電車に乗っていた。
顔色の悪かった高原くんを、ガラガラに空いている平日午後の電車に乗せた。
座席にすわらせる。
ついでに隣に座る。
「⋯⋯まだ帰りたくなかった」
高原くんはまだ甘えたさんから回復せず、僕のブレザーを握りしめ、背の低い僕にもたれかかってきた。
「迷惑かけましたよね、サーセン⋯⋯」
「大丈夫だよ。あのね、高原くんは僕にとって大事な後輩なんだから」
「⋯⋯後輩っすか?」
はぁ、とため息をついて、彼は僕の目を覗き込んだ。
「あのさ、八木さんのこと、ただの先輩とか思えないから」
「はい?」
「いちいち”かわいい”し」
「え!? だからそれ、どういう感情?」
うーん、と彼は項垂れてた背筋を伸ばす。いつもの高原くんに戻る。
「体験入部の、部員勧誘の時。すごい丁寧に声かけしてて、すごいかわいかった」
「え!? ”かわいい”の定義って、もはや何?」
「”かわいい”は正義」
「違くて」
車窓から見える風景が流れてく。
どんどん、どんどん、降りる駅に近づいていく。
「だから、付き合ってください」
「⋯⋯ん?」
「八木さん、はっきり言わないと通じないみたいだし」
「⋯⋯んん?」
いま確かに「付き合ってください」って聞こえた気が⋯⋯。
え、それって何? もしかして高原くん、僕の彼氏になるの? で、僕は、そしたら彼女⋯⋯?
「あー、”カレカレ”!」
広げた手のひらの上に、拳をポンと乗せる。
「なんだ、僕は彼氏になるんだ!」
「なって」
うお、イケメン至近距離、圧すごいって!
「高原くんが彼氏?」
「うす」
「僕が彼氏?」
「うす」
「”カレカレ”?」
車内に響く声で笑ったのは、その時が初めてだった!
「彼氏と彼氏。あー、スッキリした!」
「結構、笑いますね」
「いやいや、初めてだよ、こんなに笑ったの!」
「じゃあそういうことで」
「ええッ!?」
電車のアナウンス、ドアが開くと高原くんは降りていった。
「LINEします」
――ええッ!?
高原くんの彼氏になった話。
(了)
顔色の悪かった高原くんを、ガラガラに空いている平日午後の電車に乗せた。
座席にすわらせる。
ついでに隣に座る。
「⋯⋯まだ帰りたくなかった」
高原くんはまだ甘えたさんから回復せず、僕のブレザーを握りしめ、背の低い僕にもたれかかってきた。
「迷惑かけましたよね、サーセン⋯⋯」
「大丈夫だよ。あのね、高原くんは僕にとって大事な後輩なんだから」
「⋯⋯後輩っすか?」
はぁ、とため息をついて、彼は僕の目を覗き込んだ。
「あのさ、八木さんのこと、ただの先輩とか思えないから」
「はい?」
「いちいち”かわいい”し」
「え!? だからそれ、どういう感情?」
うーん、と彼は項垂れてた背筋を伸ばす。いつもの高原くんに戻る。
「体験入部の、部員勧誘の時。すごい丁寧に声かけしてて、すごいかわいかった」
「え!? ”かわいい”の定義って、もはや何?」
「”かわいい”は正義」
「違くて」
車窓から見える風景が流れてく。
どんどん、どんどん、降りる駅に近づいていく。
「だから、付き合ってください」
「⋯⋯ん?」
「八木さん、はっきり言わないと通じないみたいだし」
「⋯⋯んん?」
いま確かに「付き合ってください」って聞こえた気が⋯⋯。
え、それって何? もしかして高原くん、僕の彼氏になるの? で、僕は、そしたら彼女⋯⋯?
「あー、”カレカレ”!」
広げた手のひらの上に、拳をポンと乗せる。
「なんだ、僕は彼氏になるんだ!」
「なって」
うお、イケメン至近距離、圧すごいって!
「高原くんが彼氏?」
「うす」
「僕が彼氏?」
「うす」
「”カレカレ”?」
車内に響く声で笑ったのは、その時が初めてだった!
「彼氏と彼氏。あー、スッキリした!」
「結構、笑いますね」
「いやいや、初めてだよ、こんなに笑ったの!」
「じゃあそういうことで」
「ええッ!?」
電車のアナウンス、ドアが開くと高原くんは降りていった。
「LINEします」
――ええッ!?
高原くんの彼氏になった話。
(了)



