白銀荘――グラファイトの壁に囲まれた、霧と金属の匂いが漂う国。
銀警察署の事務室には薄い靄が流れ込み、窓には水滴が張りついていた。
今日も、球磨はいつもどおり机で鼻歌を歌っていた。
白い髪、白い瞳の屈強な男。銀警官であり署長代理でもあるが、選抜センスに関しては壊滅的なポンコツを誇る。
その時――デスクの上の公衆電話が鳴った。
古めかしいベルの音と同時に、受話器の向こうで悲鳴が響く。
「お願い! 義理の妹、ファイヤ=オーリを助けて! 学校が大火災で、閉じ込められてるの!」
声の主はファイ=オパーラ。白銀荘の外に住む女性だ。
必死の叫びに、球磨の白い瞳が一瞬だけ細められる。
「おっと、これは燃える展開だ! 任せな★」
軽いノリで引き受けたが、耳の奥には「頼む、妹を……!」という声が残った。
ファイの義妹、ファイヤ=オーリ。学校の火災現場に取り残された少女――。
球磨はデスクの端を指で弾きながら、出動メンバーを即決する。
「よし、オジェくん! あいつなら余裕っしょ★」
オジェ=ル=ダノワ。冷酷で無慈悲な銀警官。
大斧にチェーンソーを仕込んだ化け物で、白黒者も黒者もまとめて切り刻む抹殺屋だ。
そのうえ金血を吸収して戦闘能力を自在に変化させる厄介な奴でもある。
「これで解決★」
球磨はニヤリと笑う。だが、その横で書類の山に埋もれていた多摩が椅子を蹴った。
「おい球磨たん! そこは人間のレスキューに頼むべきなんだけどさ、やっちゃったもんは取り戻せないからいいっす★」
多摩はレポートを片手に詰め寄る。
「オジェくんの報告によると、火災の規模がデカすぎる! それに救助任務に抹殺マニアとか! ファイヤくんってどの人種か? ただの学生なら、さっき言った人間のレスキューに丸投げしないと★」
球磨は手をひらりと振って笑った。
「まあまあ、多摩ちゃん。大丈夫っす★」
「そっすか★」
多摩は適当に返事した。
球磨は気にする様子もなく、丸めた書類を投げて気怠げに笑った。
「細か過ぎること考えてもハゲるだけだって! なので、多摩ちゃん。気晴らしにテーマパーク行こ!」
「おぉ球磨たん、良いねぇ。行こ★」
球磨の誘いに潔く応える多摩だった。
――そして数時間後。
白銀荘の中心にある巨大テーマパーク。
ジェットコースターの絶叫、綿あめの甘い匂い、ぴかぴかの観覧車。
球磨はポップコーン片手にヘラヘラ笑い、多摩はドリンクを握ってため息をついた。
「君さ……ファイくんの依頼受けてから何時間経ったと思ってんだよ」
「いやぁ、でもさぁ。あの声、必死だったな!」
「君ほんとに聞いてたか?」
多摩は呆れながらも、脳裏に炎を裂くオジェの姿を思い浮かべる。
赤い炎、鋭い大斧。燃える校舎で、少女を狙う影――。
「マジで無事済む?」
「大丈夫っしょ★」
笑ってグラスを掲げる球磨。
テーマパークの喧騒が夜霧の中に響く。
二人の笑い声は軽やかに溶けていくが、胸の奥ではチクリと不安が疼いていた。
霧が濃くなり、観覧車の光が滲む。
球磨の「今日も元気に行こう!」という明るい声が夜空に響き、多摩はふと、低く呟いた。
「依頼、多分成功っすね★」
ファイ=オパーラの叫び、火災の報。
そして、球磨の“ポンコツ選抜”。
すべてが霧の向こうへと溶けていく。
白銀の壁が冷たく輝いていた。
銀警察署の事務室には薄い靄が流れ込み、窓には水滴が張りついていた。
今日も、球磨はいつもどおり机で鼻歌を歌っていた。
白い髪、白い瞳の屈強な男。銀警官であり署長代理でもあるが、選抜センスに関しては壊滅的なポンコツを誇る。
その時――デスクの上の公衆電話が鳴った。
古めかしいベルの音と同時に、受話器の向こうで悲鳴が響く。
「お願い! 義理の妹、ファイヤ=オーリを助けて! 学校が大火災で、閉じ込められてるの!」
声の主はファイ=オパーラ。白銀荘の外に住む女性だ。
必死の叫びに、球磨の白い瞳が一瞬だけ細められる。
「おっと、これは燃える展開だ! 任せな★」
軽いノリで引き受けたが、耳の奥には「頼む、妹を……!」という声が残った。
ファイの義妹、ファイヤ=オーリ。学校の火災現場に取り残された少女――。
球磨はデスクの端を指で弾きながら、出動メンバーを即決する。
「よし、オジェくん! あいつなら余裕っしょ★」
オジェ=ル=ダノワ。冷酷で無慈悲な銀警官。
大斧にチェーンソーを仕込んだ化け物で、白黒者も黒者もまとめて切り刻む抹殺屋だ。
そのうえ金血を吸収して戦闘能力を自在に変化させる厄介な奴でもある。
「これで解決★」
球磨はニヤリと笑う。だが、その横で書類の山に埋もれていた多摩が椅子を蹴った。
「おい球磨たん! そこは人間のレスキューに頼むべきなんだけどさ、やっちゃったもんは取り戻せないからいいっす★」
多摩はレポートを片手に詰め寄る。
「オジェくんの報告によると、火災の規模がデカすぎる! それに救助任務に抹殺マニアとか! ファイヤくんってどの人種か? ただの学生なら、さっき言った人間のレスキューに丸投げしないと★」
球磨は手をひらりと振って笑った。
「まあまあ、多摩ちゃん。大丈夫っす★」
「そっすか★」
多摩は適当に返事した。
球磨は気にする様子もなく、丸めた書類を投げて気怠げに笑った。
「細か過ぎること考えてもハゲるだけだって! なので、多摩ちゃん。気晴らしにテーマパーク行こ!」
「おぉ球磨たん、良いねぇ。行こ★」
球磨の誘いに潔く応える多摩だった。
――そして数時間後。
白銀荘の中心にある巨大テーマパーク。
ジェットコースターの絶叫、綿あめの甘い匂い、ぴかぴかの観覧車。
球磨はポップコーン片手にヘラヘラ笑い、多摩はドリンクを握ってため息をついた。
「君さ……ファイくんの依頼受けてから何時間経ったと思ってんだよ」
「いやぁ、でもさぁ。あの声、必死だったな!」
「君ほんとに聞いてたか?」
多摩は呆れながらも、脳裏に炎を裂くオジェの姿を思い浮かべる。
赤い炎、鋭い大斧。燃える校舎で、少女を狙う影――。
「マジで無事済む?」
「大丈夫っしょ★」
笑ってグラスを掲げる球磨。
テーマパークの喧騒が夜霧の中に響く。
二人の笑い声は軽やかに溶けていくが、胸の奥ではチクリと不安が疼いていた。
霧が濃くなり、観覧車の光が滲む。
球磨の「今日も元気に行こう!」という明るい声が夜空に響き、多摩はふと、低く呟いた。
「依頼、多分成功っすね★」
ファイ=オパーラの叫び、火災の報。
そして、球磨の“ポンコツ選抜”。
すべてが霧の向こうへと溶けていく。
白銀の壁が冷たく輝いていた。



