ゲーム世界の悪役貴族に転生した俺、最弱の【闇魔法】が実は最強だったので、破滅回避の為に死ぬ気で鍛えまくっていたら、どうやら鍛えすぎてしまったようです~なぜかメインイベントを俺がクリアしてしまうのだが~

 「シャハぁぁ……ぁ……」

 かろうじて原型をとどめているデゴンの頭部が、最後の言葉を漏らしたのち完全に動かなくなった。

 「ふぅ……」

 俺は一呼吸して、闇の衣を解除する。

 強制的に己の身体能力が飛躍的にアップする魔法か。
 アダマンタイト級の硬度すらものともしない打撃を繰り出せるとは、とんでもない魔法だ。

 が、この手の身体強化をした後に待っているのは……

 「……っ!」

 思わず声を出してしまった。

 体の節々が痛い。魔法とは言え自身に負荷をかけまくっているのは間違いないからな。
 多用はできないな、などと思っていると。

 柔らかいなにかが飛びついてきた。

 「―――うぉ! ぬぐっ……」

 ステラか。
 思いっきり飛びつかれたので、衝撃がすごい。変な声がもれてしまった。


 「アビロス! 最後は決めてくれましたね! やっぱり頼りになります!」
 「ステラも良くやってくれたな」
 「もちろんです! 聖女の名は伊達ではありませんから!」

 ふふんと得意げな顔を寄せてくる聖女さま。

 戦闘内容をしっかりとは確認していないが、デゴン三男相手に随分苦労したのだろう。
 が、しっかり仕事をやってのけた。さすがステラだ。


 「アビロスさま! わ、わたくし……まだ生きています!」

 ステラの次はエリスか。
 ナリサがしっかりサポートしてくれたのだろう、しっかりと2本の足で立っている。

 「ああ、当然だ。これで魔族なんか気にせず学園生活が送れるな」
 「学園生活……楽しんでいいんですね」
 「当たり前だろ。おまえを苦しめた魔族はもういない」

 ゲーム原作にしてみれば、この戦いはひとつのイベントにすぎない。
 だが、エリスからすれば自分の人生が大きく変わる出来事だ。

 彼女は生きのこり、そして未来が開けた。

 原作のメインキャラではないが、彼女がどう成長していくのか。楽しみな仲間が増えたな。


 そして赤毛を揺らして、ズンズンこちらへ向かってくる少女。

 「よ~~し、次はわたしの番だな! ハグしてやるぞ、アビ!!」

 一番ヤバいやつだ。

 「ま、マリーナ気持ちだけでじゅぶん――――――うごぉあああ!!」

 ―――これはハグじゃない!

 体がミシミシいってるぞ! 絞め技にしか思えん!

 「アビ、本当にやったよ。わたしは……わたしは……」

 俺の肩にポロポロとしずくが落ちてくる。

 「そうだな、良かったな―――」

 ようやく目的を達成できたんだ。
 普段のマリーナとはまた違う、可憐な表情をみせたメインヒロイン。
 見た目は華奢な美少女だから合ってるといえば合っているんだが。

 さっきから俺の体のミシミシが止まらん。
 可憐と絞め技は同時発動らしい。

 よし、そろそろ離してくれ…もう限界だ。


 マリーナの絞め技に泡を吹きそうになっていると、残りの3人も寄って来た。

 「「「アビロス君」」っち~~」

 ナリサとウルネラにブレイルか。
 3人も良く踏ん張ってくれた。誰一人として欠けなかったな。

 さて、魔族もぶっ倒したことだし。じゃあ森を出て帰るか―――

 そう言おうとした時に、俺に近寄って来る人影。


 〖よく頑張りましたね、アビロス〗

 なんか、衣を着た天女みたいな人が来た。

 〖やはり聖女ステラの選択に間違いはなかったようです〗
 「はぁ……どうも」
 〖なんですか、気の抜けた返事して! シャキッとなさい!〗


 「えっと……………だれ?」


 〖―――誰って!? どういうことですか! まさか焼肉の件を反故にしようとしてるのですか!〗

 「え? 焼肉??」

 〖とぼけたってダメです! 次は焼肉ですからねっ!〗

 だから誰? 焼肉への執着だけは伝わってくるが。


 状況がよく分からない俺に、ステラが説明してくれた。

 「女神さまだったか。いや、気づかなくてすまない。ステラを助けてくれたこと礼を言う」

 おれも長男と戦闘中だったので、女神が実体化していることまでは把握できてなかったからな。

 〖いえいえ、わたくしもつい取り乱してしまいました。焼肉を反故にされるかと思って。ごめんなさいアビロス。よくぞ魔族をうち滅ぼしました、次は焼肉ですよね?〗

 「お……おう」

 この女神はどうしても焼肉に行きたいらしい。

 肉肉わめく女神をなだめていると、ステラが帰り支度をはじめた。

 「さあ、アビロス。帰りましょう。まだ森の奥地であることに変わりないですし」
 「そうだな、ステラ」

 ステラの言うとおり、まだ魔物の森のど真ん中だ。
 みんな疲れ切っているし。魔力も消耗しているが、ここは出来る限り早めに移動した方が良いだろう。


 が、そこへ予想外な事が起こる。


 「シャハハハ……」

 デゴン長男の声―――!

 崩れかけの頭部が俺たちの方へ視線をむけて、気持ちの悪い笑い声をあげた。


 「―――魔族! まだ息があるのですか!」
 〖聖女ステラ、その魔族の心臓となる核はすでに消失しています。すぐにでも滅するでしょう〗


 「シャハ……そのとおりだぁぁ……だがぁ……おまえたちも……道連れぇぇ……森に飲み込まれろぉぉ
 ……【転移暴走】……シャハァァァ…………」


 「ええ! なにこれアビロっち!」
 「アビロス! 地面が崩れていきます! 底が見えません!」


 なんだこれ! デゴンのやつ無差別に森を転移させたのか!? 
 ステラの言う通り底が見えない。落ちたらおわりだぞこれ。

 〖アビロス、魔族は滅しましたが。最後の魔力を込めて能力を発動したようです!〗

 女神の言うとおり、デゴン自身はすでに頭部も崩れ落ちて塵になっている。
 だがデゴンが消滅しても、能力発動は有効ってことらしい。

 ただし有効範囲が広すぎて、一気にではなく徐々に地面が崩れている。


 しょうがないな……


 「みんな、各自スカートをおさえろ」

 「え? ウソでしょ……アビロス」
 〖どうしたんです? 聖女ステラ? アビロス、女神は純白の衣ですからスカートとかありませんよ〗

 「詳しく説明する暇はない。なんでもいいからおさえとけ」


 やれやれ。


 ――――――アレをやるしかないのか。