俺たちは宿屋に入った。本格的な魔物探しは明日にして、今日はゆっくり休む。
 万全の体調で行かないとな。なんせキングってつく魔物だから。

 「ば、バートス! 大変です! 事件です!」

 リズが宿屋のフロントからこちらに駆けてくる。

 ええ! まさか魔物がきたのか!?

 おいおいおい、心の準備ができてないよ~~

 「つ、ついてきてください!」


 やっぱ出たんじゃないのかぁ。キング~~


 血相を変えて、2階への階段をズンズンと上がっていくリズ。

 おい? どこへ行くんだリズ?
 外に行くんじゃないのか?

 リズは2階にある一室のドアをバーンと開け放った。


 「―――今日は、この部屋しか空いてないんです……」


 事件と言うのは、この町唯一の宿屋が一室しか空いてないということらしい。

 なんだよ、ビビらさないでくれ。

 キングが出たのかと思ったじゃないか……

 「しかし、ここしか空いてないならしょうがないだろう」
 「ば、バートスはいいんですか?」

 リズは別々の部屋がいいのだろう。たしかに男女が同じ部屋と言うのはマズいのかもな。

 だが、以前も同じ部屋だったことがあるし、野営でも一緒だし今更な気もする。

 「別にいいぞ。それにベッドは2つある。端っこに離せばいいだろう」
 「そ、そうですね。へ、変な事したら怒りますよ……たぶん」

 「ハハハッ、安心しろ。俺はリズの従者なんだぞ。そんな気はさらさらない」
 「むぅ……さらさら無いって~~そんなにはっきり拒否らなくても……」

 リズは頬をぷくーっと膨らませて俺を疑いの目で見る。

 たしかに、さらさら無いと言うのはぶっちゃけウソだ。リズは男からしたらかなり魅力的だ。超絶美少女なうえに、出るところはしっかり出ている。

 しかし、こんなおっさんが何かしたら絶対ダメだろう。そんなことになったら、人間界をも追放されかねない。

 もはや信用してもらうしかない。

 「安心してくれリズ。さあ今日は早く寝て明日に備えよう」

 俺がそう言うと、リズはコクリと頷いた。

 夕食を取って風呂で疲れを流した俺たちは、ベッドにもぐりこんだ。
 やはり馬車内で寝るより全然いいな。まあ当たり前のことだが。

 長旅で疲れていたこともあり、俺とリズはすぐに眠りについた。


 「……グウグウ……さま~~」

 「……グウ……トスさま~~」


 ―――んん? もう朝か? 


 リズが俺の体を揺さぶっているようだ……って!?


 なんで俺に馬乗りになってるんだ―――リズ!!

 そんな俺の疑問をよそに俺の名を連呼して、揺さぶり続けるリズ。


 いかんだろ! これはいかんだろ!


 さすがに完全アウトだぞ。セーフとなる要素が全く無い。

 ―――いや、待てよ。

 これは夢か?

 現実的にリズが俺に馬乗りなって揺さぶり続けるなんてこと、あるわけがない。

 だとしたら……俺はなんちゅー夢を見てるんだ。

 美少女聖女に馬乗りされている願望があるとか、リズが聞いたらドン引きされるぞ……。


 にしてもリアルに揺らしてくるな夢のリズよ。


 ―――あれ? ちょっとまて。


 リズの顔ってこんなんだっけか? 頭に角なんてあったかな?
 それにこんな露出度高い服だっけか? なんかムチムチしてるけど……


 「バートスさま~~やっと見つけた―――!!」


 この声!?

 聞き覚えがあるぞ……俺は目を擦り、徐々に脳を覚醒させていく。
 カーテンからかすかに光が漏れている。明け方のようだ。

 「か、カルラか?」

 「わぁ~~ん、やっと会えたよ~~」

 そこには魔界の職場にいるはずのカルラがいた。
 俺に馬乗りになって、ガン泣きしながら。


 なんだこれ? どういう夢だ? 意味が分からん。


 「うん……な、なんですか騒々しいですね……
 ――――――え、えぇええ! バートス!!」

 リズも目覚めてしまったらしい。

 そして即座にこちらの状況を見た瞬間に固まってしまった。

 これは夢ではなさそうだぞ。

 そうか、おっさん変態な夢を見てなかったんだな。精神が変態になったわけでは無さそうだ、良かったよ。


 って―――良くないじゃないかっ!!


 夢じゃないなら、なぜカルラがここにいるんだ?

 しかし、彼女に話しかけようとした俺の言葉は、リズの叫びによってかき消された。


 「ま、魔族……なんかすっごいハレンチな格好してます!
 バートスからすぐに離れなさい! この淫乱魔族――――――――!!」


 「なによあんた! あたしはバートスさまから離れないんだから!!」


 朝っぱらから、美少女聖女とムチムチ魔族の戦いが始まってしまった。