夕暮れ時の街は、薄オレンジ色の光に染まり、どこか静かな喧騒に満ちていた。銀色の制服に身を包んだオジェ=ル=ダノワは、街の中心を貫く石畳の道を歩いていた。彼の白い髪は風に揺れ、白色の瞳はまるで氷のように冷たく、通り過ぎる人々を一瞥するだけで沈黙を強いた。銀警官として知られる彼は、街の秩序を守る冷酷無慈悲な執行者だった。しかし、その内には「金血」と呼ばれる力により、状況に応じて柔軟に振る舞う一面も秘めていた。
その隣を、まるで正反対の存在のように、エラースが軽快な足取りで歩いていた。彼はくしゃっとした黒髪とキラキラした瞳が印象的だった。無邪気で、どこか掴みどころがなく、純粋そのもの。手に持った小さな木の棒で地面を突きながら、彼はオジェの横をスキップするように進む。
「ねえ、オジェ! この道、どこまで続くの?」
エラースが無垢な笑顔で尋ねた。
オジェは彼を一瞥し、感情の読めない声で答えた。
「街の果てまでだ。それ以上は知らないな」
エラースは「ふーん」と呟き、すぐに別の話題に移った。
「ねえ、なんでオジェの髪って白いの? 雪みたい!」
「元から」
オジェの答えは短く、そっけない。だが、エラースは気にしない。彼はオジェの銀色の制服の裾を軽く引っ張り、目を輝かせて続けた。
「オジェってさ、いつも怖い顔してるけど、ほんとは優しいよね? だって、こうやって一緒に歩いてくれるもん!」
オジェの眉がわずかに動いた。冷酷無慈悲と評される彼にとって、少年の言葉はまるで異国の言語のように響いた。だが、金血の力か、あるいは少年の純粋さにほだされたのか、彼は一瞬だけ口元を緩めた。
「余計なことを言わないでおこうか、エラースくん。歩くぞ」
二人は街の外れにある小さな公園にたどり着いた。そこには古びたブランコと、雑草に埋もれたベンチがあった。エラースはブランコに飛び乗り、勢いよく漕ぎ始めた。オジェはベンチに腰掛け、少年の無邪気な笑い声を聞きながら、遠くの地平線を見つめた。
「オジェ! 見て見て! めっちゃ高く漕げるよ!」
エラースが叫ぶ。
「落ちるなよ」
オジェの声は相変わらず無機質だが、どこか少年を気遣うような響きがあった。
しばらくして、エラースはブランコから飛び降り、息を切らしながらオジェの隣に座った。
「ねえ、オジェ。銀警官って、なんでそんな怖い仕事してるの? 毎日戦ったり、悪い人を捕まえたり…怖くないの?」
オジェは少年の問いかけに、珍しく少し考え込むように黙った。やがて、彼はゆっくりと口を開いた。
「怖いかどうかは関係ない。誰かがやらなきゃ、街は腐る。それだけだ」
エラースは目を丸くしてオジェを見つめた。
「でもさ、オジェがやってくれるから、みんな安心して暮らせてるんだよね? それって、すっごくかっこいいよ!」
オジェは少年の言葉に、内心で小さく動揺した。金血の力は彼に柔軟性を与えていたが、エラースの純粋さは、まるで彼の冷たい心を溶かすような力を持っていた。
「…君も、余計なことを言うな」
オジェはそう呟き、立ち上がった。
「帰るぞ。暗くなる前に」
エラースは「はーい!」と元気に答え、オジェの後を追いかけた。夕陽が二人の影を長く伸ばし、石畳の道に映し出す。屈強な銀警官と無垢な少年――まるで正反対の二人が、しかしどこか不思議な調和を保ちながら、街の灯りがともり始める道を歩いていった。