夕暮れの街、冷たい風が石畳を撫でる。アルジーヌは銀色の警官制服に身を包み、白い髪をなびかせながら歩く。白い瞳は鋭く、まるで全てを見透かすようだ。彼の隣にはエラース、少年らしい軽やかな足取りで、口元に無垢な笑みを浮かべている。エラースの目はきらきらと輝き、道端の花や空を舞う鳥に心を奪われている。
「アルジーヌ、ねえ、あの雲、羊みたいじゃない?」
エラースが指差す。無邪気な声が静かな街に響く。
アルジーヌはちらりと空を見上げ、冷たく答える。
「雲は雲だ。羊に見えるのは君の想像だ、エラース」
エラースはくすくす笑い、アルジーヌの腕に軽く触れる。
「ふーん、でもさ、想像するのって楽しいよ! アルジーヌもやってみたら?」
アルジーヌの口元に一瞬、薄い笑みが浮かぶが、すぐに消える。
「無駄なことだ。僕の仕事は現実を見ることだ」
彼の声には、どこか冷酷な響きがある。だが、エラースはその言葉を気にも留めず、道端の石を蹴って遊び始める。
二人は川沿いの小道を歩く。アルジーヌの目は周囲を常に監視し、まるで獲物を探す獣のようだ。一方、エラースは水面に映る夕陽に目を奪われ、「わあ、キラキラしてる!」と手を叩く。その純粋さに、アルジーヌの眉がわずかに動く。
「エラースくん、なぜそんなことで喜べる?」
アルジーヌが問う。声は低く、どこか探るような響き。
エラースは振り返り、屈託のない笑顔で答える。「だって、キレイなんだもん! アルジーヌだって、キレイなもの見たらドキドキするでしょ?」
アルジーヌは一瞬言葉に詰まる。ドキドキ? そんな感情は彼の狡猾で冷徹な心には無縁のはずだ。だが、エラースの無垢な瞳を見ていると、なぜか胸の奥に小さな波が立つ。彼はそれを無視し、歩みを進める。
「行くぞ、遅れるな」
エラースは「はーい!」と元気に答え、アルジーヌの後を追いかける。少年の軽やかな足音と、銀警官の重いブーツの音が、夕暮れの街に不思議な調和を奏でる。
二人は橋の上で立ち止まる。エラースは欄干に身を乗り出し、川面を覗き込む。
「ねえ、アルジーヌ、もしこの川がどこまでも続いてたら、どこに行くんだろう?」
アルジーヌは少年の横に立ち、川の流れを見つめる。
「どこにも行かない。川はただ流れるだけだ」
エラースは首を振って笑う。
「アルジーヌ、ほんと真面目だね! でもさ、流れてくだけでも、なんかワクワクするよね!」
アルジーヌは答えない。ただ、少年の笑顔を横目で見る。エラースの純粋さは、アルジーヌの冷たい心に小さなひびを入れる。だが、彼はそれを認めない。銀警官として、感情は不要だ。
「そろそろ戻るぞ、エラースくん」
アルジーヌは言う。エラースは名残惜しそうに頷き、「また散歩しようね!」と笑う。
二人は夕陽に背を向け、街の灯りがともり始めた道を歩き出す。アルジーヌの白い瞳には、ほんの一瞬、エラースの笑顔が映っていた。