秋の午後、街の喧騒をよそに、オジェ=ル=ダノワは静かなカフェのテラス席に腰を下ろしていた。白金の伊達眼鏡越しに、彼の白い瞳がテーブルの上のティーカップを見つめる。カップから立ち上る湯気は、ダージリンの繊細なフローラルノートを運んでいた。オジェの白い髪が、微かな風に揺れる。
「へぇ…ファーストフラッシュか。春摘みの軽やかな香りだ。けど、少し水温が高すぎる。九十五度ではなく九十度で淹れていれば、この繊細な葉のニュアンスがもっと引き立っただろうね……」
その声は低く、怜悧な分析を含んでいた。まるで紅茶を飲むことが、犯罪現場を精査する行為であるかのように。オジェは“銀警官”として知られる男だ。戦場では冷酷無慈悲であり、敵の息の根を止めることに一切の躊躇がない。しかし今、私服に身を包み、白金のブレスレットとレリーフ型ペンダントを身につけた姿は、どこか優雅で、都会の風景に自然と溶け込んでいた。プリーツスカート型の前後掛け付きズボンが、風に軽く揺れる。
この街ルミエールは、紅茶愛好家の聖地とも呼ばれる場所だ。古い石畳の通りには、紅茶専門店やカフェが軒を連ね、それぞれが独自のブレンドと淹れ方を競っている。オジェは任務の合間に、この街で「紅茶巡り」を始めていた。それは彼にとって、戦いの緊張を解き、己の感覚を研ぎ澄ますための儀式のようなものだった。
今日の目的地は「ル・ジャルダン・デ・テ」という小さなティーハウス。店内の棚には、セイロン、アッサム、キーマン、そして稀少な白茶まで、瓶に詰められた茶葉がずらりと並ぶ。オジェはメニューを一瞥し、店員に淡々と告げた。
「シルバーニードル。八十五度で三分。茶葉はカップあたり二・五グラム。ミルクも砂糖も不要」
店員は一瞬、圧倒されたように頷き、奥へと引っ込んだ。オジェはクラッチバッグから小さなノートを取り出し、今日の紅茶の感想を記す準備をした。彼にとって紅茶巡りは、単なる趣味ではない。茶葉の産地や焙煎の度合い、そして淹れ方の微妙な違いを記録し分析することで、自身の味覚と観察力を磨いていた。
ほどなくして、シルバーニードルが運ばれてきた。透明なティーカップの中で、淡い金色の液体が静かに揺れる。オジェはカップを手に取り、香りを深く吸い込んだ。
「…悪くない。白牡丹のような甘い余韻。けど、茶葉の選別がやや雑だ。もう少し若い芽を選べば、もっとクリアな味わいになったはずだ」
一口含み、彼は目を閉じた。紅茶の味が舌の上でゆっくりと広がっていく。それはまるで、戦場の只中で訪れる一瞬の静寂のように、すべてを忘れさせる瞬間だった。
「へぇ…ファーストフラッシュか。春摘みの軽やかな香りだ。けど、少し水温が高すぎる。九十五度ではなく九十度で淹れていれば、この繊細な葉のニュアンスがもっと引き立っただろうね……」
その声は低く、怜悧な分析を含んでいた。まるで紅茶を飲むことが、犯罪現場を精査する行為であるかのように。オジェは“銀警官”として知られる男だ。戦場では冷酷無慈悲であり、敵の息の根を止めることに一切の躊躇がない。しかし今、私服に身を包み、白金のブレスレットとレリーフ型ペンダントを身につけた姿は、どこか優雅で、都会の風景に自然と溶け込んでいた。プリーツスカート型の前後掛け付きズボンが、風に軽く揺れる。
この街ルミエールは、紅茶愛好家の聖地とも呼ばれる場所だ。古い石畳の通りには、紅茶専門店やカフェが軒を連ね、それぞれが独自のブレンドと淹れ方を競っている。オジェは任務の合間に、この街で「紅茶巡り」を始めていた。それは彼にとって、戦いの緊張を解き、己の感覚を研ぎ澄ますための儀式のようなものだった。
今日の目的地は「ル・ジャルダン・デ・テ」という小さなティーハウス。店内の棚には、セイロン、アッサム、キーマン、そして稀少な白茶まで、瓶に詰められた茶葉がずらりと並ぶ。オジェはメニューを一瞥し、店員に淡々と告げた。
「シルバーニードル。八十五度で三分。茶葉はカップあたり二・五グラム。ミルクも砂糖も不要」
店員は一瞬、圧倒されたように頷き、奥へと引っ込んだ。オジェはクラッチバッグから小さなノートを取り出し、今日の紅茶の感想を記す準備をした。彼にとって紅茶巡りは、単なる趣味ではない。茶葉の産地や焙煎の度合い、そして淹れ方の微妙な違いを記録し分析することで、自身の味覚と観察力を磨いていた。
ほどなくして、シルバーニードルが運ばれてきた。透明なティーカップの中で、淡い金色の液体が静かに揺れる。オジェはカップを手に取り、香りを深く吸い込んだ。
「…悪くない。白牡丹のような甘い余韻。けど、茶葉の選別がやや雑だ。もう少し若い芽を選べば、もっとクリアな味わいになったはずだ」
一口含み、彼は目を閉じた。紅茶の味が舌の上でゆっくりと広がっていく。それはまるで、戦場の只中で訪れる一瞬の静寂のように、すべてを忘れさせる瞬間だった。



