魔界から来たカルラが俺たちの仲間になった。
 部屋で食事を取った俺たちは、外出の準備を進めている。

 「んん~~~これ……どうしましょう」

 リズがカルラの魔族の象徴である、角と尻尾を見て頭を抱えていた。

 たしかに、これで町中を歩くのはマズイな。
 人間界において、魔族に良いイメージはない。実際はさして人間と変わらんと思うけど。

 「え? どうしたのリズ? ごめんね~~リズより大きくて。でもリズもかなりのモノじゃない」
 「ちょっ! カルラ! そんなとこ見ていません! あなたの角を見てるんです!」

 そうだぞ。今はカルラの角と尻尾をどうしようかと考えてるとこなんだ。といつつまた見てしまったけど、タユンポヨン揺れてるやつを。

 「ムフフ、リズってからかうと面白い~わかってるよ、これのことでしょ?」


 ―――きゅぽん!


 「「へっ?」」

 俺とリズのマヌケな声が漏れた。

 だってカルラが2本の角を頭からプチっと抜いたから。

 「なにぃいいい!?」

 ええ? 取れた? 抜いた? なにやってんだ!


 ―――きゅぽん!


 「尻尾もかよぉおおおおお!」


 「ちょ、ちょっとカルラ。なにも引きちぎらなくても! 大丈夫ですか……」

 リズが慌ててカルラに駆け寄りその身を案ずる。

 「ふふっ~~ん。安心して、これすぐに付けれるからね」

 カルラが角をつけたり外したりしてみせる。
 帽子みたいだ……

 「角と尻尾って外せるのか……知らなかった」

 「そうですよ~~バートスさま。でも外すと固有能力は使えなくなるけど」

 そうなんだ……マジかよ。
 全然知らんかったよ、おっさん。俺には角も尻尾もないからな。

 まあなんにせよ、問題はこれで解決だ。
 普段は角と尻尾を取ればいい。


 「では、人前では取るようにしてください。でも……カルラの角、かわいいんですけどね」
 「やっぱり~わかちゃう? もっと言って~~あたし、角のコスメ用品とかけっこうお金かけてるんだ~」

 「こ、コスメですか……カルラやバートスの話を聞けば聞くほど、魔界と人間界ってあまり変わりがないような気がしてきました」

 「そうだね~」(でもバートスさまは規格外だよ~~)

 「……はい、そうですね」(やはりですか……なんとなくそんな気がしてました)

 うむ、最後らへんはなに言ってるかは聞こえんが、2人は仲良くなったようだな。



 ◇◇◇



 「ここが、討伐対象がいる森か」
 「そうですね、毒素が強くなってきてます」

 俺たちは、宿屋を出て付近の森まで足を運んでいた。

 リズいわく毒素が強くなってきているらしい。
 さすが聖女だな。異変を敏感に察知する能力があるのだろう。

 ちなみに、おっさんは何も感じない。

 とりあえず3人とも、リズの買ってくれた毒耐性ポーションを飲んでおく。
 もちろんこれで全ての毒が防げるわけでもないが、多少は軽減してくれるそうだ。

 知らぬ間に毒であの世行きにはなりたくないからな。

 「むっ……」

 「どうしました? バートス?」
 「いや、蚊に刺されたようだ」

 なんか首筋にチクッとした。
 蚊ってのはどこにでもいるな。ゴミ処理場でもやつらは意外な強敵だった。

 「やだ~~蚊キライ! リズ、聖女の結界はってよ~」
 「カルラ……できません。代わりにこれをどうぞ」

 「虫よけポーション?」
 「はい、飲めば虫よけ効果が発動します」

 「うわ~~ありがとうリズ! ゴクゴク~~」
 「カルラ、はじめに言っておきますが、私は聖女ですが氷魔法しか使えません……その……失望しましたか?」

 「え? なにが? 虫よけポーションで解決したし。変わり種の聖女ってことでしょ? 面白いじゃん~~。」

 「お、面白いですか……まあ誉め言葉と取っておきましょう」

 カルラの言葉に、少しビックリした様子のリズ。

 「リズ、いつも通りの君でいいんだ。カルラはわかっているよ」

 俺はリズに声をかけた。

 リズはちゃんと考えて行動できる子だ。使えないなら、別の代替案を用意する。
 そんな行動は認められるんだよ。

 無いものねだりをして腐るか、別のなにか考えるかはそいつ次第だ。
 リズはちゃんと前を向くようになった。

 そしてカルラはそんなリズを認めているんだろう。この子も根はいいやつだからな。

 「バートス……そうですね。さあ! 毒素がより強くなっています。気をつけて前進です」


 リズの瞳がキリっと前方を見据える。

 「―――これは? 毒の沼地ですか……」

 俺たちの前に大きな沼地が姿を見せた。緑色のいかにも毒ですみたいなやつ。ところどころブクブクと気泡が浮かび上がっている。

 「これはキングポイズントードが付近にいるとみて、間違いなさそうですね」

 うお~~いよいよか……緊張して来た。なにせキングだからな。

 「全員即時戦闘に入れるように!」

 「は~~い、リズ!」
 「お、おう、リズ!」


 「―――ってバートス! 片足入ってます!」 


 ―――うお! 本当だ! 毒の沼地にずっぽりいってしまった!

 死ぬ、死んでしまう!!


 …………あれ?


 特に何もないぞ?

 これはもしかして、見かけだおしなのでは?

 そうか! 毒素だってぶっちゃけなにも感じなかったし!

 理由はわからんが、たぶん随分前に出来た沼地なんだろう。
 キングと言えど永久に効力が持続する毒など出せないだろうし。


 「―――リズ! これは大丈夫なやつだ!」


 「ええ! 大丈夫なやつってなんですか! 毒の沼地に大丈夫も何もないですよ!」

 間違いない、俺の毒耐性でもいけるんだから。

 誰でもいけるぞ!

 「これは余裕だぞ、リズ」

 よし、もうちょい進んでみよう。

 「な、なに言ってるんですかバートス? ってズブズブってなんの音……
 ――――――キャあぁあああ! なに潜ってるんですか!」


 「お~~い、リズ~~これはたいしたことないぞ~おまえもこい~~」


 「――――――行けるわけないでしょ!!」


 なぜだ? リズにガチで怒られた。