夕暮れの森、赤く染まる空の下、アクゼリュスとエラースは静かな小道を歩いていた。アクゼリュスは白い髪を風になびかせ、白色の瞳がまるで月光のように冷たく輝く。屈強な体はまるで戦場から抜け出してきたかのようで、彼の足音は重く、地面に刻まれるたび小さな砂利が跳ねた。一方、エラースは軽やかな足取りでその横を歩く。少年の目はキラキラと輝き、無垢な笑顔が森の静寂に不思議な温かさをもたらしていた。
「ねえ、アクゼリュス! 見て、この花! こんなちっちゃいのに、ちゃんと咲いてるよ!」
エラースは道端にひっそりと咲く小さな白い花を見つけ、しゃがみ込んで指でそっと触れた。その無邪気な声は、まるでこの荒々しい世界にそぐわない純粋さで響いた。
アクゼリュスは立ち止まり、少年を一瞥した。普段なら花など踏み潰し、破壊の美しさを讃える彼だったが、エラースの笑顔を前に、奇妙な空白が胸に広がるのを感じた。
「ふーん。んなもん、すぐに枯れる。弱いものは消える運命だ」と吐き捨てるように言ったが、声にはいつもの鋭さが欠けていた。
エラースは目を丸くしてアクゼリュスを見上げた。
「枯れても、また新しいのが咲くよ! それって、すっごく強いことだと思うな!」
少年は花をそっと摘み、アクゼリュスの大きな手に握らせた。アクゼリュスの指に触れた花は、まるで彼の暴力的な存在に耐えるかのように、か細くも凛としていた。
アクゼリュスは花を見つめ、内心で苛立ちと混乱が渦巻いた。破壊こそが真実、痛みこそが解放――それが彼の信念だった。なのに、この少年の無垢な言葉は、まるで彼の狂気を嘲笑うかのように心に刺さる。
「君…なぜそんな目で僕を見る?」
彼の声は低く、まるで自分自身に問いかけるようだった。
エラースは首を傾げ、にっこり笑った。
「アクゼリュス、すっごく強いから、いつもキラキラしてるんだよ! でも、キラキラって、戦うだけじゃないよね? こうやって一緒に歩くのだって、キラキラしてると思うな!」
その瞬間、アクゼリュスは言葉を失った。戦闘狂の心に、初めての亀裂が生じたかのようだった。エラースの純粋さは、彼の倒錯した価値観を揺さぶり、破壊の快楽とは異なる何か――名もなき感情を呼び起こしていた。アクゼリュスは花を握り潰そうとした手を止め、代わりにそっと握りしめた。
「……そ。…君といると、僕の壊したいものが分からなくなる」
彼は苦笑し、エラースの頭を軽く叩いた。
「行くぞ、ガキ。まだ道は長い」
エラースは「うん!」と元気に答え、アクゼリュスの横をスキップするように歩き出した。二人の影は夕陽に長く伸び、まるで相反する二つの魂が、ほんの一瞬、同じ道を歩んでいるかのようだった。