展示について話し合いを始めるね。野中さん。いつも通り書記をお願い」
野中さんは静かにスマホを取り出してメモの準備をしている。大人しい後輩だがとても真面目で責任感が強く書記に大抜擢された。
「それではまず去年の展示について振り返りをしよう」
僕はスマホの画面をタップして後輩4人に見せた。屋久島くんは「へぇー」と言葉を洩らし他の3人は「ふむふむ」と画面に映る展示をしげしげと見つめている。
「去年は1個上の先輩が10人いたから、こんなふうにわいわい展示をしてたけど今年は先輩たちは受験勉強のために引退したから、部長をやらせてもらっている僕と君たち4人でやるんだ。去年より規模は小さくなると見込んでるよ」
屋久島くんがはい、と挙手をする。
「俺たちは今年入部したので去年の展示どんなだったか詳しく教えてほしいっす」
他の3人も屋久島くんの言葉にうんうんと頷いている。僕は去年の文化祭を思い出しながら話をする。
「去年は『人生で最も影響を受けた映画』を展示したよ。部員それぞれが1人1作品を選んで一言紹介文を載せてSNSで宣伝したんだ。といっても映画研究同好会のフォロワーさんは39人しかいないけど……」
「えーっ。39人もいれば十分っすよ。じゃあ文化祭当日は俺たちは特に部室に集まって何かやるっていうのはないんすか?」
屋久島くんの質問に僕は待ってましたと言わんばかりに人差し指を立てて説明を始める。
「そうだね。去年は任意で文化祭当日に部室に集まって展示する人もいたし、それぞれクラスの出し物もあるだろうからそっちに専念してる人もいたよ。僕としては今年は部員も少ないから展示はSNSのみにして当日は文化祭をたくさん楽しんで欲しいなと思ってる」
僕はゆっくり言葉を紡いで後輩4人に説明する。そうするとおずおずと手を挙げる2人の生徒がいた。
「「あの、質問があるんですけど……」」
2人同時にタイミングが合わさり声がハモった。2人はそっくりな顔を見合わせながら肘でお互いの肩を小突いている。双子の姉の笹野ゆりさんが小さな声で聞いてきた。
「クラスの出し物とかの休憩中に部室を使って涼んだり休んでもいいですか? 体力にあまり自信がなくて……」
色白の笹野ゆりさんが気まずそうに言葉を呟いた。僕は少し表情を緩めて「うん」と頷く。
「もちろんいいよ。僕もそうするつもりだよ。佐藤先生もいいですよね?」
読書に耽っていた佐藤先生は名前を呼ばれてぴくんと肩を跳ねさせてから親指を突き立てて「いいよ」とサインを送ってきた。そうすると双子の弟の笹野こうきくんが「あの」と男子としては高めの声で手を挙げた。
「映画研究同好会の展示の準備にはだいたいどれくらいかかりますか? 自分のクラスはお化け屋敷をやる予定でかなりスケジュールがきつきつで……」
申し訳なさそうに眉を垂らす笹野こうきくんにゆっくり相槌を打つ。
「そうだよね。僕のクラスも忙しくなりそうだから、みんなで部室に集まって準備をするのが難しいよね。なので、映画研究同好会のグループチャットにそれぞれ『人生で最も影響を受けた映画』と、それについての一言紹介文を送ってもらえれば僕がSNSで投稿するようにしようと思ってるよ。みんなそれでどうかな?」
僕の提案に屋久島くん、野中さん、笹野ゆりさんと笹野こうきくんが小さく頷いた。
「そうしたら去年の先輩たちの展示は映画研究同好会のSNSに載せてあるからそれを参考に作ってみて。何かわからないことがあったら僕に連絡して。可能な限りお手伝いさせてもらうね」
後輩たちが大きく頷いてから今日の話し合いは終了した。書記をしてくれた野中さんにメモをスマホに転送してもらう。それを確認しつつ帰宅の準備を始めた。
「それじゃあ部長。お疲れ様でした。お先失礼します」
後輩4人が部室を出ていくのを見送り、ほっと肩の荷を下ろす。
もともと人前で喋ることが苦手で、特に複数人ともなればそっと空気を薄くさせてやり過ごすのが常なのだ。しかし、1つ上の先輩部員は10人いたが、僕の代は他に部員がいない。そのため他に部長を務める者がいないのだ。
ふと、空になった丸テーブルを見つめる。高校に入学したばかりの後輩4人は僕からしてみればまだよちよち歩きのひよこのように見える。みんな新しい環境に期待と夢と希望で胸がいっぱいなはずだ。そんな部員たちが安心して心を癒される空間を映画研究同好会では作りたい。
そのため僕は苦手な喋りをなんとか克服するために日々部員たちと向き合っている。そのせいかもあってか少しずつ部員たちとの距離も縮まってきた気がする。僕の肌感覚だけれど……。
スマホの画面に映る時計を確認した。17時45分。思ったよりも時間がかかってしまった。
「佐藤先生はまだ部室に残りますか?」
「うん。部室の鍵はこっちで閉めるから守須はそのまま帰っていいぞ」
読書に夢中な佐藤先生は目を合わせることなくそう言ってきた。僕は小さく頭を下げてから「お疲れ様でした。失礼します」と部室から出ていった。
現在は映画研究同好会の活動場所として借りている小さな部屋だ。
部屋のプレートに『映画研究同好会』と掲げられているのを見つつ、僕は部室のドアを引いた。
「よおー。守須。みんな待ってたぞ」
「みんな待たせてごめんね」
顧問の佐藤先生が読みかけの本を片手に僕を見つめた。佐藤先生は保健室の先生もしている。そんな中、映画を見たり読書をするのが趣味らしく、映画研究同好会の顧問を務めてくれている。
僕の背中の怪我のことに触れる素振りはない。それに少しほっとした。部室に来たのは村野と三上にいじめを受けて以来初めてなので、部室にいる4人の目線が一気に僕に注がれた。みんなに謝罪をしてから部室のドアを閉める。
「部長! お久しぶりです」
元気よく笑顔で話しかけてくれる屋久島くんは、初めてできた僕の後輩のうちの1人だ。
他の3人の後輩もそれぞれ丸テーブルの周りを囲うように椅子に座った。それを確認してから僕はこほん、と息を吐く。
「では文化祭に向けて映画研究同好会の展示について話し合いを始めるね。野中さん。いつも通り書記をお願い」
野中さんは静かにスマホを取り出してメモの準備をしている。大人しい後輩だがとても真面目で責任感が強く書記に大抜擢された。
「それではまず去年の展示について振り返りをしよう」
僕はスマホの画面をタップして後輩4人に見せた。屋久島くんは「へぇー」と言葉を洩らし他の3人は「ふむふむ」と画面に映る展示をしげしげと見つめている。
「去年は1個上の先輩が10人いたから、こんなふうにわいわい展示をしてたけど今年は先輩たちは受験勉強のために引退したから、部長をやらせてもらっている僕と君たち4人でやるんだ。去年より規模は小さくなると見込んでるよ」
屋久島くんがはい、と挙手をする。
「俺たちは今年入部したので去年の展示どんなだったか詳しく教えてほしいっす」
他の3人も屋久島くんの言葉にうんうんと頷いている。僕は去年の文化祭を思い出しながら話をする。
「去年は『人生で最も影響を受けた映画』を展示したよ。部員それぞれが1人1作品を選んで一言紹介文を載せてSNSで宣伝したんだ。といっても映画研究同好会のフォロワーさんは39人しかいないけど……」
「えーっ。39人もいれば十分っすよ。じゃあ文化祭当日は俺たちは特に部室に集まって何かやるっていうのはないんすか?」
屋久島くんの質問に僕は待ってましたと言わんばかりに人差し指を立てて説明を始める。
「そうだね。去年は任意で文化祭当日に部室に集まって展示する人もいたし、それぞれクラスの出し物もあるだろうからそっちに専念してる人もいたよ。僕としては今年は部員も少ないから展示はSNSのみにして当日は文化祭をたくさん楽しんで欲しいなと思ってる」
僕はゆっくり言葉を紡いで後輩4人に説明する。そうするとおずおずと手を挙げる2人の生徒がいた。
「「あの、質問があるんですけど……」」
2人同時にタイミングが合わさり声がハモった。2人はそっくりな顔を見合わせながら肘でお互いの肩を小突いている。双子の姉の笹野ゆりさんが小さな声で聞いてきた。
「クラスの出し物とかの休憩中に部室を使って涼んだり休んでもいいですか? 体力にあまり自信がなくて……」
色白の笹野ゆりさんが気まずそうに言葉を呟いた。僕は少し表情を緩めて「うん」と頷く。
「もちろんいいよ。僕もそうするつもりだよ。佐藤先生もいいですよね?」
読書に耽っていた佐藤先生は名前を呼ばれてぴくんと肩を跳ねさせてから親指を突き立てて「いいよ」とサインを送ってきた。そうすると双子の弟の笹野こうきくんが「あの」と男子としては高めの声で手を挙げた。
「映画研究同好会の展示の準備にはだいたいどれくらいかかりますか? 自分のクラスはお化け屋敷をやる予定でかなりスケジュールがきつきつで……」
申し訳なさそうに眉を垂らす笹野こうきくんにゆっくり相槌を打つ。
「そうだよね。僕のクラスも忙しくなりそうだから、みんなで部室に集まって準備をするのが難しいよね。なので、映画研究同好会のグループチャットにそれぞれ『人生で最も影響を受けた映画』と、それについての一言紹介文を送ってもらえれば僕がSNSで投稿するようにしようと思ってるよ。みんなそれでどうかな?」
僕の提案に屋久島くん、野中さん、笹野ゆりさんと笹野こうきくんが小さく頷いた。
「そうしたら去年の先輩たちの展示は映画研究同好会のSNSに載せてあるからそれを参考に作ってみて。何かわからないことがあったら僕に連絡して。可能な限りお手伝いさせてもらうね」
後輩たちが大きく頷いてから今日の話し合いは終了した。書記をしてくれた野中さんにメモをスマホに転送してもらう。それを確認しつつ帰宅の準備を始めた。
「それじゃあ部長。お疲れ様でした。お先失礼します」
後輩4人が部室を出ていくのを見送り、ほっと肩の荷を下ろす。
もともと人前で喋ることが苦手で、特に複数人ともなればそっと空気を薄くさせてやり過ごすのが常なのだ。しかし、1つ上の先輩部員は10人いたが、僕の代は他に部員がいない。そのため他に部長を務める者がいないのだ。
ふと、空になった丸テーブルを見つめる。高校に入学したばかりの後輩4人は僕からしてみればまだよちよち歩きのひよこのように見える。みんな新しい環境に期待と夢と希望で胸がいっぱいなはずだ。そんな部員たちが安心して心を癒される空間を映画研究同好会では作りたい。
そのため僕は苦手な喋りをなんとか克服するために日々部員たちと向き合っている。そのせいかもあってか少しずつ部員たちとの距離も縮まってきた気がする。僕の肌感覚だけれど……。
スマホの画面に映る時計を確認した。17時45分。思ったよりも時間がかかってしまった。
「佐藤先生はまだ部室に残りますか?」
「うん。部室の鍵はこっちで閉めるから守須はそのまま帰っていいぞ」
読書に夢中な佐藤先生は目を合わせることなくそう言ってきた。僕は小さく頭を下げてから「お疲れ様でした。失礼します」と部室から出ていった。
