リズが王子にカッコよく啖呵を切って、颯爽と王城の廊下を歩く俺たち。

 俺たちは魔物を討伐する旅に出ることになる。

 豪華な装飾が施された廊下を歩きながら、リズが綺麗な銀髪をゆらしてこちらを向いた。

 「バートス、ありがとうございます」
 「んん? どうしたんだ?」

 「バートスと一緒だったので、王城内でも臆せず自分を保てました」
 「おっさんも多少は役に立ったようだな。良かったよ」

 たしかに―――
 王城はリズが婚約破棄された場所。

 そして、自分の存在価値を否定された場所だ。

 そんなところに行くのは、本当に辛かっただろう。

 だが、リズは見事に乗り切った。


 己の過去を断ち切るかのように、王子にビシッと自分の決意を言い放った。


 「本当に良く頑張ったなリズ。カッコよかったぞ」


 「あ~~すっきりしました。ずっとため込んでいたものを全部出してきました」


 小さな両腕をぐっと伸ばして、んん~~っと声を上げるリズ。
 なにか憑き物が落ちたような顔だ。

 「あの王子も少しは人の気持ちが分かればいいんだが」
 「彼には難しいでしょうね。久しぶりに会いましたが、以前とまったく変わっていませんでしたから」

 「そうか、今回の訪問で変わったのは髪型だけか」
 「フフ、それはバートスのおかげですね」

 リズは銀髪の髪先をクルクルと人差し指で回しながら、クスっと笑った。

 「バートスは不思議な人ですね。こんなに私を笑わせてくれる人は初めてです」

 「そうなのか?」

 俺はいたって真面目にやってるだけなんだが。

 「はい。私は友人もいませんし……」
 「リズなら友達は沢山いるように思うけどな」

 「たしかに、友人と称する人たちは沢山いましたよ。でも、私が何の力もないとわかるといなくなりました」

 リズは少し寂し気な目をして俺を見た。

 「だからそう言う意味では、本当の友人はいなかったんだと……思います。」

 「そうか、なら旅を重ねながら少しづつ増やしていけばいい。笑い合える相手をな」

 「フフ、そうですね。そうします。また旅の楽しみがひとつ増えました。これもバートスのおかげですね」

 銀髪の美少女がニッコリと微笑む。


 俺とリズが話していると、小さな足音が近づいてきた。

 うしろを振り向くと、綺麗なドレス姿の美しい少女が立っている。


 これまたリズに引けを取らない超絶美少女だ。


 「ああ……リズ。間に合いました。良かった」
 「ファレーヌさま? ―――えっ!?」

 少女はスッとリズの前に進むと、いきなり彼女に抱き着いた。

 うむ、なんだこの絵面は? 

 美少女同士で抱擁とは、おっさんはとても綺麗なものを見ているぞ。

 「ごめんなさい……ザーイお兄さまがまた酷いことを……私はなにもしてあげれれなくて……」
 「フフ、ファレーヌさまはなにも気にすることはないですよ。ほら元気ですよ? 私」

 「ええ……そうですねリズ。良かった」

 2人の抱擁が終わると、その少女は小さな袋をリズに手渡す。

 「少ないですが、これを。路銀の足しにしてください」
 「ええ、そんなファレーヌさまいいんですか?」

 「もちろんです、本来なら討伐報酬が出るはずなのに、あのお兄様は何も出さないでしょうから」
 「フフ、あの王子さまですからね。では、ありがたく頂きます」


 なんだ、いるじゃないか友達。


 リズの事を認めてくれる友人が。


 「あなたがバートス様ですね。ご挨拶が遅れてしまいました。私はラスガルト王国、第三王女のファレーヌと申します。お見苦しいところを見せてしまいましたね」

 王子をお兄様と呼んでいるのだから、王族だろうとは思ったが……王女か。

 それに所作がなんか上品な感じがする。

 「いや、美少女2人の良いシーンを見させてもらいました。あと様はいらない、バートスでいいですよ」

 「まあ、美少女ってことは、リズのこともそう思っていらっしゃるのね」
 「ええ? ああ、もちろんリズは美少女ですよ。誰がどう見てもそうでしょう?」

 「まあまあ、でもリズは他の男性ではなく~~あなたからそう思われたいみたいですよ。フフ」


 「ちょっ! ファレーヌさま! なに言って……」


 リズが横から、第三王女をユサユサ揺さぶる。
 仲が良いんだな、この2人は。

 「模擬戦もコッソリ見させて頂きました。素晴らしい火魔法使いですね。あなたがリズに付いてくれれば百人力……いえ、千人力でしょうね。安心しました」

 「ああ……任せてくれ。リズをしっかり支えるぞ」

 あの模擬戦に関して色々勘違いをしているようだが、気持ち良く話す王女にあえて訂正するのも無粋だろう。

 それに俺の持てる全力でリズを支えたいと言うのは、本当の気持ちだしな。


 「まあまあ、2人の仲がよろしくてなによりです。リズ、ちゃんと討伐以外も頑張るんですよ。逃がさないように」

 「ちょっ……逃がさないって。バートスはあくまで従者ですから!」

 「はいはい、そういうことにしておきましょう。今は」

 「そういうことてっ……もう……ファレーヌさまふざけすぎです」


 なんだか良く分からんが、楽しそうだなリズ。

 それにやっぱり友達はいた。リズは今までふさぎ込んでいた分、少しまわりが見えていなかったのだろう。前を向いた彼女はこれからどんどん気付いていくのだろうな。

 彼女自身の持つ魅力に。

 「では、バートス。リズをよろしくお願いいたします。リズは昔から私の大事な友人ですの。それに自分の良さをまだ理解していないようですので、バートスからたっぷり教えて上げてくださいね」

 「ああ、もちろんだ」

 そうだな、王女の言う通りだ。今後はリズのいいところをどんどん教えてやろう。

 「良い従者に巡り合いましたね、リズ。では私はここで」


 俺たちは第三王女の見送りを背に受け、王城を出た。

 「バートス、私は王城がとても嫌いでした。でも……少しだけ好きになりました」

 「そうか、それは良かったな」

 リズは爽やかな笑顔で頷いて俺の手を取る。


 「さあ―――聖女と従者の旅立ちですよ! バートス、頼りにしてますからね!」


 「ああ―――任せろ。おっさんなりに頑張るよ」


 俺たちの旅が始まったのだ。




 「ところでリズ。最初の討伐魔物はなんていうやつなんだ?」

 まあ、初回だからな。

 いきなり無理はしないだろう。


 「はい、キングポイズントードですよ。王国S級指定の魔物です」

 「キング……S級指定……」

 いきなり最上位の魔物じゃないのか……

 「猛毒の王と呼ばれています」

 なにそのヤバそうな奴……

 「な、なあリズ。まだ旅は始まったばかりだ。まずは準備運動というか、ウォーミングアップしなくていいのか……な」


 「ええ、私にはバートスという最高の従者がいます。それに私、

 ――――――聖女ですから。

 S級指定の魔物をバンバン討伐しましょうね」



 しまった……リズが自信をつけすぎたのかもしれん。

 俺はひょっとして、とんでもない旅に出てしまったのか……