魔界ゴミ焼却場で魔物を【焼却】し続けた地味おっさん、人間界に追放されて出来損ない聖女の従者となり魔物討伐の旅に出る。なぜか王国指定のS級魔物が毎日燃やしていたやつらなんだが? これ本当に激ヤバ魔物か?

 ◇暗殺者視点◇


 俺は暗殺者。
 ザーイ第二王子からの依頼で、聖女リズロッテ一行を追ってきた。

 「あれが聖女一行か……」

 やつらはキングポイズントード討伐のため、この地に来ていた。
 一行と言っても、聖女におっさんと露出高めな女のたった3人。屈強な戦士もいなければ、凄そうな魔法使いも見当たらない。これが本当に聖女一行なのか?

 だが、俺はプロの暗殺者だ。

 そして、毒使いとしてその道では名が通っている。
 あらゆる毒に精通して、さらにあらゆる毒に耐性がある。

 だからこの程度の毒素はたいしたことは無い……ゴホッゴホッ


 ……今のは普通にむせただけだからな。


 とはいえ、さっさとターゲットを始末してこの場を離れた方が良いだろう。
 いかに俺に毒耐性があるとはいえ、流石にキングポイズントードの毒はヤバいからな。

 俺は猛毒の吹き矢を構える。

 狙いは―――

 聖女ではなくおっさんだ。

 第二王子からの依頼は、聖女の暗殺ではない。

 「リズの奴をふたたび一人ぼっちにしてやれ! ギャハハハ!」

 というのが王子の依頼内容。
 爆発アフロに帽子という俺には理解できない出で立ちで、バカ笑いしてたが……まあ依頼人の内情には立ち入らないのが俺のルール。

 にしても……王族貴族では流行りのファッションなんだろうか。

 ぶっちゃけまったく似合ってないのだが。

 いやいや! 依頼人の内情には立ち入らないのが俺のポリシーだった。

 気を取り直して仕事に集中する。

 王子の依頼は聖女リズロッテをひとりぼっちにすること。
 ということでターゲットはおっさんだ。

 ククッ、一撃で仕留めてやる。


 ――――――シュッ!!


 俺の放った毒針はみごとおっさんの背後から首に命中した。

 終りだ。たわいもない。

 へっ……楽な仕事だったぜ。


 「むっ……」
 「どうしました? バートス?」
 「いや、蚊に刺されたようだ」


 ―――なにぃいい! おっさん首筋ポリポリしてる!!


 あり得ない!

 なぜ俺の毒が効かない?


 何かの金属にでも偶然当たって弾かれたのか?

 それとも、俺が毒の調合を間違えた?

 いやいやいや、今朝は早起きしてシコシコいつも通り作ったんだ。

 出来立てホヤホヤの毒だぞ!


 ――――――って!


 おっさん毒の沼地に入ったぁあああああ!!


 うわぁ~~ズブズブじゃねか……肩まで浸かってる……マジかよ。

 おかしい、これはキングポイズントードが吐き出した毒の沼地のはずだ。
 俺のように高い毒耐性を持っていてもさすがにヤバイレベルだぞ。

 ましてや、あいつはだだのおっさん。

 のはすだが……平気な顔して、ズイズイ進んでいきやがる。

 ―――くっ! ターゲットがどんどん離れていく。


 焦りと共に、俺の脳裏に新たな疑問が浮かぶ。


 これ、俺も行けるんじゃないか?


 あんなおっさんが入っても大丈夫なんだ。
 意外にたいしたことはないのかもしれん。

 そ、そうだ。俺の毒耐性は、常人をはるかに上回るからな。

 行けるぞ……今ならおっさんは調子に乗って、聖女たちから離れつつある。
 やるチャンスじゃないか。

 毒の暗殺者として名を轟かせた俺の直感が「これは大丈夫」と俺の背を押してくれる。

 ごくり……

 いやいや、おっさんがいけて俺がいけないとかあり得ないだろっ!

 うぉ~~いったれ!

 ズボズボズボ~~

 「おお、全然いけるじゃねぇか――――――ふはぁ? ぐぁあああああ!!」

 全身が痺れるぅううう!

 脳みそがチカチカするぅううう!!

 ヤバイ! このままでは死んでしまう!

 俺は一本の小瓶を取り出して、一気に飲み干した。
 「ハイポイズンレジスト」この世に存在する毒対策の薬でも超高価なやつ! 俺の1月分の稼ぎに匹敵するやつ!

 ゴキュゴキュゴキュ~~~

 ぐぁああ、ダメだ! 1本じゃ足りん!

 俺は手持ちの「ハイポイズンレジスト」を立て続けに6本飲み干した。全部だ。

 「はふぅ……はふぅ……ふうぅう」

 な、なんとか死なずにすんだ……
 身体の痺れは完全には取れないが。


 クソッ……あのおっさん……なんなんだよ……人間か?


 しかしこの毒は洒落にならん。「ハイポイズンレジスト」6本をもってしても、数分しかもたないだろう。
 速攻でおっさんに追いついて、殺ってやる!

 半年分の稼ぎをつぎ込んだんだ。もう後戻りはできない。

 俺は痺れる身体に鞭うって、必死に前進する。

 「ハァ……ハァ……はふぅ……」

 気配を消すとか、そんな余裕はもはやない。
 が……沼地全体を覆っている緑の霧が俺の接近を隠してくれた。

 次第にオッサンの背が視界に入ってきた。


 天は俺を見放してはいない!
 そう俺ほどの暗殺者ともなると、運をも味方につけることが出来るのだ!


 よ~~し、おっさんの背後をとったぞ!

 俺は懐からナイフを取り出した。
 こいつで背後からブスリといってやるぜ。

 もう毒使いとかまったく関係ないが……おっさんを始末すれば仕事は完了なのだ。

 やってやる!

 絶対にやってやる!


 ……って…………え?


 おっさの前に大きな影が現れた。

 人の大きさをはるかにこえるその巨体。
 湿気をふくんだその禍々しくぬめりのある外皮に、ムチのように長い舌。

 ゲコゲコと独特の音が俺の耳に入ってくる。

 いやいやいや―――


 キングポイズントードじゃねぇかぁああああ!!


 なんてタイミングで現れやがる。

 んん~~? とキングポイズントードを見上げるおっさん。

 いやいや、もっと焦れよ! 危機感もてよ!

 そんなおっさんがキングポイズントードを見て呟いた。

 「なんだ、カエルじゃないか……こいつはゴミ焼却場で山ほど燃やしたやつだな。こいつの毒はたいしたことない。それよりキングなんたらどこいるんだよ」

 カエルぅうう? なにを言っている!! 


 おっさんの目の前にいるのがキングポイズントードだよぉおお!


 キングポイズントードが大きな口をパックリ開けて、頭を前後に振り始めた。

 ヤバイ! あの予備動作は……キングポイズンブレスがくる!! 逃げ……
 ――――――ふぎゃぁあああああああ!!」

 あれ? ブレスがこない?

 ――――――!?

 おっさんが全部受けてるぅうう!?


 真正面からがっつりブレスまみれになってるぅううう!!


 幸か不幸かおっさんの後ろにいた俺は、キングポイズンブレスの直撃を避けることができた。


 しかし、直撃はしなかったが毒素が強すぎてあの世に行きそうになる。
 虎の子の「スーパーポイズンレジスト」を一気飲みして、なんとかしのいだ。

 「スーパーポイズンレジスト」はこの世に存在する毒対策薬で最も高価なやつだ。俺の稼ぎ1年分もする。


 「ハァ……ハァ……ハァ……はふぅうう……お、お守りとして持っていて良かった……」


 さぁ……この沼地から抜け出すぞ。
 目的は果たしたのだ。

 そう―――

 キングポイズンブレスを真正面から直撃して、生きているやつなどいないからな。


 「お~~い、リズ! キングなんちゃらはいなさそうだ~~カエルしかいないぞ!」


 ―――――――――!??


 生きてんじゃん!!

 ピンピンしてるじゃないの!!


 ダメだ……このおっさんはヤバすぎる……


 俺は必死に沼地から抜け出し、無我夢中でその場を去った。
 そして二度と王国には戻らなかった。


 こうしておっさん暗殺計画は、人知れず失敗に終わったのだった。