「やりましたね! バートス!」
 「リズがチャンスを作ってくれたおかげだよ」

 黒焦げになったニワトリを見て俺はリズに言った。

 「そうですね。無我夢中でやったら……なんとか出来ちゃいました」

 少し照れつつも、満足げな表情でリズは頷いた。

 「わぁ~~バートスさま凄い~~それに~リズは聖属性魔法も使えるんじゃん~~」
 「えっと……カルラ。私が勝手に言ってるだけで聖属性の魔法ではないんです。そもそも氷の鏡魔法など元からないので……」
 「でもノリノリで詠唱してたよ~」
 「その方が気分が上がるので……成功率が上がるかもと思いまして」
 「だったらもっと凄いよ~~新しい魔法を生み出すなんて~~さすが聖女さまだね!」

 「す、凄い……ですか。ありがとうカルラ。私は自分に出来ることをしているだけです。聖女の力が無くてもそれに近づけるように」

 「新しい魔法を生み出すなんて、本当に凄いなリズは」
 「フフ、褒めてもなにも出ませんよバートス」

 頬を赤くしつつも、自信が含まれた笑顔で答えるリズ。
 最近こういう表情をよく見せるようになった。
 彼女はこれからも自信をつけていくのだろう。



 『―――聖女の力なんてお笑いですわ! あんたは出来損ない聖女のままでいいのですわ!』


 なんだ?

 突如として穏やかな時間を切り裂く声。周辺を見回す俺たち。

 「バートス! あそこです!」

 リズの指さす方向を俺たちは見上げる。

 なんか黒い目玉が空に浮いている。


 「ま、魔物ですか!?」
 「バートスさま~~なんか少しだけ魔族の匂いがするよ~~」

 『お黙りなさいですわ! この小娘! なんでこんな出来損ない聖女一行にわたくしのコカちゃんが!』

 なんだこの目玉? 魔族なのか? 
 しかしこの声というか口調……どっかで聞いたことがあるような。

 「あなたは私の事を知っているようですが、何者なのですか?」

 『きぃいいい! お黙りなさい出来損ない聖女! よくもわたくしのかわいいコカちゃんを!』 
 「キングコカトリスのことであれば、私達が討伐しました。あなたがなにか関係しているのですか?」
 『ンフフ~~討伐したですって~~小娘はすぐに調子に乗りますわね。見てなさい!』

 そう言うと、黒い目玉は不気味にどす黒く光り始める。


 『そ~~れ! コカちゃん―――復活ですわぁああ!』


 目玉の叫び声と共に、黒焦げのニワトリがむっくりと起き上がった。

 「うお! 焼鳥が動いたぞ! リズ!」
 「これは……アンデッド……」

 『ンフフ~~どうかしら~~わたくしのかわいいアンデッドコカちゃん』

 「キングコカトリスをアンデッド化するなんて……なんて邪悪な魔力なんですか!」


 『ンフフ~~凄いでしょ~~さあさあ、出来損ないどもはくたばりなさいですわ~~アンデッドコカちゃん~石化の光乱れうちですわ~~』

 アンデッドニワトリの全身から石化の光が放たれる。
 まるで焼鳥がピカーっと光輝いたように。

 リズが素早く氷の鏡を展開して集中砲火を防ぐ。


 『むぅうう~~小娘のくせにぃ~~生意気ですわ! だったら~アンデッドコカちゃ~~ん、出来損ない聖女一行なんて町ごとまとめて石にしちゃいなさい! 石化砲発射準備ですわ~!」


 「―――ギュゲェエエエ!」


 「わぁ~~なにあれ気持ち悪い~~」

 カルラが悲鳴を上げる。ニワトリの口が必要以上に大きく開き始めたからだ。実際の可動域など無視したように大きく開く口。無理やりだからか、黒焦げの肉片がボロボロと落ちていく。

 『ンフフ~~もう観念なさいな。石化砲は今までの石化の光なんかよりもはるかに強力ですわよ~~』


 どうやらヤバイ攻撃が来るらしい。
 が―――その化け物の前に聖杖をもって立ち向かう少女が叫んだ。


 「バートス! 私が全ての攻撃を防ぎます! そのあとは、任せましたよ!」


 リズの瞳には闘志が溢れている。俺は聖女リズの従者だ。
 ならば従者が言う言葉は決まっている。

 「おう! 任せろ!」

 リズが聖杖を掲げてあらたに詠唱を開始する。

 蘇ろうが、所詮ニワトリだ。接近できれば燃やせるからな。


 『無駄ですわ~アンデッドコカちゃんの石化砲は誰にも防げませんのよ~~』


 「それはやってみないとわからないです! 全ての蒼き氷面よ一つに集え!
 ――――――聖極大氷結鏡魔法(ホーリーハイアイスミラー)!!」


 リズの聖杖の元にすべての鏡が集まり、巨大で厚みのある氷鏡が形成されていく。


 『な、なんですのこの魔法? でもそんなちゃっちい鏡なんかで防げませんわ~
 アンデッドコカちゃん! ――――――石化砲発射ですわ~~!!』


 「―――ギュゲェエエエェエエエエエ!!」


 アンデッドニワトリの大きく開かれた口から、大量の光が凝縮されて放たれる。

 その極太の光はリズの氷鏡に直撃。
 ミシミシと周辺の空気を振動させつつも、その太い光を跳ね返した。


 「―――ギュゲゴッ!!?」


 リズが跳ね返した光はそのままアンデッドニワトリに直撃して、その巨体を激しく揺らす。

 リズはその衝撃で聖杖ごと吹き飛ばされながらも、俺に叫んだ。

 「―――バートス! お願いします!」

 アンデッドニワトリとリズの攻防のさなかに、俺はすでに地を蹴っていた。

 自身の攻撃には耐性があるのかアンデッド化してしぶとくなったのか、石化の光を浴びたニワトリは石にはなっていない。

 ―――が。

 そんなことは関係ない。

 俺は俺のやれることをするだけだ!


 「―――【焼却】発動!」


 ――――――ボボウッ!!


 アンデッドニワトリの体を俺の炎が包み込む。

 『なんですの、おっさん! でしゃばらないでくれるかしら! そんな程度の炎で――――――へぇ!? あっちぃいいですわ!!!』

 さっきよりは強めの炎だ。

 ニワトリは焼鳥ではなく、跡形もなく炭となって消えていく。


 『きぃやぁあああ、あちぃいですわ~~おぼえてなさい! 出来損ない~~あっちぃいい!』


 黒い目玉は煙を吹きながら空へと逃げて行った。