魔界ゴミ焼却場で魔物を【焼却】し続けた地味おっさん、人間界に追放されて出来損ない聖女の従者となり魔物討伐の旅に出る。なぜか王国指定のS級魔物が毎日燃やしていたやつらなんだが? これ本当に激ヤバ魔物か?

 俺たちの前に現れたザーイ王子。
 その隣には黒い衣装をまとった聖女ミサディ。

 「ったくクソの役にも立たねぇな~このじじい!」
 「ンフ~~まったくですわ~最強の名も地に落ちたものですわね」

 現れるなり、アルバートを罵倒し始める2人。
 王子の頭がもっさもさと揺れている。

 「バートスさま、モジャモジャがしゃべってるよ~」
 『ほんとなのじゃ~~あんな魔物見たことないのじゃ~』

 「カルラ、エレナ。あれはモジャ魔物じゃない。アフロ王子だぞ」

 「誰がアフロだぁああああ!! こんなんしやがったおっさん、てめぇだけは許さねぇぞ!」

 「アフロ! この件、全部おまえの差し金か!」

 俺はモジャ頭を睨みつける。
 こいつの外道ぶりには心底うんざりしている。

 「グフフ~~そうだ~見事な策だろう。凡人には浮かばんだろうなぁ~~ただし、そこのじじいがクソザコ過ぎたのが予定外だったがなぁあ」

 こいつに人の心は無いのだろうか。
 魔族でもここまでゲスな奴はいないぞ……いや、1人いたかも。俺の元職場に。

 しかし今はかつてのゲス上司を思い返している場合ではない。

 俺はリズに視線を移すと、彼女はすでに聖杖を構えている。
 その瞳には闘志がメラメラと沸き立っており、いつでもかかってこいと言わんばかりの様子だ。

 気合入ってんな、リズ。
 それもそうか、リズはこの王子に散々苦しめれてきたのだから。


 だが、先に動いたのは俺やリズではなかった。

 「お兄様! このようなこと、到底許される所業ではありません!」
 「ああん? ファレーヌか? なんでこんなとこにいやがるんだ」

 「今すぐ投降しなさい! 王都へ戻りお父様に全ての事情をお話します! 覚悟してください!」

 「はあ? なんで俺様が覚悟しなきゃならないんだ?」
 「ンフフ~ザーイ殿下。ファレーヌさまはまだ幼いのですわ。ザーイ様の崇高な行いに理解が追いついていないだけですわ」

 「な、なにを言っているのですか!? あなたがアルバートを陥れたのでしょう! 聖女ミサディ!」

 「おいおい、なに興奮してんだファレーヌ? アルバートは俺様にありがたく使われたんだぞ? まあクソの役にも立たなかったけどな」

 「つ、使われた? な、なにを……」

 「まあまあザーイ殿下。ファレーヌ姫にはあとでわたくしが教育致しますわ~」
 「ほう~~教育か?」
 「ンフフ、わたくしの魔法でたっぷりと殿下の偉大さを教えましょう。自我が無くなるまで~~」
 「そうかそうか~~なら帰りの馬車でたっぷりと可愛がってやるか~~まあおまえは側室の娘、正室の息子である俺様に抱かれる以上の幸福はないだろうからな~~」
 「ああ~~でも正妻はわたくしミサディですからね~~お忘れなく殿下」
 「ギャハハハ~~もちろんだとも、こいつは所詮おもちゃ止まりだからなぁ~~」


 「おもちゃ……!? あなた方……なにをさっきから意味のわからないことを……」


 「うわぁ……バートスさま。あいつゲナン(魔界の副局長)と同じにおいがするよ~~」
 『控え目に言ってもクズなのじゃ~~』

 カルラとエレナの言う通りだ……
 こいつは本当に救いようがないな。

 「姫さん! そいつに何を言っても無駄だと思うぞ」

 ゲナン副局長と同種だからな。まったくコミュニケーションが成り立たない。

 「ファレーヌさま、こちらへ。あとは私たちにお任せください」

 リズが固まっていた第三王女の手を引いて後ろに誘導する。


 「ンフフ~ザーイ殿下~~さっさと終わらせましょう」

 「グフフ、そうだなぁ。俺の頭をこんなにしたおっさんと出来損ない聖女~~お前らを始末しないとなぁああ!」


 「リズ、王子は強いのか?」
 「彼が戦っているところを見たことがありませんので、なんとも」

 「ええ~~あのアフロどうみても弱そうだよ~」
 『われもそう思うのじゃ。魔力もこれっぽちも感じられんし』

 「たしかに小物感しかしませんが油断はしないでください。卑劣な手は一級品ですから」

 たしかに……

 「はあ? なんで俺様が貴様らごときに動くんだ? 相変わらず下民どもは俺様への言葉使いがなっちゃいねぇな~~ミサディ!」


 「はいですわ~~。いらっしゃ~~い!」


 ミサディの言葉が響くと、ズンズンと地面が揺れはじめた。

 何かが近づいてくる!


 「―――ギシュエエエエエエ!」


 あたりに響く不気味な咆哮。
 森がメキメキと悲鳴を上げて暗がりから何かが出て来た。


 「こ、これは……ドラゴン?」

 リズが驚きの声を上げる。

 「うわぁあなんか腐ってるけどぉ~~気持ち悪いよ~~」
 『臭いのじゃぁ! これアンデッドじゃなあ~~』


 「ンフフ~~そうですわ~~王国軍総出で討伐したアースドラゴンの死体を保管しておいて良かったですわ~~」

 「くっ……アンデッド化したコカトリスもあなたの仕業ですね! それにアルバート先生への仕打ちも……なんて卑劣なの」

 リズがミサディを睨みつける。
 その視線を受けて、ミサディはやれやれといった仕草でため息をついた。

 「ンフフ~~わたくし多彩な魔法が使えますの~あなたのような出来損ないと違って」

 「なにが多彩な魔法ですか! 闇魔法を悪用しているくせに!」


 「はあぁ……。リズよ、おまえは救いようのないアホだなぁ。俺様のミサディが闇魔法なんて使うわけないだろうが。ミサディは聖女なんだぞ!」

 胸を張り、得意げにフフンと鼻息を鳴らす王子。

 んん? ちょっとまて!

 アルバートに使った制約てのは闇魔法なんだろ?
 ていうか目の前にいる魔物は、ミサディの闇魔法でアンデッド化されたんじゃないのか。

 「ミサディは死んだ生物を生き返らせたんだぞ! どこが闇魔法なんだ? これ以上聖女っぽい魔法があるかよ! これだから下民どもは学がないぜ!」

 「まあまあ、このような者たちに殿下のような高い理解力はありませんわ~」
 「そうだなミサディ。こいつら全員アホすぎるからなぁ~~」

 グフフ、ムフフと2人の笑いがその場に響き渡る。

 ヤバいな、何を言ってるのか良く分からんぞ。

 そんな意味不明なやり取りが繰り広げられる最中に……
 なんか地面が若干揺れたような気がする。

 ズン!

 「さすが俺の聖女ミサディだぜ! さあぁ~~茶番は終りだぁ! 全員ドラゴンに殺されやがれぇ! ギャハハハ!!」

 ―――ズン!

 「ああ? どうした?」

 ―――ズズン!

 「おい? ミサディまでなに固まってんだ?」

 「で、殿下……う、う、うしろ」
 「ああ? うしろって……」


 あ、なんかいる。


 「あ、あれはミスリルドラゴン……!?」
 「ええぇ、デカくない? あのドラゴン~~」
 『ひえぇえええ、で、で、でたのじゃぁ。リ、リズ逃げるのじゃ~~』


 んん? ミスリルドラゴンだと?


 「――――――なんじゃこりゃぁああ! はべぶっ!!」


 ―――パクッ!


 ザーイ王子は頭から根元まで、かぶりつかれた。

 おい! アフロ王子が食べられたぞ!?

 「ギャァアアア! ザーイ殿下~~でんかぁかあ~~でんかぁあああ!!」

 激しく取り乱す聖女ミサディ。

 アースドラゴンってやつが出てきて。
 さらに、ミスリルドラゴンてのが出てきて、
 王子がパクっといかれた。

 目まぐるしく変わる状況になかなか整理が追い付かない。


 だが、ちょっと待って欲しい。

 おっさんは別の疑問が湧いている。

 ひょっとして。


 ここにいるやつら全部――――――トカゲじゃないのか?