魔界ゴミ焼却場で魔物を【焼却】し続けた地味おっさん、人間界に追放されて出来損ない聖女の従者となり魔物討伐の旅に出る。なぜか王国指定のS級魔物が毎日燃やしていたやつらなんだが? これ本当に激ヤバ魔物か?

 アルバートの魔法と俺の放つ【焼却】が激突した。

 炎と炎の衝突である。

 「なんですかこれ! バートスの【焼却】と互角!?」
 「す、すご~い……こんな人間がいるんだ……」
 『ひぇえええ。あちぃいのじゃ~~もうここやだ~~』


 リズたちが騒いでいるようだが、俺は正面の敵に集中する。

 「最終火炎魔法(ラストファイアーボール)、高純度の魔力を極限まで練り込んだわしの最大最高の魔法。これで決める!!」

 鬼のような形相で言い放つアルバート。
 何があろうとこれで決めるという強い意志のこもった声だ。

 アルバートの言う通り、今までの彼の炎とは違う。
 炎の質が違うのだ。ただの寄せ集めの炎ではない。

 ずっと炎を扱ってきたから、良く分かる。


 俺のいた魔界のゴミ焼却場では様々な魔物が送られてくる。

 固いやつもいれば、ぬるぬるのスライム。はたまた空気のような魔物。

 同じ炎を使ってもいいんだが、それだと効率が悪い。
 それ一体を燃やせば今日の仕事は終わり。という訳にはいかないからだ。

 大物数体を燃やす日もあれば、小物を数千と燃やす日もある。
 そして明日も明後日も仕事は続くのだ。

 ただただ、ポケーっと燃やしていると、翌日に無用な疲れを重ねてしまう。
 それでは長く仕事を続けることは難しい。

 だから俺が【焼却】を使用する際は必ず調整する。

 炎の密度や熱量、それに範囲など。

 ただし俺の場合はアルバートのように魔法や術式によって制御はしていない。
 ていうかそんな細かい理屈はわからん。

 長年【焼却】しかやってこなかったから、炎については見ればだいたいわかる。
 そして、制御については……


 ―――気合いだ。


 おっさんは気合で調整する。

 かつて俺に【焼却】を教えてくれた親父から叩き込まれた調整法だ。

 気合の入れようにより炎ってのは燃え方が変わる。

 具体的に言えば力んだら炎の威力が上がる。
 さらに力み方にも色々あるのだが、もう感覚だからうまく言えない。

 魔界のゴミ処理場はひっきりなしに魔物が運ばれてくる。だから細かい理屈などで制御している暇などない。「直感でやれるようになれ!」それが親父の教えだ。

 ただし地上(人間界)に来てからは、その調整がそれほどうまくいかないだけどな。

 俺の感覚は合っているはずなんだが、なぜか想像以上の威力になってしまうのだ。
 あと力みすぎると俺自身が燃えてしまうのも、地上(人間界)ならではのネックとなっている。


 炎と炎が激突するなか、相対するアルバートが口を開いた。


 「わしの最終火炎魔法(ラストファイアーボール)でも押し切れんか……とんでもないな」


 たしかに、今のアルバートの炎の濃さは俺の【焼却】と変わらない。
 地上(人間界)に来てからこんな炎は初めて見たな。

 トカゲや宮廷魔導士とやらの炎はあきらかに薄くて軽かったからな。

 俺とアルバートの炎は拮抗しており膠着状態である。

 う~~ん、このままだと勝負がつかないぞ。

 よし―――


 おっさん、ちょっと力んでみるかな。


 俺は下腹に力を入れる。

 グッ―――


 ――――――ボボウッ!!


 「―――がっ!! なんじゃと!? ブハっ!!」


 あれ? アルバートのじいさんが……

 俺の炎が彼の炎を飲み込んで、そのままアルバートは吹っ飛んでしまった。


 しまった。力みすぎた……。


 クソ、この調整が未だにつかめん。

 やはり地上は調整が難かしい。



 ◇◇◇



 吹っ飛ばされたアルバートの元へ行くと、彼はその顔を持ち上げてこちらを見る。
 もはや立ち上がる力も残っていない様子だ。

 アルバート……やはり調子が良くなかったのだろう。そもそもじいさまだし。
 だが、無理を押してまで俺たちに挑んできた。


 「見事だ……バートス殿……もはやここまでか……」

 アルバートはそう呟くと、小瓶を取り出して口に含もうとする。


 ―――が、その手を綺麗な手が掴む。


 「それは毒薬ですね。飲ませるわけにはいきませんよ」

 リズだ。

 彼女はアルバートから小瓶を取り上げて、ふぅと額の汗をぬぐった。

 「リズロッテ……勝敗はついた……死なせてくれ」

 「それはできません」

 「なぜ……だ? わしは……問答無用で襲い掛かった……のじゃぞ。わしには……もはや生きている価値もないのだ……」

 「うるさいですよ先生。そんなに飲みたいならこっちにしてください」

 リズは自分が取り出した別の小瓶をアルバートの口にズボッと突っ込む。


 「うむっ……げ、ゲホっ……!?」


 「おいたはダメです。全部飲んでください」

 小瓶をグリグリ突っ込む聖女リズ。
 うわぁ……容赦ないな。

 「むう? これは……」

 アルバートの顔に少しづつ精気が戻っていく。

 「ハイポーションですよ。それ高かかったんですからね、心して飲んでください」

 リズはニコニコしながらも、その奥に決意を込めた瞳を宿している。

 観念したようにアルバートは残りのポーションを飲み干した。


 「ふぅ……よもや聖女にポーションを飲ませられるとは」

 飲み終わったポーションのカラ瓶をみて、アルバートがぼそりと呟く。

 「はい。だって私、治癒魔法が使えない聖女ですから」

 「はは……治癒魔法の使えん聖女か……」

 リズの言葉を聞いて、少し口角が緩んだじいさん。


 アルバートの表情には、先ほどまでの鬼気迫る迫力は無くなっていた。