夜の訓練施設は、月光に包まれ、白く輝いていた。静まり返った砂地に、白髪の朝日が立つ。その前にいるのは、新米保安官のセプテンバーモーン――自閉症スペクトラム障害を持つ青年だ。彼は感情の起伏が少なく、何より機械の構造や仕組みに深く興味を抱いている。今も装備のナイフをじっと見つめ、無表情で呟いた。
「刃の角度が0.3度ズレています。修正が必要です」
「わぁ〜! 君も細かいねぇ! 戦場じゃあ…そんな時間ありません!!!」
朝日は明るく笑いながら、ナイフを手に取って構えた。
「今日は夜間戦闘だ。ついて来な!」
夜風が吹き抜け、砂が舞う。セプテンバーは無言で後を追いながら、周囲の暗闇を分析していた。
「敵、左45度、距離20メートル」
「すご、まるでセンサーじゃん!」
朝日は感心して笑い、模擬戦を開始。
シュッ。セプテンバーのナイフが標的のダミーを正確に切り裂く。反応はなく、次の指示を黙って待つ。
「よし、モーンくん! その冷静さ、最高だ! けど仲間との連携も覚えな!」
仲間との協調が苦手なセプテンバーに、朝日は一つずつ丁寧に指示を与え、そのたびに「いいぞ、その調子!」と声をかける。
「一つずつでいい。僕がカバーするから」
その言葉に、セプテンバーは小さく頷いた。
訓練が終わるころ、彼は静かに口を開く。
「…朝日さん。俺を“機械みたいだ”と言った。嬉しかったです」
朝日は目を丸くし、次に大笑いした。
「君、最高の機械だよ! いや、最高の保安官だ!」
その瞬間、セプテンバーの無表情な瞳の奥に、かすかな光が宿った。月が照らす中で、朝日はその変化を見逃さなかった。