◇ザーイ第二王子視点◇


 「次はミスリルドラゴンの討伐だと? クソッ、調子に乗りやがって!」

 俺は王城の自室にて、出来損ない聖女リズの手紙をグシャと潰した。

 あの女からの通信はすべて俺様が握り潰している。
 のだが……あの出来損ないめ。急にバンバン討伐しやがって。

 いったいどうなってやがる。

 「クソ~~父上が領地視察に行って不在とはいえ、そろそろ誤魔化しきれんぞ……」

 なんか手を打たねぇと。

 「ンフフ~~ザ~イさま。聖女リズたちはミスリルドラゴン討伐に向かうのですね?」

 スッと俺の横に現れた聖女ミサディ。

 「ああ、そうだ」

 「でしたら、ここで決着をつけるのです」
 「決着をつけるだと?」
 「はい、リズ一行を始末するのですわ」

 「ふむ……しかしあからさまに始末はできんぞ」

 「ミスリルドラゴンはSS級の強力な魔物、討伐に失敗したことにしてしまえばいいのですわ」

 「おお! なるほど!」

 「さらに、我々でミスリルドラゴンを討伐してしまいましょう。大軍を動員するのですわ。王子の権力で」

 「うむうむ!」

 「聖女リズが討伐出来なかった魔物を我々が討伐する。これで王子とわたくしの実績と人気は不動のものになるでしょう」

 さすが俺の聖女ミサディだ。俺の未来の妻なだけあって、俺と同じく頭が切れるな。

 「で、また暗殺者を送り込むのか? 従者のおっさんの火魔法はそこそこやっかいだぞ」

 俺の頭をこんなアフロにしやがったあの野郎。

 「ンフフ~ご安心ください。ザーイ殿下。ようやく準備は整いましたわ」

 「んん? 準備ってことは」

 「はい、王国最強の火魔法使い。魔法師団長のアルバートは、我々の指示通りに動くようになりましたわ」

 魔法師団長アルバート。
 王国歴戦の魔法使いにして、その得意とする火魔法は他国にも鳴り響くほどの使い手。
 ただし、気難しい真面目な野郎で扱いが難しかった。

 それにアルバートが所属する王国魔法師団に俺の指揮権はねぇ。

 「おお……よくやったぞミサディ! あのアルバートをよく動かせたな」

 「ンフフ~彼には愛すべき家族がいますから。家族のためならなんでもするものですわ」

 以前俺に話していたミサディの下準備とやらのことだな。
 どんな手を使ってでも目的を達成する。グフフ~~やはりミサディは俺好みの性格だぇ。

 最高の聖女だ。

 「ということは……ミサディ」

 「はい、聖女リズご一行はここで全員お亡くなりになるのです。ンフフ」


 「ギャハハハ~~そりゃ最高だぜぇ!」


 やはり俺の聖女は最高だぜ。あんな出来損ないとは大違いだ。

 それにこれで―――


 「――――――あのクソおっさんをギャフンと言わせられるなぁああ!」


 「もちろんですザーイ殿下。王国最強のアルバートにとって、あんな小汚いおっさんの火魔法などまさしく風前の灯火ですわ~~ムフフ」

 グフフフフ~~楽しみだぜぇ。

 「よし、ミサディ! 俺たちも出陣だぜぇ! 勝ち確定の戦いだがなぁ~~ギャハハハ!!」


 数日後、王城よりミスリルドラゴン討伐のザーイ第二王子軍が、出発するのであった。



 ◇◇◇



 ◇ファレーヌ第三王女視点◇


 ザーイ第二王子軍の隊列にひときわ豪華な馬車が揺れていた。


 「ファレーヌさまがわざわざ向かわれなくても……」

 馬車内で向かいに座る侍女のアンナが心配そうな声を漏らす。
 私はお兄様にお願いして、討伐隊に同行させてもらっているのだ。

 「アンナ、無理についてこなくてもいいのですよ。これだけの大軍ですから、心配することもないですし」

 「そんなことできません! ファレーヌさまの専属従者としてどこまでもついていきます!
 それにミスリルドラゴンはSS級の魔物ですよ。ザーイ殿下の大軍がついているとはいえ不安です……」


 「アンナ……どうしても嫌な予感がするのです」

 「予感って……」

 「私が行かないとダメなんです」

 それ以上アンナはなにも話さなかった。


 侍女のアンナには予感と言ったが、実は予感などではない。

 聞いてしまったのである。

 お兄様の部屋からいつもの独特な笑い声が聞こえてきたあの日。
 たまたま近くを通りかかった私は、衝撃の言葉を聞いてしまった。

 リズ一行を亡きものにするという言葉を。


 詳細はわかりません。
 ですが、あのお兄様のことなので本当にやりかねない。


 なんとかリズに伝えないと。


 わたくしは王族とはいえ所詮は第三王女。
 いずれは他国の王族か、国内の有力貴族に嫁がされる身です。
 ですから、王国の政治や軍事へはほんとんど関わっていません。

 お父様は長期不在で相談することもできませんし、しても信じて頂けるかわかりません。証拠も何もないのですから。
 それに城内も誰が味方かわからず。うかつに話すこともできない。

 リズの所在はわからず、伝書鳥も使用できない。


 でも……大切な友人であるリズを助けたい。


 「あ、あれアルバートさまですよね!」

 アンナが騎乗する1人の男性を指さして声をあげた。

 ―――え?

 なぜ魔法師団長のアルバートがザーイお兄様の軍にいるのですか?

 単に戦力アップのためだけに同行しているとは思えません。
 彼は王国守備の要でもあります。父上不在の今、そう簡単に王都を離れるのはおかしいです。

 そういえば……

 たしかリズの従者バートスも優れた火魔法使い。

 そしてアルバートは王国一の魔法使い。
 しかもなかでも得意とする火魔法は他国が一目置くほどの使い手。獄炎のアルバートという二つ名は世界に知れ渡っている。

 「小さいお孫さんが王都の新聞に載ってました! すでに魔法適性が高くて将来有望だとか」

 王国の民でアルバートを知らない者はいない。

 「うわぁ~~最強のアルバートさまがいらっしゃるなら。安心ですね」
 「え……ええ。そうねアンナ……」


 もしお兄様の企みが、アルバートをバートスにけしかけることなら。


 ―――万にひとつもリズたちに勝ち目はない。

 これはいけないわ。


 リズたちになんとしても伝えないと。


 王子が、聖女が、王女が、様々な思惑を胸に秘め、おっさんの元に集うのであった。