秋の午後、風がそよぐ田舎道をエラースとバチカルが歩いていた。エラースは小さな手を振り、道端のタンポポを指さしては無邪気に笑う。少年の瞳はキラキラと輝き、まるで世界の全てが新鮮な驚きに満ちているようだった。
「バチカル! 見て見て、この花、ふわふわだよ! 吹いたら飛ぶかな?」
エラースはタンポポを摘み、ふぅっと息を吹きかけた。白い綿毛が舞い上がり、少年は手を叩いて喜んだ。
バチカルはそんなエラースを一瞥し、白い髪を揺らしながら無言で歩き続ける。屈強な体躯に白い瞳、まるで氷のような男の視線は遠くの地平線に固定されていた。彼にとって、道端の花など眼中になかった。重要なのは前進すること、生きること、そして勝つこと。それ以外のものは無意味だ。
「エラース、遊んでる暇はない。歩くぞ」と、低く響く声で言った。
「えー、でもさ、バチカル、こんな日はゆっくり歩いた方が楽しいよ!」
エラースは屈託なく笑い、バチカルの大きな手を握ろうとした。だが、バチカルは反射的に手を引き、無表情で少年を見下ろした。
「握るな。邪魔だ」
その言葉は冷たく、まるで刃のようだった。エラースは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにケラケラと笑い出した。
「バチカル、怖い顔してるけど、優しいよね。だって、こうやって一緒に歩いてくれるもん!」
バチカルは眉をひそめ、内心で苛立ちを覚えた。優しい? そんな言葉は彼の辞書にない。生きるか死ぬか、勝つか負けるか。それだけが全てだ。少年の純粋さは、バチカルの理解を超えていた。だが、なぜかその無垢な笑顔を見ると、いつもなら即座に切り捨てる感情が胸の奥で揺れる。バチカルはそれを無視し、歩みを速めた。
「遅れるな、エラース。置いていくぞ」
道の先には小さな橋がかかっていた。橋の下を流れる川のせせらぎが、エラースの注意を引いた。「バチカル、魚いるかな? 見てみようよ!」
少年は橋の欄干に駆け寄り、身を乗り出して水面を覗き込んだ。バチカルは立ち止まり、腕を組んで少年を見守った。危険はないかと周囲を鋭く見渡し、いつでも動けるように身構えた。戦場で培ったその感覚は、こんな平和な田舎道でも消えることはなかった。
「バチカル、ほら! ちっちゃい魚が泳いでる! キラキラしてるよ!」
エラースの声は弾んでいた。バチカルは一歩近づき、川を一瞥した。
「魚か。食えるか?」
その言葉に、エラースはぷっと吹き出した。
「バチカル、なんでも食べるか戦うかで考えるの? 魚は見て楽しむんだよ!」
バチカルは鼻を鳴らし、少年の言葉を無視した。「楽しむ? そんな暇があるなら、強くなる方法を考えたらどうだ?」
だが、エラースは聞いていない様子で、欄干に頬杖をつきながら川面を眺めていた。
「バチカル、強くなるのって大事だけど、こうやってキレイなもの見るのも大事だよね。心がほわっとするんだ」
その言葉に、バチカルは一瞬言葉を失った。心? そんな曖昧なものは、彼の価値観には存在しない。だが、エラースの無垢な笑顔と、川面に映る少年の小さな影を見ているうちに、なぜか胸の奥に小さな波紋が広がった。バチカルはそれを否定するように首を振った。
「行くぞ、エラース。日が暮れる」
「はーい!」
エラースは元気に答え、バチカルの後を追いかけた。少年の小さな足音と、バチカルの重い足音が、田舎道に響き合う。対照的な二人は、言葉少なに、しかしどこか通じ合うように歩き続けた。バチカルは気づかぬうちに、エラースのペースに合わせて歩幅を少し緩めていた。
「バチカル! 見て見て、この花、ふわふわだよ! 吹いたら飛ぶかな?」
エラースはタンポポを摘み、ふぅっと息を吹きかけた。白い綿毛が舞い上がり、少年は手を叩いて喜んだ。
バチカルはそんなエラースを一瞥し、白い髪を揺らしながら無言で歩き続ける。屈強な体躯に白い瞳、まるで氷のような男の視線は遠くの地平線に固定されていた。彼にとって、道端の花など眼中になかった。重要なのは前進すること、生きること、そして勝つこと。それ以外のものは無意味だ。
「エラース、遊んでる暇はない。歩くぞ」と、低く響く声で言った。
「えー、でもさ、バチカル、こんな日はゆっくり歩いた方が楽しいよ!」
エラースは屈託なく笑い、バチカルの大きな手を握ろうとした。だが、バチカルは反射的に手を引き、無表情で少年を見下ろした。
「握るな。邪魔だ」
その言葉は冷たく、まるで刃のようだった。エラースは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにケラケラと笑い出した。
「バチカル、怖い顔してるけど、優しいよね。だって、こうやって一緒に歩いてくれるもん!」
バチカルは眉をひそめ、内心で苛立ちを覚えた。優しい? そんな言葉は彼の辞書にない。生きるか死ぬか、勝つか負けるか。それだけが全てだ。少年の純粋さは、バチカルの理解を超えていた。だが、なぜかその無垢な笑顔を見ると、いつもなら即座に切り捨てる感情が胸の奥で揺れる。バチカルはそれを無視し、歩みを速めた。
「遅れるな、エラース。置いていくぞ」
道の先には小さな橋がかかっていた。橋の下を流れる川のせせらぎが、エラースの注意を引いた。「バチカル、魚いるかな? 見てみようよ!」
少年は橋の欄干に駆け寄り、身を乗り出して水面を覗き込んだ。バチカルは立ち止まり、腕を組んで少年を見守った。危険はないかと周囲を鋭く見渡し、いつでも動けるように身構えた。戦場で培ったその感覚は、こんな平和な田舎道でも消えることはなかった。
「バチカル、ほら! ちっちゃい魚が泳いでる! キラキラしてるよ!」
エラースの声は弾んでいた。バチカルは一歩近づき、川を一瞥した。
「魚か。食えるか?」
その言葉に、エラースはぷっと吹き出した。
「バチカル、なんでも食べるか戦うかで考えるの? 魚は見て楽しむんだよ!」
バチカルは鼻を鳴らし、少年の言葉を無視した。「楽しむ? そんな暇があるなら、強くなる方法を考えたらどうだ?」
だが、エラースは聞いていない様子で、欄干に頬杖をつきながら川面を眺めていた。
「バチカル、強くなるのって大事だけど、こうやってキレイなもの見るのも大事だよね。心がほわっとするんだ」
その言葉に、バチカルは一瞬言葉を失った。心? そんな曖昧なものは、彼の価値観には存在しない。だが、エラースの無垢な笑顔と、川面に映る少年の小さな影を見ているうちに、なぜか胸の奥に小さな波紋が広がった。バチカルはそれを否定するように首を振った。
「行くぞ、エラース。日が暮れる」
「はーい!」
エラースは元気に答え、バチカルの後を追いかけた。少年の小さな足音と、バチカルの重い足音が、田舎道に響き合う。対照的な二人は、言葉少なに、しかしどこか通じ合うように歩き続けた。バチカルは気づかぬうちに、エラースのペースに合わせて歩幅を少し緩めていた。



