夜、また声が聞こえる。
カーテンの隙間から漏れる街灯の光が、薄い線を描いて畳の上に落ちている。時計の針がカチリと音を立てるたび、部屋の静けさが増していく。
そんな夜の沈黙を破るように、壁の向こうから――あの声が、ゆっくりと響いてきた。
「……っ、あ、きつ……もうちょい……」
布団の中で目を開く。
息を止める。心臓が、どくんと跳ねる。
(ま、また始まった……!)
枕に顔を埋めても、声は壁を透かして耳に届く。小さな部屋だから、逃げ場なんてない。
息の合間に、何かが擦れる音。床の軋み。袋のようなものがパサッと鳴る。
そのたびに、想像のスイッチが勝手に入る。
(……まるで、相手の反応を待って、挑発してるみたいじゃん……)
喉の奥がひりつく。
鼓膜の奥で、低く湿った声が波のように反響して、体の芯までじんわりと熱くしていく。
寝返りを打って背を向けても、耳だけが勝手にそっちを向く。
(やめろ……聞くな、俺……!)
両手で耳を塞いでも、指の隙間から漏れるその声が、逆に鮮明になる気がした。
「っ、もうちょっと……。っ、あと少し……!」
(うわ、出た『あと少し』!もうちょっとでフィニッシュか!?)
(毎晩毎晩、何回戦までやるんだよ……体力どうなってんだ神田葵!)
息が喉に詰まって、変な声が出そうになる。
壁の向こうで何かが軋む音。床が小さく鳴る。
リズムが速くなって、呼吸も荒くなって――
(うわ、うわ、やばいやばい!これ絶対もうすぐ出るやつじゃん!)
(ちょ、待って、聞きたくないのに耳が勝手に全集中してるんだけど!?)
けれど、どれだけ耳を澄ませても、相手の声は聞こえない。
葵の吐息と、息を整える音だけ。
(……え?待って、相手の声がしない?)
耳を澄ましても、聞こえるのは葵の息づかいだけ。
(あれ……そういえば、いつもそうだな。声、一人分しか聞こえない……)
耳の奥で、何度も何度も音を探す。
でも、聞こえてくるのは葵の息だけ。
息が荒くなる音、喉が鳴る音、床を押し返すようなリズム。
(もしかして……気持ち良すぎて、相手の人、声も出せないのか!?)
(やば、どんだけテクあるんだよあの人……!いや、そんなの知りたくねぇ!!)
枕を抱きしめてゴロンと転がる。
布団がぐしゃっと音を立てるたびに、自分の息も乱れる。
(相手ってどんな人なんだろ?)
(背が高いのかな。いや、もしかして小柄なタイプ?葵の体格からしたら、抱え込むような感じで……って何考えてんだ俺!!)
顔を真っ赤にして転がる。
寝返りを打つたびに、シーツが擦れる音が大きく聞こえる。
(てか、いつも同じ人なのかな?それとも毎回違う人?)
(葵みたいなタイプなら、絶対モテるよな……。あんな爽やかな見た目で、裏ではこんな……っ)
(いや待て、これ裏とか言っていいのか?ただ……夜になると元気になりすぎるだけじゃ……)
夜ごとに繰り返される声を聞いてると、どうしても胸の奥がざわついて、息が整わない。
昼間の笑顔と、この息づかいが同じ人だなんて信じられない。
布団を頭までかぶっても、耳の奥ではまだ葵の声が反響していた。
呼吸が重なって、鼓動が合わさっていくような錯覚。
胸の中がざわざわして、眠れるわけがない。
(……俺、なんでこんなに気になってんだろ)
(ただの隣人のはずなのに。顔を合わせるたび、あの声を思い出すとか……やばいって)
深呼吸しても、全然落ち着かない。
――そして、その瞬間は突然訪れた。
「……っ、ふぅ……」
息を吐く音がして、静寂が訪れる。
時計の針の音が、やけに大きく響いた。
その静けさが、妙に――苦しく感じた。
(……終わった、のか……)
誰かの行為が終わっただけのはずなのに、胸の奥がぽっかりと空いたように寂しい。
その寂しさの理由が、わからない。
わからないけど、目を閉じれば、頭の中ではあの声が何度もリピートしていた。
(……てか、今何時?もう日付変わってるし……ほんと何回戦やるんだよ……)
時計を見る。午前二時を過ぎている。
(大学生って、こんなに元気なの?いや、俺も大学生だけど……次元が違うだろ……)
枕に顔を埋めながら、心の中でぼやく。
でも、止まったはずのその声が、まだ頭の中では何度も再生されていた。
(……くそ、お隣さんと顔が合わせづらいなんて……)
(けど……もう一回、聞きたいとか思ってる俺、やばくね?)
カーテンの隙間から漏れる街灯の光が、薄い線を描いて畳の上に落ちている。時計の針がカチリと音を立てるたび、部屋の静けさが増していく。
そんな夜の沈黙を破るように、壁の向こうから――あの声が、ゆっくりと響いてきた。
「……っ、あ、きつ……もうちょい……」
布団の中で目を開く。
息を止める。心臓が、どくんと跳ねる。
(ま、また始まった……!)
枕に顔を埋めても、声は壁を透かして耳に届く。小さな部屋だから、逃げ場なんてない。
息の合間に、何かが擦れる音。床の軋み。袋のようなものがパサッと鳴る。
そのたびに、想像のスイッチが勝手に入る。
(……まるで、相手の反応を待って、挑発してるみたいじゃん……)
喉の奥がひりつく。
鼓膜の奥で、低く湿った声が波のように反響して、体の芯までじんわりと熱くしていく。
寝返りを打って背を向けても、耳だけが勝手にそっちを向く。
(やめろ……聞くな、俺……!)
両手で耳を塞いでも、指の隙間から漏れるその声が、逆に鮮明になる気がした。
「っ、もうちょっと……。っ、あと少し……!」
(うわ、出た『あと少し』!もうちょっとでフィニッシュか!?)
(毎晩毎晩、何回戦までやるんだよ……体力どうなってんだ神田葵!)
息が喉に詰まって、変な声が出そうになる。
壁の向こうで何かが軋む音。床が小さく鳴る。
リズムが速くなって、呼吸も荒くなって――
(うわ、うわ、やばいやばい!これ絶対もうすぐ出るやつじゃん!)
(ちょ、待って、聞きたくないのに耳が勝手に全集中してるんだけど!?)
けれど、どれだけ耳を澄ませても、相手の声は聞こえない。
葵の吐息と、息を整える音だけ。
(……え?待って、相手の声がしない?)
耳を澄ましても、聞こえるのは葵の息づかいだけ。
(あれ……そういえば、いつもそうだな。声、一人分しか聞こえない……)
耳の奥で、何度も何度も音を探す。
でも、聞こえてくるのは葵の息だけ。
息が荒くなる音、喉が鳴る音、床を押し返すようなリズム。
(もしかして……気持ち良すぎて、相手の人、声も出せないのか!?)
(やば、どんだけテクあるんだよあの人……!いや、そんなの知りたくねぇ!!)
枕を抱きしめてゴロンと転がる。
布団がぐしゃっと音を立てるたびに、自分の息も乱れる。
(相手ってどんな人なんだろ?)
(背が高いのかな。いや、もしかして小柄なタイプ?葵の体格からしたら、抱え込むような感じで……って何考えてんだ俺!!)
顔を真っ赤にして転がる。
寝返りを打つたびに、シーツが擦れる音が大きく聞こえる。
(てか、いつも同じ人なのかな?それとも毎回違う人?)
(葵みたいなタイプなら、絶対モテるよな……。あんな爽やかな見た目で、裏ではこんな……っ)
(いや待て、これ裏とか言っていいのか?ただ……夜になると元気になりすぎるだけじゃ……)
夜ごとに繰り返される声を聞いてると、どうしても胸の奥がざわついて、息が整わない。
昼間の笑顔と、この息づかいが同じ人だなんて信じられない。
布団を頭までかぶっても、耳の奥ではまだ葵の声が反響していた。
呼吸が重なって、鼓動が合わさっていくような錯覚。
胸の中がざわざわして、眠れるわけがない。
(……俺、なんでこんなに気になってんだろ)
(ただの隣人のはずなのに。顔を合わせるたび、あの声を思い出すとか……やばいって)
深呼吸しても、全然落ち着かない。
――そして、その瞬間は突然訪れた。
「……っ、ふぅ……」
息を吐く音がして、静寂が訪れる。
時計の針の音が、やけに大きく響いた。
その静けさが、妙に――苦しく感じた。
(……終わった、のか……)
誰かの行為が終わっただけのはずなのに、胸の奥がぽっかりと空いたように寂しい。
その寂しさの理由が、わからない。
わからないけど、目を閉じれば、頭の中ではあの声が何度もリピートしていた。
(……てか、今何時?もう日付変わってるし……ほんと何回戦やるんだよ……)
時計を見る。午前二時を過ぎている。
(大学生って、こんなに元気なの?いや、俺も大学生だけど……次元が違うだろ……)
枕に顔を埋めながら、心の中でぼやく。
でも、止まったはずのその声が、まだ頭の中では何度も再生されていた。
(……くそ、お隣さんと顔が合わせづらいなんて……)
(けど……もう一回、聞きたいとか思ってる俺、やばくね?)



