白銀荘──グラファイトの壁に囲まれた、冷たく光る国。
銀警察署の事務室では、窓に霧が張りつく。
署長代理の球磨は、白い髪と白色の瞳を持つ屈強な男だ。だがその見た目に似合わず、選抜のセンスは壊滅的にポンコツだった。
その日、白銀荘外からの緊急通報が飛び込んだ。
「海で人間が溺れてる! 助けてくれ!」
スピーカーの叫びに、球磨はデスクでコーヒーをこぼしながら軽く叫ぶ。
「おっと、ドラマチック! すぐ行く★」
そして、何の迷いもなく出動メンバーを選抜する。
「よし、オジェ=ル=ダノワ一択!」
ニヤニヤと口角を上げる球磨の前で、別の銀警官・阿武隈の顔色がみるみる青ざめる。
阿武隈――白髪と白色の瞳を持つ、同じく屈強な男。だが彼は、オジェが苦手どころか、生理的に受けつけなかった。
「気持ち悪い」
彼はオジェが勤務の日は必ず外勤か休暇を取るほどの徹底ぶりだ。
そして案の定、トイレへ駆け込み、ガチャガチャと鍵をかけて盛大に嘔吐する。
「気色悪い」
個室の中から、震える声が響いた。
一方のオジェ=ル=ダノワは、冷酷無慈悲な銀警官。
チェーンソー付きの大斧を振るい、任務では機械のような精度を誇る。海の救出でも、彼は船の残骸を大斧で切り裂き、溺れていた人間を文字通り引きずり出して救った。報告レポートを片手に署へ戻ると、球磨は更衣室でイヤホンをつけたまま爆睡中。実況ゲームの「クリアー!」という声が微かに響いていた。
仕方なく、レポートを受け取ったのは、トイレから這い出してきた阿武隈だった。
「触りたくない助けて」
震えながら書類を開いた瞬間、チェーンソーの描写と血の飛沫が生々しく描かれた報告書を目にし、彼は再びこみ上げる吐き気に襲われる。
「助けて署長、こいつ殺して」
絶叫とともに阿武隈の白い瞳がぐるぐると回転し、次の瞬間、その身体がふわりと浮き上がった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(以下略)!!!!!!!」
悲鳴を上げながら、彼は訓練施設の上空で金色の閃光と共に爆発。
ドカーンと轟音を響かせ、広場に大の字で墜落した。金血呪詛病(ホモtheゲイ)ではない。単なる精神崩壊の爆発だった。
騒ぎを聞きつけたオジェが、重い足音で現れる。
「……何の騒ぎだ?」
冷たく呟くと、阿武隈を無造作に肩へ担ぎ上げた。
「助ける義理はないけど、放置も面倒だ」
彼の瞳には一片の感情もない。
阿武隈は涙目で呻く。
「死ね」
けれど抵抗むなしく、オジェはそのまま阿武隈を事務室へ運び、床に放り出した。
その頃、球磨はようやく目を覚ます。
「おっつー★」
ヘラヘラと笑う球磨に、阿武隈は床から震える声で呪詛を吐く。
「死ね」
海の救出は成功した。だが、阿武隈の心は完全に崩壊していた。
霧が濃く、白銀の壁が冷たく光る夜。
そして――球磨のポンコツな選抜は、また新たな波乱を署にもたらす。
オジェの大斧が海を切り裂いた夜、
阿武隈の悲鳴は霧に溶け、誰も答えなかった。
銀警察署の事務室では、窓に霧が張りつく。
署長代理の球磨は、白い髪と白色の瞳を持つ屈強な男だ。だがその見た目に似合わず、選抜のセンスは壊滅的にポンコツだった。
その日、白銀荘外からの緊急通報が飛び込んだ。
「海で人間が溺れてる! 助けてくれ!」
スピーカーの叫びに、球磨はデスクでコーヒーをこぼしながら軽く叫ぶ。
「おっと、ドラマチック! すぐ行く★」
そして、何の迷いもなく出動メンバーを選抜する。
「よし、オジェ=ル=ダノワ一択!」
ニヤニヤと口角を上げる球磨の前で、別の銀警官・阿武隈の顔色がみるみる青ざめる。
阿武隈――白髪と白色の瞳を持つ、同じく屈強な男。だが彼は、オジェが苦手どころか、生理的に受けつけなかった。
「気持ち悪い」
彼はオジェが勤務の日は必ず外勤か休暇を取るほどの徹底ぶりだ。
そして案の定、トイレへ駆け込み、ガチャガチャと鍵をかけて盛大に嘔吐する。
「気色悪い」
個室の中から、震える声が響いた。
一方のオジェ=ル=ダノワは、冷酷無慈悲な銀警官。
チェーンソー付きの大斧を振るい、任務では機械のような精度を誇る。海の救出でも、彼は船の残骸を大斧で切り裂き、溺れていた人間を文字通り引きずり出して救った。報告レポートを片手に署へ戻ると、球磨は更衣室でイヤホンをつけたまま爆睡中。実況ゲームの「クリアー!」という声が微かに響いていた。
仕方なく、レポートを受け取ったのは、トイレから這い出してきた阿武隈だった。
「触りたくない助けて」
震えながら書類を開いた瞬間、チェーンソーの描写と血の飛沫が生々しく描かれた報告書を目にし、彼は再びこみ上げる吐き気に襲われる。
「助けて署長、こいつ殺して」
絶叫とともに阿武隈の白い瞳がぐるぐると回転し、次の瞬間、その身体がふわりと浮き上がった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ(以下略)!!!!!!!」
悲鳴を上げながら、彼は訓練施設の上空で金色の閃光と共に爆発。
ドカーンと轟音を響かせ、広場に大の字で墜落した。金血呪詛病(ホモtheゲイ)ではない。単なる精神崩壊の爆発だった。
騒ぎを聞きつけたオジェが、重い足音で現れる。
「……何の騒ぎだ?」
冷たく呟くと、阿武隈を無造作に肩へ担ぎ上げた。
「助ける義理はないけど、放置も面倒だ」
彼の瞳には一片の感情もない。
阿武隈は涙目で呻く。
「死ね」
けれど抵抗むなしく、オジェはそのまま阿武隈を事務室へ運び、床に放り出した。
その頃、球磨はようやく目を覚ます。
「おっつー★」
ヘラヘラと笑う球磨に、阿武隈は床から震える声で呪詛を吐く。
「死ね」
海の救出は成功した。だが、阿武隈の心は完全に崩壊していた。
霧が濃く、白銀の壁が冷たく光る夜。
そして――球磨のポンコツな選抜は、また新たな波乱を署にもたらす。
オジェの大斧が海を切り裂いた夜、
阿武隈の悲鳴は霧に溶け、誰も答えなかった。



