臆病な旦那様をあやかしから守ります



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視界が狭くなる。それに比例して喉を通る空気が少なくなっていく。

ーーー「お前の欲しいものを教えろ」

ーーー「…この家の全て」

ーーー「私がお前に力を貸してやる、どうだ」

ーーー「何を引き換えに?」

ーーー「魂」

過去の後悔が闇の中に甦ってくる。
『何か』が自身を蝕んでゆくという感覚に、ああもうすぐ自分は自分でなくなる時がくるのかもしれないと覚悟した。
肩で息をしながら床に膝をついた。

「大丈夫?」

すぐ側で聞こえたその声に顔をあげる。狭くなった視界が徐々に広がった。いつもこうだった。油断した時に襲ってくるそれに「いつでもお前を見張っている」と脅されているような感覚さえ覚える。
少しずつ苦しさから解放され、一度空気をゆっくりと吸って吐いた。
そして立ち上がり、目の前にいる男に向き直る。

「大丈夫です、少し目眩がしただけですので」

「そう」

その男、伊澄 緋瑠人は胡散臭い笑顔を浮かべている。自分以外の伊澄の人間が惨殺され、なりたくもなかった当主になったときいている。
昔から鎌苅家とは縁があったらしいが、私はこの男を覚えていない。

「では、私はこれで」

「ああ、待って待って」

踵を返して歩き出そうとすれば、私の正面に周り込み壁に手をつく。
男の袖口に目がいった。何かを忍ばせていることは明白だったが、それは私自身向けられたものではなく「あやかし」に向けたものだというのは分かっている。体のうちからみ上げてくる拒否反応に耐えながら、「なんですか」と言葉を放った。

「昔、この家で一緒に遊んだことあるの覚えてない?ほら、末っ子同士でさ」

かつての幼い記憶を探る。確かに、顔も覚えていない、自分より幾分か背の高かった男の子の存在が脳裏をよぎったが私は首を横に振った。

「すみません、覚えておりません」

「そっか、まだ幼かったからね志乃子さん」

「もういいですか」

「まだ気にしているの?お兄様やお姉様と腹違いで生まれたってこと」

「っ」

足を止めた私に伊澄緋瑠人は少し口角を上げた。
直感だったが、かつての幼い記憶の彼とは少し違う気がした。背丈も大きくなり、心も成長してしまえば人間は変わるものだということは分かっている。

分かっているが、何かが違う。
伊澄 緋瑠人は、ゆっくりとまばたきをした。

ああ、この男は気づいているのかもしれない。

だとしたら、何で。
伊澄緋瑠人の顔が近づく、耳元に寄せられた口が冷たく言葉を放った。



「…せいぜい、喰われないように気をつけてね」