冷たい秋風が、街の石畳を静かに撫でていた。夕暮れ時の薄暗い光の中、銀色の制服に身を包んだユディットは、鋭い白色の瞳で周囲を睥睨しながら歩いていた。彼の白い髪は風に揺れ、まるで氷の結晶のように光を反射していた。屈強な体躯と無慈悲な雰囲気は、通りすがりの者を無言で遠ざけた。
その隣を、エラースが軽やかな足取りで歩いていた。少年の瞳は好奇心に満ち、街のあらゆるものに興味を示していた。色あせた上着を羽織り、風に乱れる髪を気にせず、彼はユディットの横で無邪気に笑った。
「ねえ、ユディット！ あの看板、変な形してる！ ほら、猫の耳みたい！」

エラースが指差したのは、錆びかけた店の看板だった。ユディットは一瞥しただけで、冷たく吐き捨てる。
「くだらん。気にするな」

彼の声は鋭く、まるで刃物のように空気を切った。それでもエラースはめげず、くるりとユディットの前を歩きながら後ろ向きに進んだ。
「ユディットってさ、いつもそんな怖い顔してるけど、笑ったらかっこいいと思うよ！」

エラースの純粋な言葉に、ユディットの眉がわずかに動いた。しかし、すぐに顔を背け、感情を押し殺した。
「黙ってくんないかな。余計なことを言うな」

エラースはくすくす笑い、道端の石を軽く蹴った。石がころころと転がり、小さな水たまりに落ちる音が響いた。
二人は川沿いの道に出た。川面には夕陽が映り、橙と紫が混ざり合う幻想的な光景が広がっていた。エラースは立ち止まり、目を輝かせてその景色を見つめた。
「わあ、きれい！ ユディット、見て！ 水がキラキラしてる！」

ユディットは無言で立ち止まり、少年の視線を追った。だが、彼の目は景色ではなく、エラースの無垢な笑顔を捉えていた。一瞬、ユディットの冷たい瞳に、微かな揺らぎが生まれた。
「…あっそ。感傷的になるな。行くぞ」

ユディットは踵を返し、歩き出した。エラースは慌てて追いかけ、ユディットの大きな背中にしがみつくように並んだ。
「ねえ、ユディット！ また明日も散歩しようよ！ 約束！」

ユディットは答えず、ただ前を見据えたまま歩き続けた。だが、その口元には、誰にも気づかれないような、ほんのわずかな微笑が浮かんでいた。