バートスは私の危機を救ってくれました。
でも私にはなにも返せるものがなかった。
なので聖杖をバートスに渡しました。もうそれぐらいしか出来ないから。
聖杖は聖女にとって重要なものです。教会で清められて、私のために作られたものです。
普通の聖女なら手放さないでしょう。
自分でも浅はかな行動だってことはわかっています。
でも―――
私は出来損ないの聖女。
だから、私にはあってもなくてもいいものなんです。
どのみち私には未来もない。
ですがバートスは、私の聖杖を突き返してきました。
私が持つべきものだと言って。
さっさと売ってお金にすればいいだけなのに。
「なんだかわからんけど事情があるのだろう? おっさんに話してみろ」
ええ? なに言ってるんですかこの人?
私の事情なんて聞いてどうするんですか?
聖女なのにこんなボロボロの法衣で、本来いるはずのお供も1人もいないし。
世間の人は誰も私と関わろうとしないのに。
そんな私の心の叫びには一切かまわず、ニッコリと微笑むバートス。
でもこの人、なんだか温かい目をしています。
私の話を聞いて、あざ笑ってやろうという人の目ではありません。
うまく言えないけどなんだか他の人とは違う……気がします。
でも……ここ数年ずっとまともな会話をしていなかったので、すぐには言葉が出てきません。
「―――ふむ話しにくいか。なら俺の方から先に話そう」
私が黙っていると、なんか語りだしました。
「実はな……俺はつい最近仕事を失った……。36のおっさんを雇ってくれるところを探しているんだ」
「そうなんですね……」
なんでこんなことを私に話すのでしょう?
私に話してもなにも解決しないと思うけど。
「頼む! なんでもいいから俺に仕事を紹介してくれ!」
「えと? あの……」
「聖女って凄い人なんだろ! 死んだ親父が言ってたぞ!」
「それは……」
バートスが真剣な眼差しを送ってきます。必死です。
というか、私の話を聞くんじゃないんですか? もう完全に忘れてますよね?
でもとっても切実な顔をしています。
こんな顔を向けられたのは久しぶりです。
「バートスは、なにができますか?」
とりあえずお礼になるかはわかりませんが、聞くだけ聞いてみましょう。
「燃やせるぞ!」
「そうですね、あれほどの火魔法を使えるなら王国の魔法師団に入るとか、魔法学園に行く(教師になる)とか」
「むう……それは町の人にも言われた。だが、基礎から学んでいる時間は俺にはない。早急に職に就いて金を得ないと! 餓死してしまうんだ!」
基礎から学ぶ? 良く分からないですが、すぐにお金が欲しいってことですかね。まあ確かに魔法師団や魔法学園で雇われるのは、ある程度の時間はかかるかもしれないですね。
「では、食堂などはどうでしょう? 厨房には火がいるでしょうし」
「それは、ダメだった(窯を溶かしてしまって)」
「う~~ん、では鍛冶屋はどうですか? あそこは年中火が必要ですし」
「そこも、ダメだった(鉄をドロドロの水にしてしまい)」
そうなんですね……けっこう色々ダメだったんですね。
「バートスは、他になにかできますか?」
「燃やせるぞ!」
「えと、それは知っています。燃やす以外になにかありますか? 他人には無い経験があるとか?」
「う~~~ん、いやまあ決定的に違う特徴はあるんだが……いや……しかし」
「あるんですね。ではそれが解決の糸口になるかもしれません。教えてください」
真剣にウンウン悩むバートス。
にしてもこんなに人と会話したのは、いつぶりでしょう?
私の言葉にここまで真剣になってくれる人がまだいたんですね。
「うむ……実はな……」
「はい、心配しなくても誰にも話しません。というか、誰も私には話そうとはしませんよ」
意を決したようにバートスは私に視線を合わせます。
初めは変わった人かと思いましたが、切実な悩みを持った普通の人なんですね。
「俺は魔界から来たんだ」
――――――はい?
あ、やっぱりヤバイ人かもしれません……
「魔界って、魔族が住んでいると言われる世界ですか?」
「そうだ。俺はそこから来た。というか追放されたんだ」
「追放……。バートスも魔族なのですか? あまりそのようには見えないですが」
「いや、俺は人間だよ。赤ちゃんの時に魔族に拾われたんだ。その魔族が俺の育ての親だ」
そして、バートスが魔界のゴミ焼却場を解雇されたこと。人間界の知識は育ての親から教えてもらったなど色々と話してくれました。
かなり衝撃的な内容なので、まだ理解の追いつかない部分はたくさんありますが……
バートスが嘘を言っているようには感じなかった。
終始真剣に話しているのは分かりますし、私を馬鹿にしているようにも見えません。
「ちなみにバートスの【焼却】というのは魔法ではないのですか?」
「うむ、魔法ではない。魔族の固有能力だ。魔力を使用する点は同じだが、魔法のような詠唱は不要だ」
「でもバートスは人間なのですよね?」
「そうだな、リズの言う通り俺は人間なのだ。理由はわからんが6歳から【焼却】を使えるようになったんだ。俺がずっと魔界で育ったからかもしれん」
私は改めてバートスを頭の上からから足のつま先まで、じっと見た。
たしかに、人間にしか見えません。
「リズ、俺は本当に人間だぞ。魔族の特徴である角や魔族の尻尾がないからな」
バートスが髪の毛をかきあげて、角がない事をアピールする。
「尻尾がない事はズボンをおろさねばならん。が、そんなことはできんから信用してもらうしかない」
「ええ……もちろんです。別に疑っていませんから」
「どうだ、この情報は何かの役に立つか?」
う~~ん、どうでしょう。
まさか、俺は魔界から来たとか言うとは思わなかったから。
「そ、そうですね。今は浮かびません。あとでじっくり考えましょう。とりあえず魔界から来たという事は隠しておいた方がいいです」
「そうか……リズをもってしても難しいか……厳しい世界だ」
あ、バートス落ち込んでしまいました。
と思ったら。次の瞬間、急に飛び上がりました。
え? 今度はなに?
この人の行動が全然読めないです。
「リズ! なんだこの匂いは!!」
「ああ、移動屋台の馬車ですね。おそらく町の営業終りで隣町に移動するのでしょう」
街道をこちらへ向かってくる馬車。たしかにそこからいい匂いが漏れている。
「あれはたこ焼き屋台ですね。わずかばかりの小銭ならあります。食べてみますか?」
「おお! いいのか!! 食べる! 食べたい!!」
おじさん今日一番の興奮ですね。
「早く! リズ早く!! 馬車が行ってしまうぞ!」
「はいはい、焦らなくても大丈夫ですよ」
にしても誰かと食事だなんて、久しぶりですよ。
でも私にはなにも返せるものがなかった。
なので聖杖をバートスに渡しました。もうそれぐらいしか出来ないから。
聖杖は聖女にとって重要なものです。教会で清められて、私のために作られたものです。
普通の聖女なら手放さないでしょう。
自分でも浅はかな行動だってことはわかっています。
でも―――
私は出来損ないの聖女。
だから、私にはあってもなくてもいいものなんです。
どのみち私には未来もない。
ですがバートスは、私の聖杖を突き返してきました。
私が持つべきものだと言って。
さっさと売ってお金にすればいいだけなのに。
「なんだかわからんけど事情があるのだろう? おっさんに話してみろ」
ええ? なに言ってるんですかこの人?
私の事情なんて聞いてどうするんですか?
聖女なのにこんなボロボロの法衣で、本来いるはずのお供も1人もいないし。
世間の人は誰も私と関わろうとしないのに。
そんな私の心の叫びには一切かまわず、ニッコリと微笑むバートス。
でもこの人、なんだか温かい目をしています。
私の話を聞いて、あざ笑ってやろうという人の目ではありません。
うまく言えないけどなんだか他の人とは違う……気がします。
でも……ここ数年ずっとまともな会話をしていなかったので、すぐには言葉が出てきません。
「―――ふむ話しにくいか。なら俺の方から先に話そう」
私が黙っていると、なんか語りだしました。
「実はな……俺はつい最近仕事を失った……。36のおっさんを雇ってくれるところを探しているんだ」
「そうなんですね……」
なんでこんなことを私に話すのでしょう?
私に話してもなにも解決しないと思うけど。
「頼む! なんでもいいから俺に仕事を紹介してくれ!」
「えと? あの……」
「聖女って凄い人なんだろ! 死んだ親父が言ってたぞ!」
「それは……」
バートスが真剣な眼差しを送ってきます。必死です。
というか、私の話を聞くんじゃないんですか? もう完全に忘れてますよね?
でもとっても切実な顔をしています。
こんな顔を向けられたのは久しぶりです。
「バートスは、なにができますか?」
とりあえずお礼になるかはわかりませんが、聞くだけ聞いてみましょう。
「燃やせるぞ!」
「そうですね、あれほどの火魔法を使えるなら王国の魔法師団に入るとか、魔法学園に行く(教師になる)とか」
「むう……それは町の人にも言われた。だが、基礎から学んでいる時間は俺にはない。早急に職に就いて金を得ないと! 餓死してしまうんだ!」
基礎から学ぶ? 良く分からないですが、すぐにお金が欲しいってことですかね。まあ確かに魔法師団や魔法学園で雇われるのは、ある程度の時間はかかるかもしれないですね。
「では、食堂などはどうでしょう? 厨房には火がいるでしょうし」
「それは、ダメだった(窯を溶かしてしまって)」
「う~~ん、では鍛冶屋はどうですか? あそこは年中火が必要ですし」
「そこも、ダメだった(鉄をドロドロの水にしてしまい)」
そうなんですね……けっこう色々ダメだったんですね。
「バートスは、他になにかできますか?」
「燃やせるぞ!」
「えと、それは知っています。燃やす以外になにかありますか? 他人には無い経験があるとか?」
「う~~~ん、いやまあ決定的に違う特徴はあるんだが……いや……しかし」
「あるんですね。ではそれが解決の糸口になるかもしれません。教えてください」
真剣にウンウン悩むバートス。
にしてもこんなに人と会話したのは、いつぶりでしょう?
私の言葉にここまで真剣になってくれる人がまだいたんですね。
「うむ……実はな……」
「はい、心配しなくても誰にも話しません。というか、誰も私には話そうとはしませんよ」
意を決したようにバートスは私に視線を合わせます。
初めは変わった人かと思いましたが、切実な悩みを持った普通の人なんですね。
「俺は魔界から来たんだ」
――――――はい?
あ、やっぱりヤバイ人かもしれません……
「魔界って、魔族が住んでいると言われる世界ですか?」
「そうだ。俺はそこから来た。というか追放されたんだ」
「追放……。バートスも魔族なのですか? あまりそのようには見えないですが」
「いや、俺は人間だよ。赤ちゃんの時に魔族に拾われたんだ。その魔族が俺の育ての親だ」
そして、バートスが魔界のゴミ焼却場を解雇されたこと。人間界の知識は育ての親から教えてもらったなど色々と話してくれました。
かなり衝撃的な内容なので、まだ理解の追いつかない部分はたくさんありますが……
バートスが嘘を言っているようには感じなかった。
終始真剣に話しているのは分かりますし、私を馬鹿にしているようにも見えません。
「ちなみにバートスの【焼却】というのは魔法ではないのですか?」
「うむ、魔法ではない。魔族の固有能力だ。魔力を使用する点は同じだが、魔法のような詠唱は不要だ」
「でもバートスは人間なのですよね?」
「そうだな、リズの言う通り俺は人間なのだ。理由はわからんが6歳から【焼却】を使えるようになったんだ。俺がずっと魔界で育ったからかもしれん」
私は改めてバートスを頭の上からから足のつま先まで、じっと見た。
たしかに、人間にしか見えません。
「リズ、俺は本当に人間だぞ。魔族の特徴である角や魔族の尻尾がないからな」
バートスが髪の毛をかきあげて、角がない事をアピールする。
「尻尾がない事はズボンをおろさねばならん。が、そんなことはできんから信用してもらうしかない」
「ええ……もちろんです。別に疑っていませんから」
「どうだ、この情報は何かの役に立つか?」
う~~ん、どうでしょう。
まさか、俺は魔界から来たとか言うとは思わなかったから。
「そ、そうですね。今は浮かびません。あとでじっくり考えましょう。とりあえず魔界から来たという事は隠しておいた方がいいです」
「そうか……リズをもってしても難しいか……厳しい世界だ」
あ、バートス落ち込んでしまいました。
と思ったら。次の瞬間、急に飛び上がりました。
え? 今度はなに?
この人の行動が全然読めないです。
「リズ! なんだこの匂いは!!」
「ああ、移動屋台の馬車ですね。おそらく町の営業終りで隣町に移動するのでしょう」
街道をこちらへ向かってくる馬車。たしかにそこからいい匂いが漏れている。
「あれはたこ焼き屋台ですね。わずかばかりの小銭ならあります。食べてみますか?」
「おお! いいのか!! 食べる! 食べたい!!」
おじさん今日一番の興奮ですね。
「早く! リズ早く!! 馬車が行ってしまうぞ!」
「はいはい、焦らなくても大丈夫ですよ」
にしても誰かと食事だなんて、久しぶりですよ。

