白銀荘の霧深いカフェ「星冴」。
深夜の静寂に焙煎の香りがほのかに漂う中、オジェ=ル=ダノワは木製のテーブルに腰を下ろし、クラッチバッグから日記帳を取り出した。白髪が淡く揺れ、白色の瞳が橙の照明を映す。壁際にはチェーンソー付きの大斧が立てかけられ、刃の金属光が冷ややかに光っていた。
向かいに座るユディットがニヤリと笑う。その視線を受けながら、オジェは低く、それでいて熱を帯びた声で語り出した。
「ユディくん、聞いて。金血ってのは――才能そのものだ。いや、才能なんかじゃ足りない。何もかもを僕のものに変える力なんだ」
白い瞳が一閃し、コーヒーカップを握る指がわずかに息を震わせた。
彼は横に置いていた日記帳を開き、走るようにペンを滑らせる。
「道端で拾ったあの卵……ほんの好奇心で啜っただけだったのに、頭の中が稲妻みたいに動き出した。書類の山? 一瞬で片付く。敵の武器? 見れば模倣して、自分の大斧を小型化して呼び出せる。金血は僕を怪物にした――いや、完璧な存在に変えたんだ」
オジェはコーヒーを啜った。喉を流れる熱が、内側に潜む金血の奔流を呼び覚ます。
「戦闘での冷酷さはそのままに、スピードも力も桁が違う。白黒者や黒者を抹殺して、能力を吸収すればするほど、僕の身体はさらに適応していく。金血は可能性の塊だ。敵も障害も、全部僕のものにできる」
ユディットが鼻で笑ったが、オジェは瞬きすらせず、淡々と続ける。
「そう、完璧さが増すんだ。鏡を見るたびに思う――僕の力は無限だって。金血はただの液体じゃない。欲望も才能も、存在そのものを拡張する鍵なんだ。ユディくん、君も試してみればいい。限界をぶち壊して、世界を掌に収める感覚……これ以上の魅力があるか?」
だがその声には、一瞬だけ影が落ちた。ペンが止まり、視線が日記帳へと沈む。
「ただ、時々……妙な気分になる。幼体の目を見ると、抹殺すべきなのに、どうしても手が止まるんだ。金血のせいで心が揺れる。慈悲なんて、昔の僕には存在しなかったのに。頭痛もある。思考が暴走して、止まらなくなるときもな。――でも、それすら金血の魅力の一部だ。揺らぎも苦痛も、僕を選んだ試練なんだ。越えれば、もっと上に行ける」
彼は静かに日記を閉じ、クラッチバッグへとしまった。白い瞳が、鋭い光を宿したままユディットを捉える。
「才能も、力も、すべて僕のものにする。それが金血の約束さ。ユディくん、君もいつか分かるだろう。この霧の中で、僕が世界の頂を掴むその日を」
ユディットは唇の端を吊り上げ、心の中でぼそりと呟く。
(正直、摂りすぎて死んでくれないかなって思ってます★)
窓の外では霧が張り付き、白銀荘の壁が遠くで冷たく光った。
オジェの言葉は――金血の誘惑と呪い、その両方を孕んだ白銀荘の運命を、静かに予感させていた。
深夜の静寂に焙煎の香りがほのかに漂う中、オジェ=ル=ダノワは木製のテーブルに腰を下ろし、クラッチバッグから日記帳を取り出した。白髪が淡く揺れ、白色の瞳が橙の照明を映す。壁際にはチェーンソー付きの大斧が立てかけられ、刃の金属光が冷ややかに光っていた。
向かいに座るユディットがニヤリと笑う。その視線を受けながら、オジェは低く、それでいて熱を帯びた声で語り出した。
「ユディくん、聞いて。金血ってのは――才能そのものだ。いや、才能なんかじゃ足りない。何もかもを僕のものに変える力なんだ」
白い瞳が一閃し、コーヒーカップを握る指がわずかに息を震わせた。
彼は横に置いていた日記帳を開き、走るようにペンを滑らせる。
「道端で拾ったあの卵……ほんの好奇心で啜っただけだったのに、頭の中が稲妻みたいに動き出した。書類の山? 一瞬で片付く。敵の武器? 見れば模倣して、自分の大斧を小型化して呼び出せる。金血は僕を怪物にした――いや、完璧な存在に変えたんだ」
オジェはコーヒーを啜った。喉を流れる熱が、内側に潜む金血の奔流を呼び覚ます。
「戦闘での冷酷さはそのままに、スピードも力も桁が違う。白黒者や黒者を抹殺して、能力を吸収すればするほど、僕の身体はさらに適応していく。金血は可能性の塊だ。敵も障害も、全部僕のものにできる」
ユディットが鼻で笑ったが、オジェは瞬きすらせず、淡々と続ける。
「そう、完璧さが増すんだ。鏡を見るたびに思う――僕の力は無限だって。金血はただの液体じゃない。欲望も才能も、存在そのものを拡張する鍵なんだ。ユディくん、君も試してみればいい。限界をぶち壊して、世界を掌に収める感覚……これ以上の魅力があるか?」
だがその声には、一瞬だけ影が落ちた。ペンが止まり、視線が日記帳へと沈む。
「ただ、時々……妙な気分になる。幼体の目を見ると、抹殺すべきなのに、どうしても手が止まるんだ。金血のせいで心が揺れる。慈悲なんて、昔の僕には存在しなかったのに。頭痛もある。思考が暴走して、止まらなくなるときもな。――でも、それすら金血の魅力の一部だ。揺らぎも苦痛も、僕を選んだ試練なんだ。越えれば、もっと上に行ける」
彼は静かに日記を閉じ、クラッチバッグへとしまった。白い瞳が、鋭い光を宿したままユディットを捉える。
「才能も、力も、すべて僕のものにする。それが金血の約束さ。ユディくん、君もいつか分かるだろう。この霧の中で、僕が世界の頂を掴むその日を」
ユディットは唇の端を吊り上げ、心の中でぼそりと呟く。
(正直、摂りすぎて死んでくれないかなって思ってます★)
窓の外では霧が張り付き、白銀荘の壁が遠くで冷たく光った。
オジェの言葉は――金血の誘惑と呪い、その両方を孕んだ白銀荘の運命を、静かに予感させていた。



