魔界ゴミ焼却場で魔物を【焼却】し続けた地味おっさん、人間界に追放されて出来損ない聖女の従者となり魔物討伐の旅に出る。なぜか王国指定のS級魔物が毎日燃やしていたやつらなんだが? これ本当に激ヤバ魔物か?

 おっさんは必死に目を凝らしてじ~~っと見る。


 アースドラゴンてのは茶色トカゲ。
 ミスリルドラゴンは銀色トカゲ。

 やっぱトカゲだ……

 またかよ……これ。
 地上に来た頃に燃やしたレッドドラゴンも赤トカゲだった。

 もしかして地上ではトカゲをドラゴンと呼ぶのか?

 いやいや、そんなわけないだろ。ミスリルなんてSS級の魔物なんだぞ。

 でもどうみても銀トカゲなんだが……


 ダメだ、おっさんちょっと頭痛くなってきた。


 「バートス! ミスリルドラゴンが王子を!」
 『や~~またドラゴンでたのじゃぁああ!』
 「バートスさま~~アンデッドアースドラゴンもこっちくる~~」

 「ぎぃいいい! なにあっさりと食べれてるんですの~~アホ王子ぃいいい!!」

 おっとヤバイ、現場がえらいことになってる。

 今はトカゲ問題を気にしている場合じゃない。

 「おい、ミサディ。王子は婚約者なんだろ? アフロの心配しなくていいのか?」
 「きぃいい! うるさいですわ~~ここまでお膳立てしてやったのにぃいい! クソ王子ぃい!」

 なんだ、ひどい言われようだな。
 王子はこの女に利用されていたのか?

 「バートス! ミスリルドラゴンの動きが!」

 「―――ギシィイイイッ!」

 なんだ? ドラゴンが苦しそうに喉もとをひっかきまわしている。

 『ひぃいい~なんかモゴモゴしてるのじゃ~~』


 ―――ぺっつ!


 んん? ドラゴンの口からなんか出て来た。


 王子だ……

 生きているようだな……べっちょべちょではあるが。


 そしてミスリルドラゴンはというと……腹を抑えて、なんかグッタリしている。


 「うわぁあ~~なんか食あたりぽいよ~~べちょってキモイ~~」
 『ひぃいいドラゴンに消化されない王子、怖いのじゃああ~~』

 王子が不味すぎたのか、アフロがドラゴンの喉にひかかったのか理由はわからんが、王子はペッとドラゴンの口から吐き出された。

 「グハァアア……死ぬかと思ったぜぇえええ!」

 「あああ~~ザーイ殿下ぁああ! ご無事で良かったですわ~~ミサディとっても心配したんですのよ~~」

 さっきまでクソ王子とか言ってなかったか?


 「クソがぁああ! なんで俺様がこんな目に合わないといけないんだ! ミサディ! おっさんどもを始末しろぉお!」
 「はいですわ~~アンデッドアースドラゴン~~やりなさいですわ~~」


 ズンズンと不快な臭気をまき散らしながら、こちらへ向かってくるアンデッドドラゴン。


 「バートス! きます!」
 『やぁああ~~気持ち悪いのきたのじゃ~~』

 わめく聖杖を構えるリズ。


 腐っていようが、蘇ろうが茶トカゲだ。


 「ギャハハハ~~おっさんなんて踏みつぶしてしまぇえ!!」
 「そうですわ~~おっさんなんてプチですわ~~」


 そんな気持ち悪いのこっち来る前に―――

 「―――【焼却】!」


 ――――――ボウっ!!


 「燃やせばよし!」

 アンデッドアースドラゴンとやらは、俺たちの前に到達する間もなく灰となって消えていった。

 この手応え。

 やっぱりこれ茶トカゲだな。


 「はあぁああああ! おいおいおいおい! どうなてっんだよ! アースドラゴンだぞ!?」

 王子がテンパってるようだから俺が教えてやる。

 「いや、それ茶トカゲだぞ」

 「み、ミサディ! どうなってんだよこれ!!」

 「いや、だから茶トカゲだって」

 「なんなんだよ、このおっさん! 意味わかんねぇええええ!!」

 人の話を聞けよ。

 「ふわぁああああ!! ミサディなんとかしろぉお!」
 「ええぇえ……ウソでしょ……アースドラゴン燃えちゃいましたわ……」

 だめだこいつら、全く俺の言う事を聞いていない。

 王子と聖女ミサディが取り乱していると、再び地鳴りが聞こえて来た。


 「ギャァア! ザーイ殿下! ミスリルドラゴンもう一回きましたわぁあああ!」

 さっきまでグッタリしていたドラゴンが回復したのだろうか、猛然とこちらへ突っ込んできた。

 「おいおいおい! こいつ俺様に向かってきてないか!?」

 たしかに、王子一直線に突っ込んでくるな。
 マズイもの食わせやがって的な怒りなのだろうか。


 「クソがぁああ! こうなったらこのザーイ様の究極剣技をみせてやらぁああ!」

 王子がミスリルドラゴンを迎え撃とうと抜刀する。


 「おい! 銀トカゲはまあまあ硬いぞ!」

 「ああ? おっさんがごちゃごちゃ言ってんじゃ――――――ブハッツツツツ!!!」

 ブンっとしなった尻尾にバシッとはたかれる王子。

 強烈な打撃で体が九の字に曲がった王子は、そのまま湖まで吹っ飛ばされていった。

 「ひぃいい~~ザーイ殿下~~でんかぁああ~~~」

 聖女ミサディは叫びながら、王子のあとを追っていく。

 そしてその後を、ミスリルドラゴンが猛烈な勢いで追いかけていく。


 「ああ……討伐対象も行ってしまったじゃないか」


 王子と聖女ミサディはいなくなり。
 ついでにドラゴンも行ってしまった。


 「リズ、どうする? ミスリルドラゴンは行ってしまったぞ」

 「とにかく湖畔に向かいましょう。王国軍が陣を張っているはずです」

 そうか、第三王女がそんなことを言ってたな。王国軍も来ていると。

 「王国軍はドラゴンの住処である湖に注意を向けているはずです。このままでは背後からの奇襲を受けてしまいます!」

 リズは素早くポーションなどのアイテムのみをサイドバックに詰める。

 「たしかに王子はあんな人ですが。ザーイ軍の兵士たちは命令されて動いているだけです。救える命は出来る限り救いたいです」

 「よし、わかったリズ。では俺たちも湖へ急ごう」