「おお! たこ焼き! たこ焼きがあるぞ! リズ! リズ!」

 「はいはい、お皿に取りましょうね」

 レッドドラゴンを討伐した俺たちは、町の人から熱烈な歓迎を受けていた。
 広場にテーブルを広げて、沢山の料理を振舞ってくれる。

 「た、隊長! このたこ焼き食べていいんだよな!」

 「ああ、もちろんだ。あとこれも美味いぞ、スタールの肉串は名物なんだ。それと俺はデイルって言う」

 自警団の隊長が、肉串を俺たちに渡してくれた。

 「おお! 隊長! これ知ってるぞ! 店前で焼いてたやつだ! リズ! リズ!」

 「はいはい、じゃあこのお皿に入れておきましょうね。さきにこちらのたこ焼きを食べましょう」

 リズがたこ焼きを俺に渡してくれた。肉串は別の皿に盛ってくれている。
 なんていい子なんだろう。

 「リズの夫となるやつは最高だな」


 「ええ!? 夫って……!!」


 リズが顔を赤くしてたこ焼きを頬張る。
 わかるぞ、熱いけどここは一気にパクリといく気持ちが。

 では俺も頂くとするか。

 「―――っておい! 3個も同時に食べたら火傷するぞ!」

 デイル隊長が何やら騒いでるが、それどころではない。


 ―――うまぁあああ!!


 やはりたこ焼きは最高だ。


 「だから、3個は無理だって言ってるだろ。涙出てるぞ、おっさん」

 「いえデイル隊長、バートスは大丈夫です。たぶん美味しくて泣いてるんです」
 「ええぇ……どういう口してんだ……」


 まわりが何か言ってるが、美味くてもはや聞こえない。さて、続いて肉串を……

 これも美味いぃいいい!!

 焼きたてだし、やっぱ肉はいいな!


 「「「まだまだあるからたくさん食べてね~~」」」
 「おお、それはありがたい! 遠慮なく頂くぞ!」

 初めてこの町に来た時とは大違いだ。

 「ところで聖女様たち、明日は王都に向かうのか?」
 「ええ、デイル隊長。レッドドラゴン討伐の報告をしなければなりません」

 「なら、宿屋を手配しておくよ。遠慮なく使ってくれ」

 「……はい。ありがとうございます」

 「では、存分に楽しんでいってくれ」

 隊長が去った後も、リズは町の人たちに感謝されまくっていた。

 「なんだか今が現実なのか、良く分からなくなってきました」
 「リズは人気者だな」

 「こんなにお礼を言われたのは初めてですから……」
 「ハハ、もっと言われるようになるぞ。聖女様」

 「まあ……そんな言い方して。では、そうなるように頑張りますね。私の従者さま」

 透き通るような銀髪をフワリと揺らして微笑んだリズ。

 出会った時とは全然違う、良い笑顔になってきた。


 「―――あの、聖女さま」

 俺がリズの様子を微笑ましくみていると、誰かが声をかけてきた。

 ああ、服屋の夫婦だな。

 「聖女さま、ありがとう! 町を守ってくれて、俺たちの店を守ってくれて!」
 「ごめんねぇ、噂だけで判断しちゃって。あたしは聖女様に酷い事言っちゃったよ」

 2人とも申し訳なさそうに頭を下げる。

 「頭を上げてください。お礼は嬉しいですけど。謝罪はいりませんよ」

 リズがそう言うと、照れくさそうに顔を上げる夫婦。

 「いやあ、マジで感謝してる。本当にありがとうな!」
 「あんた、聖女様にむかってなんて口の利き方だい! この子は凄い子なんだよ!」
 「いやまて、それはお前の方だろう!」

 夫婦のやり取りを見て、思わず笑ってしまうリズ。
 その様子を見て、笑い出す夫婦。

 「ごめんねぇ聖女様~~あたしたちのような庶民にお貴族様な話し方は無理みたいだよ」

 「はい、大丈夫ですよ。私も普通に話してもらえると嬉しいです」

 「ありがとね~~。あ、そうだ! お礼と言っちゃなんだけど、あんたたちの服をみつくろってあげるよ」
 「おお、それはいいな! 聖女様の法衣も煤をかぶって、随分くたびれているようだしな。おっさんも来な、男物もしっかり揃えてるからよ」

 「……でも」

 「遠慮なんかいらないよ~~さあさあ、行くよ!」

 良く分からんが俺たちは夫婦のお店に行くことになった。
 取り合えず、たこ焼きと肉串はもう少し貰ってから行こう。



 ◇◇◇



 「おお! 白もいいな! リズ!」
 「まあ! とってもいいじゃない! 清楚でまさしく聖女様ね!」

 服屋に行って早速新しい法衣を着たリズ。

 輝かしい純白が、彼女の銀髪とよく合っている。
 俺も服屋のおばさんも大絶賛だ。

 「ええ、なんだか心も洗われるような気分ですね。本当に頂いてしまってよろしいのですか?」

 「もちろんよ、こんなお礼しかできないけど。それに、聖女さまがあたしらの店の服を着てるって自慢できるからね」

 「フフ、わかりました。では遠慮なく頂きますね」

 おばさんは俺の服も用意してくれた。
 頑丈なズボンに、上着を着てみる。なんでも燃えにくいらしい。

 「おお! これで多少は燃えないのか! これは助かるな!」
 「この服、耐火性の魔法が付与されているようです。バートスもとっても似合ってますよ」

 「お二人さんの門出に服を贈れるなんて、うちとしても光栄だね。
 あ、そうだ聖女さま―――」

 おばさんがリズをクイクイと手招きする。

 「このワンピースも着てみて」
 「え? でも私ここ数年ずっと法衣しか着てなくて……」
 「何言ってんだい! 17の女の子なんだ、もっとオシャレしないとね」

 なかば強引に試着室に入れられたリズ。
 しばらくすると中から、黄色いワンピースを着た美少女が現れた。

 「うわ~~聖女様~~やっぱり似合うねぇ~~~」

 「ば、バートス。ど、どうでしょう……似合ってますか?」

 俺をチラチラ見ながら、少し頬を赤くするリズ。

 「ああ、とってもかわいいぞ」
 「え! か、かわいい? 本当に?」
 「当たり前だろ。元よりリズはかわいいからな」
 「も、元より!! そ、そうですか……」

 リズは姿見鏡の前で、何度もクルクルと回ってはムフっと笑っていた。

 「どうやら気に入ったようだね」

 「はい、ありがとうございます。お洋服で楽しんだのなんて何年ぶりでしょうか」

 「ならそれも持ってきな!」
 「ええ! それはいくら何でも悪いです」
 「いいから! こんな美少女に着てもらったほうが、そのワンピースも喜ぶわよ!」

 その後もおばさんがあれやこれや持って来てくれたが、最終的に俺はズボンと上着を、リズは純白の法衣と黄色のワンピースをもらう事になった。

 うむ、新しい服はいいな。気分が良いぞ。


 服屋の夫婦にお礼を言ったあと、俺たちは隊長が手配してくれた宿屋に行き、フカフカのベッドに飛び込んだ。

 「うわぁ~~フカフカだぞ! リズ!」
 「………」

 「どうしたリズ?」
 「………スゥ……」

 リズはベッドに入るなり、ぐっすりと眠りに落ちていた。
 今日一日、色々疲れたんだろう。

 聞けば、ベッドで寝るのも久しぶりな事を言っていたしな。
 宿屋のお風呂にも感激していたし。

 こんな年端も行かぬ娘が、どれほどの苦難に直面していたのだろうか。
 俺は、リズの毛布をそっとかけなおして自分のベッドに向かう。

 「バートス。ありがとう……」

 リズの寝言か。

 寝ているときまで礼を言うとはな……

 人間界に追放された時はどうなることかと思ったが、俺はよき上司に出会えたようだ。
 リズは俺に腹を割って話してくれたし。おっさんだからと邪険にしない。


 この職場は大事にしたい。


 さて、俺の今後の為にも、そして―――なによりリズのためにも、おっさん頑張るか。


 ちなみに翌朝起きたリズは、

 「ふあぁあ! なぜバートスがいるんですか! も、もしかして同じ部屋で寝てたの? 私!」と飛び跳ねて、元気な声をあげていた。