僕のすぐ後ろの席で、高原くんは熱心にデザイン画を描いてる。
 今は塗りの段階。アクリル絵の具で丁寧に、色を塗っている。偉い。展覧会に出すつもりなんだろう。

 僕の絵の方も、いよいよ最後の調整段階に入って、全体的な色を見ている。

「八木さん、アクリルありますか?」
「あるけど、ホルベインでいい? 何色?」
「青」
 ちょっと待ってね、と持ち合わせていた絵の具を出す。

 そっか、ステッドラーだもんね、青が足りなくなるよね。モチーフが自分の鉛筆だということが、なぜか鼻高い。
 あの日貸したステッドラーが、こんなに素晴らしいデザイン画になるなんて!

「あれ? 高原くん、ホルベインじゃないんじゃ? ターナーじゃん」
「大丈夫です」
「いや、色味変わっちゃうから」
「大丈夫」
「ダメ」

「⋯⋯じゃあ全部、ホルベインで塗り替えるんで」

 そっと、テーブルの上にホルベインを置く。
「色味、確かめてから使ってね」
「はい」

 最近、高原くんが重すぎる件――。

(続)