「ふぅ……」
アルバートが腰を上げて、一呼吸置いた。
ある程度は回復したのだろう。
ただし警戒は怠らない。
どんな理由があったか知らんが、いきなり炎をぶっ放してきたのだ。
カルラも同様に警戒を解いてはいない。角と尻尾はつけたままだからな。
しばしの間静寂の時が流れる。
が、その静寂を破って声が聞こえててきた。
「ま、待ちなさい! いますぐ争いをやめなさい!」
んん? 誰だ?
1人の美少女が息を切らせて駆けてくる。
こんなところに場違いなドレスを揺らして。
そしてその少女の横にはメイド服を着た女性。
「ひ、姫さま……護衛も付けずに。ハァハァ……勝手に飛び出して……」
姫様と呼ばれる美少女。
どこかでみたような……
ああ! そうだ思い出した! リズの友達の姫か。
たしか王国の第三王女だったか。
「ああ……止められなかったリズ」
焼けこげた草原とアルバートを見て、がっくりと力を落とす姫。
「ファレーヌさま……どうしてここに?」
第三王女は息を整えながら少しずつ話をはじめた。
ザーイ王子がなにかしら企んでいるということ。
ミスリルドラゴンの討伐に軍を動かしたこと。
そして本来、王子の指示では動かないはずのアルバートが同行していたことに違和感を覚えたこと。
どうやら第三王女は、そのことを伝えにきたようだ。
伝達手段が限られており、王子の軍に同行するていを装って。
まあすでにことは起こってしまったのだが。
「ということはザーイ王子の軍勢も付近にいるのですね」
「ええリズ、少し離れたところに陣を張っていますの」
第三王女はコッソリ抜け出してきたらしい。
よく見れば彼女のドレスはところどころ破けている。
けっこう無茶をしたんだろう。
「ファレーヌ様、リズロッテ殿……」
ここでずっと沈黙していたアルバートが口をひらいた。
「わしはザーイ殿下の脅しに屈したのです……情けない」
話の流れからしてアルバートも王子の差し金である可能性は高かったが、やはりか。
アルバートの話を聞くと、どうやら魔法学園に通っている孫を人質に取られているそうだ。
といっても監禁されているわけではないという。
「闇魔法です。あのミサディという聖女がわしの孫に近づき、闇の制約をかけたのです」
簡単に言うと、術者の指示に従わなければ孫の首が飛ぶ。
そんな制約らしい。
シンプルだが使いようによっては絶大な効果を誇る魔法だな。
「それであんたが命令された内容が、俺たちの抹殺か」
「ああ、そうじゃ……」
えげつない事をしやがる。
「信じられません……お兄様はなぜそのようなことができるのでしょうか……」
第三王女が思わず口に手をあてる。
「どうしても未来ある孫を助けたかった……」
「先生は勝っても負けても毒薬を飲むつもりでしたね」
アルバートから取り上げた小瓶を手に、彼を見るリズ。
「……当然じゃ。孫のためとはいえ人としてはやってはならんことするのじゃ。ケジメはつけんといかん」
「たしかに、いかなる理由であれ罪は罪です。償いはしっかりしてもらいます。ですが、死んでしまったら何もできないですよ」
「じゃが、わしはリズロッテたちを本気で殺そうとしたのじゃぞ! もうこれしか解決方法がなかったんじゃ……」
「そんな解決の仕方、私の先生ならしません」
「じゃが……闇魔法の解除方法はわからんのじゃぞ」
「少なくとも私の知っている先生は、そんなことじゃ諦めませんよ。だれもが見捨てた私に魔法を教えてくれた先生なら」
リズの真剣な眼差しがアルバートを射抜く。
「ふぅ……リズロッテは本当に成長したな。じゃが……もう時間切れじゃ」
「時間切れ?」
「そうじゃ、この闇魔法は時間制限もかけられている。今日がその期限じゃ。期限が来ればわしにつけられた刻印が発動して、孫もろとも首が飛ぶ」
「そうなんですか……でも今日の夜中までにまだなにか出来ることがあるはず」
リズは最後まで諦めない。
「で、その刻印ってのはどこについてるの~~?」
カルラがひょこっと会話に入ってきた。
「うむ、黒いお嬢さん、わしの首に黒い輪がついていおるじゃろう。これが刻印じゃ」
んん?
「この黒い輪が孫とつながっておるのじゃ」
黒い輪?
「だからこの黒い輪じゃ……リズロッテ? 姫様も? なにを見て……」
「いや、なんもついてないよ~~」
カルラの言う通りだ。
なんもついてないけど。
俺だけかと思ったが、みんな黒い輪などは見えていないようだ。
「ああ……忘れてました。バートスの炎はすべてを燃やすってこと」
「まあバートスさまの炎はちょっとね~」
リズとカルラが若干呆れ気味な声をだす。
「馬鹿な……制約の元である刻印を消せば闇魔法は打ち消される。だからこそ、ありとあらゆる魔法や魔道具を試したというのに……なにをやっても消えなかった刻印だぞ……」
え? なに? おっさんいらんことした?
「な、なんという。孫を救ってくれた。貴殿は命の恩人だ……」
アルバートのじいさんもなんか言い出した。
「わたくしからもお礼申し上げます。アルバート先生を救ってくれて感謝します」
「バートス、やりましたね。やっぱりあなたは最高の従者です」
美少女2人が満面の笑みで俺の両手を掴んでくる。
そうか、まあおっさん役に立ったようだな。
とにかくじいさんの孫は救われたようだ。良かったよ。
その後、アルバートのじいさんを介抱する、リズと第三王女。
2人にとって大事な存在なのだろう。最悪の事態は避けられたことを喜び合っている。
「ああぁあ~~んだこの茶番はよぉおお」
そんな、少し和んだ空気を聞き覚えのある声が切り裂いた。
「な~~にが王国最強だよ。この役立たずじじいがよぉおお! この俺様にくっさいシーン見せてんじゃねぇ!」
ザーイ王子だ。
なるほど、すべての元凶のご登場か。
アルバートが腰を上げて、一呼吸置いた。
ある程度は回復したのだろう。
ただし警戒は怠らない。
どんな理由があったか知らんが、いきなり炎をぶっ放してきたのだ。
カルラも同様に警戒を解いてはいない。角と尻尾はつけたままだからな。
しばしの間静寂の時が流れる。
が、その静寂を破って声が聞こえててきた。
「ま、待ちなさい! いますぐ争いをやめなさい!」
んん? 誰だ?
1人の美少女が息を切らせて駆けてくる。
こんなところに場違いなドレスを揺らして。
そしてその少女の横にはメイド服を着た女性。
「ひ、姫さま……護衛も付けずに。ハァハァ……勝手に飛び出して……」
姫様と呼ばれる美少女。
どこかでみたような……
ああ! そうだ思い出した! リズの友達の姫か。
たしか王国の第三王女だったか。
「ああ……止められなかったリズ」
焼けこげた草原とアルバートを見て、がっくりと力を落とす姫。
「ファレーヌさま……どうしてここに?」
第三王女は息を整えながら少しずつ話をはじめた。
ザーイ王子がなにかしら企んでいるということ。
ミスリルドラゴンの討伐に軍を動かしたこと。
そして本来、王子の指示では動かないはずのアルバートが同行していたことに違和感を覚えたこと。
どうやら第三王女は、そのことを伝えにきたようだ。
伝達手段が限られており、王子の軍に同行するていを装って。
まあすでにことは起こってしまったのだが。
「ということはザーイ王子の軍勢も付近にいるのですね」
「ええリズ、少し離れたところに陣を張っていますの」
第三王女はコッソリ抜け出してきたらしい。
よく見れば彼女のドレスはところどころ破けている。
けっこう無茶をしたんだろう。
「ファレーヌ様、リズロッテ殿……」
ここでずっと沈黙していたアルバートが口をひらいた。
「わしはザーイ殿下の脅しに屈したのです……情けない」
話の流れからしてアルバートも王子の差し金である可能性は高かったが、やはりか。
アルバートの話を聞くと、どうやら魔法学園に通っている孫を人質に取られているそうだ。
といっても監禁されているわけではないという。
「闇魔法です。あのミサディという聖女がわしの孫に近づき、闇の制約をかけたのです」
簡単に言うと、術者の指示に従わなければ孫の首が飛ぶ。
そんな制約らしい。
シンプルだが使いようによっては絶大な効果を誇る魔法だな。
「それであんたが命令された内容が、俺たちの抹殺か」
「ああ、そうじゃ……」
えげつない事をしやがる。
「信じられません……お兄様はなぜそのようなことができるのでしょうか……」
第三王女が思わず口に手をあてる。
「どうしても未来ある孫を助けたかった……」
「先生は勝っても負けても毒薬を飲むつもりでしたね」
アルバートから取り上げた小瓶を手に、彼を見るリズ。
「……当然じゃ。孫のためとはいえ人としてはやってはならんことするのじゃ。ケジメはつけんといかん」
「たしかに、いかなる理由であれ罪は罪です。償いはしっかりしてもらいます。ですが、死んでしまったら何もできないですよ」
「じゃが、わしはリズロッテたちを本気で殺そうとしたのじゃぞ! もうこれしか解決方法がなかったんじゃ……」
「そんな解決の仕方、私の先生ならしません」
「じゃが……闇魔法の解除方法はわからんのじゃぞ」
「少なくとも私の知っている先生は、そんなことじゃ諦めませんよ。だれもが見捨てた私に魔法を教えてくれた先生なら」
リズの真剣な眼差しがアルバートを射抜く。
「ふぅ……リズロッテは本当に成長したな。じゃが……もう時間切れじゃ」
「時間切れ?」
「そうじゃ、この闇魔法は時間制限もかけられている。今日がその期限じゃ。期限が来ればわしにつけられた刻印が発動して、孫もろとも首が飛ぶ」
「そうなんですか……でも今日の夜中までにまだなにか出来ることがあるはず」
リズは最後まで諦めない。
「で、その刻印ってのはどこについてるの~~?」
カルラがひょこっと会話に入ってきた。
「うむ、黒いお嬢さん、わしの首に黒い輪がついていおるじゃろう。これが刻印じゃ」
んん?
「この黒い輪が孫とつながっておるのじゃ」
黒い輪?
「だからこの黒い輪じゃ……リズロッテ? 姫様も? なにを見て……」
「いや、なんもついてないよ~~」
カルラの言う通りだ。
なんもついてないけど。
俺だけかと思ったが、みんな黒い輪などは見えていないようだ。
「ああ……忘れてました。バートスの炎はすべてを燃やすってこと」
「まあバートスさまの炎はちょっとね~」
リズとカルラが若干呆れ気味な声をだす。
「馬鹿な……制約の元である刻印を消せば闇魔法は打ち消される。だからこそ、ありとあらゆる魔法や魔道具を試したというのに……なにをやっても消えなかった刻印だぞ……」
え? なに? おっさんいらんことした?
「な、なんという。孫を救ってくれた。貴殿は命の恩人だ……」
アルバートのじいさんもなんか言い出した。
「わたくしからもお礼申し上げます。アルバート先生を救ってくれて感謝します」
「バートス、やりましたね。やっぱりあなたは最高の従者です」
美少女2人が満面の笑みで俺の両手を掴んでくる。
そうか、まあおっさん役に立ったようだな。
とにかくじいさんの孫は救われたようだ。良かったよ。
その後、アルバートのじいさんを介抱する、リズと第三王女。
2人にとって大事な存在なのだろう。最悪の事態は避けられたことを喜び合っている。
「ああぁあ~~んだこの茶番はよぉおお」
そんな、少し和んだ空気を聞き覚えのある声が切り裂いた。
「な~~にが王国最強だよ。この役立たずじじいがよぉおお! この俺様にくっさいシーン見せてんじゃねぇ!」
ザーイ王子だ。
なるほど、すべての元凶のご登場か。

