夕暮れの訓練施設を、砂漠の風が静かに吹き抜けていた。白い髪を夕陽に輝かせ、朝日は訓練場の中央で立っている。白色の瞳が見つめる先には、ASD(自閉症スペクトラム障害)を持つ新米保安官・五葉の姿があった。彼は無口で静かな雰囲気をまとい、決まったルーティンを重んじ、環境の変化や騒音に敏感だった。
「五葉くん、今日は索敵訓練だ。敵の気配を見つけて!」
朝日は明るく声をかけ、双眼鏡を差し出す。五葉は受け取りながら、じっとレンズを見つめた。
「この双眼鏡、右レンズに0.2ミリの擦り傷があります」と淡々と呟く。
「細かすぎる! 傷は気にしないで、敵を探そう!」
朝日は笑いながら背中を軽く押した。
しかし、訓練場のざわめきや砂のこすれる音が五葉の集中を妨げていた。足元の砂の感触さえ気になり、彼の動きは止まる。
それに気づいた朝日は周囲を見回し、訓練場の一角を静かなゾーンとして仕切った。
「五葉くん、ここなら音が少ない。僕の声だけ聞いて、敵を探してね」
静寂の中で五葉は再び双眼鏡を構える。息を整え、わずかな影を追う。
「…標的、350メートル先。角度12度」
その正確さに、朝日は目を丸くして笑った。
「すごぉい! その集中力、最高だ!」
しかし、戦闘訓練になると五葉は銃声に顔をしかめ、耳を塞ぐ。朝日はすぐに彼の前に立ち、消音器付きのリボルバーを差し出した。
「これなら音が小さい。やってみな!」
五葉は慎重に構え、プシュッと静かな発砲音を響かせ、標的の中心を射抜いた。
「すごいぞ、五葉くん! 観察力も精度も完璧だ!」
その言葉に、五葉の唇がわずかに震えた。
「…朝日さん、環境を整えてくれて、ありがとう」
柔らかな声。その一言に、朝日はにやりと笑い、五葉の肩を軽く叩いた。
「うん! 君の静けさは、君の武器だ。大切にして」
五葉の瞳に、夕陽とともに優しい光が宿った。