高原くんは陽キャだ。いつも、楽しそうなご友人に囲まれてる。
 彼のように他人に好かれる人が、美術部なんて地味な部活を選んだのは、本当に謎だ。
 でも活動は熱心で、1日も欠かさず美術室に現れる。

 高原くんが熱心なので、こっちも先輩として負けられないな、とちょっと向上心をくすぐられていたら、二学期のはじめ、部長に選ばれてしまった。
 理由は――毎日来る人。
 高原くんに張り合ったのが、間違いの元だった。

 そんなわけで毎日、部室である美術室に通う。今日もまた、美術室の前に行くと、中から賑やかな声が聞こえてきた。
 つい立ち止まってしまう。

「ねぇ、遊びに行こうよ、スバル」
「部活が終わったら」
「なんだよー、真面目かよ」
 どっと笑いが起こる。
「好きな子でもいるんじゃないの?」

 お、と思う。
 美術部には総勢5人の女子がいる。
 僕と同じ、2年生にふたり、高原くんと同じ、1年生に3人。
 さぁ、どっち?

「いる」
「どんな子?」
「⋯⋯うるせー」
「いるんじゃーん!」
 うわっと盛り上がる。
 それはそうだ。高原くんは背が高くて顔が小さい、芸能人みたいなスタイルで、女の子にもモテモテだ。

「ね、で、どんな子?」
「うるせーな」
 くすくすと笑う声が聞こえる。つい聞いてしまう。
「はい、この人照れてます」
 しばし、沈黙。
 なんだかおかしなことに、こっちまでドキドキしてくる。
「かわいい子」

 キャーと、歓声が上がる。
 そうか、かわいい子か。きっと同学年の子に違いない。それで出席率もいいのか。
 納得、納得。
「⋯⋯お前ら、絶対その人に迷惑かけんなよ。気にするから」
「スバル、だから誰よ?」
「ここで一番かわいい人だよ」

 かわいい。
 そんなにかわいいのか。
 てことは、1年女子で決定!
 あー、なんか変な汗かいた!

 ガラガラッと扉を開けると、全員がこっちを見た。
「ほら、お前ら帰れよ。八木さんに迷惑かけんなよ」
「あ、静かにしてもらえれば、見学歓迎です」
 なんで年下に敬語だ? しかし相手は陽キャだぞ?

「部長さん、やさしー!」
「ほら、うるせーんだから帰れよ。迷惑かけんなよ」
「はーい! 部長さん、またね!」
 賑やかに面々は帰っていった。
 高原くんとふたり、絵の具くさい部室に取り残される。

「八木さん」
「はい?」
「迷惑じゃなかった?」
 あれ? なんかデジャヴっぽい?
「⋯⋯迷惑なんかじゃなかったよ」
「八木さん、顔笑ってないっすよ」

 え?

「緊張だよ、緊張」
 そう、陽キャの皆様には緊張するのだ。
「緊張⋯⋯やっぱりかわいい」

 ええッ!?

(続)