「高原くんは搬入でいいのかな?」

 いよいよ展覧会が始まる。展覧会は県内の県立高校すべてから出品される、大規模なものだ。
 その前に、出品作品を搬入し、閉会時には搬出しなければいけない。搬入、搬出日は公欠扱いになるので、あらかじめ学校に申請しなければいけない。

「八木さんと同じ日が」
「あはッ、出たでた、スバルくんのか”八木さんと同じ”! 文化祭の当番も八木くんと同じだったもんね。お兄ちゃんと一緒がいいってヤツ?」

 僕と同学年の佐々木さんが高原くんに訊く。
 僕も同じことを思ってた。

「違うっす」
「違うんだ? じゃあどういう感情?」

 部室にいたみんなの目が高原くんに集まる。
 高原くんは、マイクテストの時のように「あー」と声を出した。
 僕も、絵を梱包する手が止まる。

「どっちかと言うと”カレカノ”」
 瞬間、沈黙。その後、爆笑。
 みんなの手も止まる。
 僕ひとりが、作業に戻る。か、顔が熱いんだが。

「”カレカノ”って、意味わかる? どっちが”彼氏”で、どっちが”彼女”?」
 高原くんは顔色ひとつ変えずに「どっちかっつーと、俺が”彼氏”のイメージ。でも八木さんに合わせます」

 佐々木さんは大きな声で、ギャハハと笑った。
 僕だって、笑える立場ならいい。
 でもなんだか、そういう雰囲気では。

「違うじゃん。男同士ならどっちも”彼氏”じゃん」

 同じく2年生の鈴木さんが言う。
 恥ずかしい。そういうのでは、断じてないのに、何も言えない自分が恥ずかしい。

「だってよー、部長。愛されてるね」
「部に男はふたりしかいないから。そういう意味で仲良くしてるんだよね」
「⋯⋯違うけど」
「違うんだ? じゃあ――」
「違わない! 懐かれててうれしいな。終わりッ」

 自分でも不自然に、話をぶった切ってしまった!
 落ち着け⋯⋯落ち着け⋯⋯。
 深呼吸しても、胸の鼓動は弱まらなかった。

 高原くんはすすすっと気づいたら隣にいて、「”彼氏”の方がよかったですよね。サーセン」と言って、去っていった。

 ええッ!?

(続)