展覧会当日、僕たちはそれぞれ個人の都合のいい時に美術館に足を運ぶことになる。
 結局、高原くんと同じ搬入日を担当することになった僕は、作品を展示場所に運ぶと、額の汗を拭った。

「八木さん、これ」
 すっと差し出されたのは抹茶ラテで、学校の購買横の自販機で売ってるものと同じだった。
 ちなみに、マイフェイバリットだ。

「ええッ、高原くん、悪いよ」
「未開封です」
「じゃあお金払うよ」
「学校で買ったんで、安かったからいいんで」

 学校で、買った⋯⋯?
 ざわざわする。もしかして、今日のために、僕のために買ってきた、とか?
 いやいやいや、考えすぎだろう?
 きっと、買ったけど飲まなかったんだ。そうに違いない。

「⋯⋯好きですよね?」
「好きだよ」

 ぶはっと下品な声がして、佐々木さんが僕らを指差して笑った。

「『好きですよね?』、『好きだよ』って、ふたりのワールド作るのやめてあげて! 息が、窒息する!」

 ギャハハとそのまま、涙目で笑い続けた。

「⋯⋯チッ」と小さく高原くんが舌打ちするのを、僕は聞き逃さなかった。

 ――小さい愛が、ちょっと重い。はぁ。

(続)