夕暮れの街は、冷たい風が石畳を撫でる静かな時間帯だった。ラ=イルは銀色の制服に身を包み、鋭い白い瞳で通りを見据えていた。その背はまるで鉄の柱のように揺るがず、歩くたびにブーツの音が規則正しく響く。彼の白い髪は風に揺れ、まるで雪のような冷たさを漂わせていた。銀警官として、彼は街の秩序を守る冷徹な執行者であり、誰もがその視線を避けた。
その隣を、エラースが軽やかな足取りで歩いていた。少年の目はキラキラと輝き、通りすがりの花や空を舞う鳥にすぐに心を奪われる。無垢で純粋なその笑顔は、まるでこの灰色の街に咲いた一輪の花のようだった。エラースはラ=イルの大きな手に自分の小さな手を握らせ、時折スキップしながら歩く。掴みどころのない少年の無邪気さは、ラ=イルの冷酷な空気とまるで正反対だった。
「ラ=イル、ねえ、あそこ! あの木の実、食べられるかな?」
エラースが指差したのは、街路樹に実った赤い果実だった。少年の声は弾むように明るい。
ラ=イルは無表情にその木を見上げ、冷たく答えた。
「毒だ。触るな」
「えーっ、でもキレイだよ! 持って帰って飾ろうよ!」
エラースは屈託なく笑い、ラ=イルの腕を引っ張る。その純粋さに、ラ=イルの眉が一瞬だけ動いたが、すぐに元の無表情に戻った。
二人は街の外れにある川辺まで歩いた。エラースは水面に映る夕陽を見て目を輝かせ、しゃがみ込んで水をかき混ぜる。
「見て、ラ=イル! キラキラしてる! まるで星が水の中に落ちたみたい!」
ラ=イルは少年の後ろに立ち、じっと水面を見つめた。彼の心は、普段なら無駄な感情を切り捨てるように鍛えられていたが、エラースの無垢な喜びを前に、ほんの一瞬、凍てついた胸の奥に何か温かいものが揺れるのを感じた。だが、彼はそれをすぐに押し殺した。
「時間だ。帰るぞ」
ラ=イルの声は低く、命令的だった。
「もうちょっと! ねえ、ラ=イル、明日もここ来ようよ!」
エラースは振り返り、満面の笑みでラ=イルを見上げた。その目はまるで世界に何の汚れも知らないかのようだった。
ラ=イルは少年の頭に手を置き、乱暴とも言える仕草で髪をくしゃっと撫でた。
「…好きにしな」
彼の声には、ほんのわずかだが、普段の冷徹さとは異なる柔らかさが混じっていた。
二人は川辺を後にし、街へと戻った。ラ=イルの重い足音と、エラースの軽やかな笑い声が、夕暮れの空に溶け合っていく。冷酷な銀警官と無垢な少年――まるで光と影のような二人の散歩は、街に小さな波紋を残しながら続いた。