「でさぁ、”かわいい”とは上手く行ってんの?」

 あ、また高原くんのお客さんだ。陽の方々だ。
 今日も賑わってるようだ。
 扉の前で思わず立ち止まる。

「気安く”かわいい”とか呼んでんじゃねーよ」
「スバル、マジで面白いんですけど? で、どうなんよ」
「あー」
「誰チャン? 何チャン?」
「んー」

 なぜだろう? 聞いてる僕の方がドキドキしてくる。胸の鼓動が、耳の奥でこだまする。

「無理なんじゃね? やっぱわたしにしとく?」

 ぎゃはは、と一際大きな声が上がって、ドキドキが大きくなる。

「上手く行ってるかも」
「え!?」
 ――え!?
「マジで? どの辺が? 聞いてないんすけど」
「話してねーし」

「ちょっとー、気のせいじゃない? スバルってさ、そういうとこあるし」
「そうそう、情緒欠落みたいな?」
 情緒は欠落してないと思うけど。いい絵、描いてるし⋯⋯。

「気のせいじゃねーし。この前、ふたりきりになった時、向こう、顔赤くなってたし」

 沈黙。
 みんな、息を飲んだに違いない。
 いや、違うんだ、それは!
 夕焼けのせいだし! 顔、赤くなってないし!
 夕焼けのせいですー。
 ふたりっきりだったからじゃないですー。

「なんだかんだ、上手く行ってんだ。やらしー」
「やらしくなんかねーし。⋯⋯かわいいし」

 ガラッ。
 思い切って、扉を開けた。

「部長さん、こんにちはー」
「お前ら、八木さんに迷惑かけんなよ。早く帰れー」
「静かに見学してもらえれば、帰らなくてもいいんだよ」
「部長さん、やさしー。ね、ね、この部活でいちばん”かわいい”のって、誰ですか?」
「いや、そういうのは、主観だし。それより見学は⋯⋯」
「お邪魔しました! 部長さん、かわいい子わかったら教えてくださいね! じゃーねー、スバル」

 がやがやと、陽キャの皆さま、全員退場。
 僕はいつもの席に、イーゼルを移動する。
 今日も、美術室にふたりだけだ。

「⋯⋯あのね、高原くん」
「はい」
「赤くなってないから! あれは、夕焼けのせいで」
「八木さん、俺、色彩検定持ってるんで。色、見間違えません」
「いや、だから、夕焼けだってば」
「見間違えません」
 ――ええッ!?

(続)