今日の活動は、来月開かれる展覧会のポスター掲示だ。
 幽霊部員が多いので、作品の進んでる僕と高原くんが担当することになった。
 ポスターの束を抱えて歩く。

「しかし、すごいね! 1年生でポスターに選ばれるなんて大抜擢だよ。いいデザイン画だよね」
 高原くんのデザインは、しっかりとした構成の中に”ここ”というポイントがある。例えば、思いもよらない色が一箇所だけ入ってたり。

「実力じゃないかな?」
「そんなん言われたら、敵わないなぁ。僕の絵なんか、全然平凡だからなぁ」
 弱々しく笑う。そういう自信、僕にはない。

 不意に、手をがしっと掴まれる?
「先輩には、先輩にしか出せない色、あるじゃないですか?」

 見つめ合う形になる。
 どこかで誰かの嬌声。パタパタ走る、上履きの音。

「見る目ないんすよ」
「え?」
「決めたヤツら」
 ああ、ポスターの原画の。
「八木さんの絵の方が、ずっといい」
「ありがとう、お世辞でもうれしいよ」
「わかってるんで。ずっと隣で見てたし⋯⋯」

 知ってる。
 いつも隣でじっと見られてる。僕がキャンバスに置く、ひとつひとつの色を。

「あ、先輩、そんなに強く握ったら」
「ごめん! しわしわになっちゃうよね」

 気がついたら、ポスターの束を抱きしめてた。嫉妬とかそういうの、後輩相手に良くないなぁ。

 高原くんが、僕の手の中からポスターを1枚、バサッと抜き出して広げた。

「それにしても、背、高いよねー」
「185」
「え?」
「身長」
「いいなぁ。僕じゃそんなに高いところ、届かないよー」

 画鋲をひとつずつ、手渡す。
 高原くんが、器用に掲示板にポスターを貼る。

「その⋯⋯、熱心だよね、部活動」
「八木さんだって、毎日来てるじゃないですか」
「僕は部長だから」
「それなら俺だって、八木さん、ひとりにできないし」
「!? あ、ありがとう」

 ありがとう?
 え、今、なんだって?
 ”ひとりにできない”って言わなかった?

 ⋯⋯え!?

(続)