「八木さんのデッサン用鉛筆、青くてカッコいい」
「あ、これ? 母親に頼んだら、画材屋でお勧めされたって。ペンケース入りの1セット、買ってこられちゃったんだよね、ステッドラー。高原くんは?」
「ハイユニ」
「ハイユニいいよね。やわらかい」

 見してください、と高原くんは僕のペンケースをズッと自分の方に引き寄せる。
 鉛筆なんて、見た目は変わらないのに、子細に検分してる。

「6B」
「ああ、うん」
「6Bなんて使うんすか? ⋯⋯かわいい」
 ぎゃー、”かわいい”、また来た。
「高原くんは?」
 気を取り直して、聞き返す。

「筆圧、強いんで」
「⋯⋯ああ」
「6Bは真っ黒になるしね。僕も4Bまでしか使わないかな?」
「今日、交換してください」
 目の前に、ハイユニのセットが現れる。

 石膏デッサンの席は今日も隣。
 今日は1年生の女の子ふたりも参加して、いい感じだ。部活らしい。
 ホクホクした気持ちでいると、急に高原くんが立ち上がる。テーブルに向かって歩いていく。

「ああ、いいってそんなこと! 僕、自分でやるって!」
「いいんす。削るの、好きなんで」
 高原くんはおもむろに、僕の鉛筆を器用にカッターで削り始めた。
 僕の鉛筆がそろそろ削る時期だと、気づいてたに違いない!
 ⋯⋯いたたまれない。

 芯の先まで紙ヤスリですっかり整えられて、ステッドラーは帰ってきた。
「もういいの、試しがき?」
「はい」
「もう少し、使ってていいよ」
「やめてください、そういうの」
「え? (なんか変なこと言ったかな?)」
「かわいいんで」

 そう言うと、高原くんの顔が急に真っ赤になって、猛烈にデッサンを始めたかと思うと、ハイユニの芯がボキッと折れた。

「⋯⋯筆圧、強いんで」
 照れてる!?
「お返しに、削ろうか?」
「神ですか?」
「いや、部長だが!?」

 今、イーゼルの向こうで女子たちが「かわいい」と言った? 僕が? どっちが!?

(続)