ズルズルと、たくさんの展示の中を引きずられていく⋯⋯。
 まだ見てない絵が通り過ぎる⋯⋯。
 高原くんも冗談が過ぎるよ、”彼氏”とか。まだ、付き合った覚え、ないし。

「⋯⋯八木さん」

 ぐおっと襟首を持たれて、首が、首が締まる!
 何か大変なことを、僕はしてしまったのか!?
 死ぬのか、今日!?

「⋯⋯な、に?」
「痛かったっすよね! サーセン!」

 力が入らない手で、高原くんの腕をペチペチ叩く。ハッと気づいてくれて、踵までしっかり床に着く。
 ゲホッとむせる。

「⋯⋯サーセン」

 高原くんは、捨てられた子犬のような顔をしていた。
 かわいそうになった僕は、思わず手を彼の頭に乗せた。

「そんなに謝らなくても大丈夫だよ」
「あの、俺、大丈夫じゃなくて」
「うん、何が?」
「あと何人の知り合いがここにいるんすか? 全部、八木さんに着いて回ろうと思ってたけど、なんか胸が痛くて、もうちょっと無理って言うか、ほんと、ここにいるのが無理って言うかッ。でも八木さんひとりをここに残していくのはもっと無理って言うかッ」

 ここに来て、いきなりたくさん喋るな、この子。
 情報量過多。

「大丈夫、子供じゃないからひとりで回れるよ」
 にこーっと、できるだけ子供にしてあげるように優しく微笑む。できるだけ、優しく。

「全然、大丈夫じゃないっすよ! さっきまでみたいのが他にも」
「まぁ、一応僕にも友達はいるんだけどね。悪い人ばかりじゃないし。さっきの山田さんだって、笑いのツボが浅すぎるだけで、全然悪い人じゃないし」
「でも⋯⋯」

 ポンポンと肩を叩く。
 落ち着かせるにはスキンシップが一番に違いない。

「何が嫌なの? 気分悪くなっちゃった? 絵の具の匂いに当てられた?」
「⋯⋯違う」
「どうしたの? まぁ帰ってもいいけど。どうせ僕は搬出日にも来ることになりそうだし」
「違う。八木さんとふたりで回りたい。ふたりきりなのに、さっきみたいなのは意味がない」
「⋯⋯”カレカレ”?」

 恐る恐る聞いてみる。
 マジかよ。冗談じゃないのかよ。なんだよ”カレカレ”って。
 高原くんは頬を染めていた。

「ダメですか?」

 ⋯⋯ッ!?
 何が?
 何がダメなの? 教えて、恋愛マスター!

「独り占め、したいっす」

 デレなの? 急にデレなの?
 高原くんは、僕のブレザーの袖を、ギュッと握った。

 あれかなー?
 実はお兄さんかお姉さんがいて、しかも複数いて、末っ子体質ってヤツか!?
 それともひとりっ子で、実は甘えただったり?
 ひとりじゃ会場回れないなんて⋯⋯。

「⋯⋯かわいい」
「えッ? それは八木さんっす!」
「ああ、ごめんごめん、ヒトリゴトです」

  ――甘えたさん、かわいくないか!?

(続)