渋谷の夜は、ネオンの輝きと喧騒に満ちていた。駅からほど近い路地裏のバーは、隠れ家的な雰囲気で、木目のカウンターが暖かな光を反射している。店内にはジャズのメロディが流れ、笑い声が絶えなかった。

その一角で、朝日がカウンター席に陣取り、巨大なポップコーンのバケツを抱えていた。屈強な白人男性の彼は、白い作業着の上下に白と水色のラインが入ったスニーカーを履き、無造作な白髪を揺らしながら、白い瞳をきらめかせる。寂しがり屋で甘えん坊、そして天真爛漫。無職の気楽さを満喫しながら、今夜もバーを楽しんでいた。

「うまい! このポップコーン、塩バター最高!」

朝日はバケツからポップコーンを豪快に掴み、口に放り込む。バリバリッ――噛む音が店内に響き、隣の客がちらりと振り返った。だが朝日は気にせず、頬張りながら陽気に叫ぶ。

「いや~、渋谷の夜って最高だな! 誰か一緒に食べない?」

その明るい声に、常連客の笑いがこぼれ、バーの空気が一瞬で和らぐ。

カウンターの端に座るオジェ=ル=ダノワは、そんな朝日を見て小さく笑った。彼もまた屈強な白人男性で、銀警官として冷刻な漢と知られているが、今夜は休日。私服姿のオジェは独特な装いをしていた。肌色に近い艶出しリップが唇に光り、白銀の円形ピアスが耳元で揺れている。袖にフリルをあしらったファスナー付きのワイシャツ、左右非対称のズボン。片脚はサイハイブーツで肌がのぞき、もう片方はショートブーツ――個性的なスタイルだ。
彼はグラスのウイスキーを傾け、白い瞳で朝日を見やりながら言う。

「君、ポップコーン食う姿、まるで餓鬼だな」

冷たくもどこか温かみを含んだ声だった。

朝日は口いっぱいにポップコーンを詰め込みながら笑う。

「ハハハ! オジェ、笑うなよ! これ、めっちゃうまいから食ってみ?」

そう言ってバケツを差し出すと、ポップコーンの粒が作業着に散り、白と水色のスニーカーにも落ちた。

オジェは眉を上げる。

「汚ないぞ。そんなんじゃあ…食べられないな……」

そう言いつつも、フリルの袖を揺らしながら一粒を摘み、口に入れる。カリッ。

「……まあ、悪くない」

冷刻な顔に、わずかな笑みが浮かんだ。

「だね! オジェも仲間だ!」

朝日は目を輝かせ、甘えん坊らしい笑顔で肩に手を置く。

「触るな」

オジェの拒絶は穏やかで、どこか優しい。朝日の明るいエネルギーが、店の温度をさらに高めていた。

「朝日、また爆食か!」と常連がからかい、店員が新しいポップコーンのバケツを運んでくる。

「よっしゃ、第二ラウンド!」

朝日はそう叫ぶと、再びバリバリ!と爆食開始。

オジェはウイスキーを飲み干し、「ほんと、君はバカだな」と笑った。そのピアスが、バーの照明を受けて光を返す。

渋谷の喧騒の中、バーの夜は朝日の陽気な笑いとオジェの小さな微笑で満たされ、奇妙な調和を保ちながら流れていった。ポップコーンの軽快な音が、その夜のリズムを刻み続けていた。