「やばい。今日傘持ってきてなかった」
ゲームセンターを出て近くのチェーン店で夕飯を食べてから、建物の外に出た俺たちは、突然振り出した大雨に途方に暮れていた。
わんぱ犬をゲットするために移動が発生したために、毎朝雨が降るときは母さんに渡される傘を、今日の俺は持っていなかった。
「すいません。実は、いつもは折りたたみ傘を入れているんですが、先日壊してしまって」
そして不運なことに、準備がいいはずの玲も今は手持ちがないらしい。
「あーー。それは仕方ないな……」
とりあえず、近くのコンビニとかを探してでも傘を手に入れるべきだろうか。ただその場合、行くまでに濡れることは確実だ。俺は少し悩んだあとに、とりあえずリュックをビニール袋で覆った。
「何してるんですか?」
「とりあえず、カバーできる分の被害だけでも防ごうと思って。俺は教科書を守る!」
「……なるほど。それは名案ですね」
玲は、何故か俺の返事にふふっと笑った。
「でっかいゴミ袋、玲も使う?」
「ありがとうございます」
玲は俺から受け取ると、自分のスクールバッグをビニールでくるんだ。
それから、玲は少し何か考えるかのような表情《かお》をして、呟くように俺に尋ねた。
「あの……。紫苑さん」
「何?」
「実は、俺の家ここから近いんですけど。良かったら、一旦帰って傘を持ってきましょうか?」
玲は真面目だから、教科書が濡れなくなった今なら、それでもいいと思ったのかもしれない。でも、それは――。
「いや、駄目だろそれは」
俺は断言した。
「なんでですか?」
玲は、俺の返事が予想外だったらしい。驚いた顔が、いつもより少し幼くみえる。
「だって、俺のために玲一人雨に濡れさせて、風邪ひかせたら駄目だし」
「でも、どうせ何もしないで帰っても、俺は濡れますし……」
玲の言い分はわかる。玲は優しいから、「どうせなら」といいたい気持ちも。でも、それを受け入れるのは、俺の主義に反する。
「わかった。それなら俺が、玲の家に借りに行ってもいい? あとシャワー借りたい」
玲一人雨に濡れるのは駄目でも、俺も濡れるなら問題ない。
兄さんの友だちが、前雨に濡れてうちでシャワーを浴びたこともあったことを思い出してお願いすると、玲は目を瞬かせて、少し悩んだあとに誰かにスマホで連絡を入れ、俺のお願いを受け入れた。
■
「濡れた〜〜!」
玲の家は、雨宿りしていた場所から走って6分くらいのところにあった。
「近いって言ってたけど、言うほど近くないじゃん!」
「すいません。気を使わせてしまうかと思って……」
正直、近いかと言われると少し微妙なラインだ。普通に制服は雨で水浸しである。
どうやら玲の気遣いが仇になったようだ。長身の男に申し訳なさそうに言われると、そもそもの提案が俺ためだったこともあり怒るに怒れない。
「紫苑さん。少しだけ待ってもらえますか? 少し片付けが必要かもしれなくて」
「? わかった」
玲の家なら、誰が来てもきちんとしていそうなイメージだったけれどそうでもないらしい。
とりあえずタオルだけ先に渡されたので、体を拭きながら俺は玲を待っていた。
玄関と室内を遮る扉の向こうから、ガサガサという音がする。そして最後に、パーン!と和室の扉を勢いよく閉めるような音がしてから、玲は俺を室内に招きいれた。
「お待たせしました!」
部屋の掃除をする前に、部屋が濡れることを防ぐためだろう。玲は私服に着替えていた。いつもとは違う緩めの服は、普段の玲が垣間見える。
「お邪魔します」
因みに俺が玲の住むアパートに入っての第一印象は、「こんな感じなんだ」だった。
外観もそうだけれど、おそらく俺も含めた周囲の人間が知る「学校での玲」とは、室内のイメージはだいぶ違う。
室内の照明は少し暗い。部屋の中の置物はどこかツヤのある素材のあるものが多くてトーンは暗い。低めのソファに置かれたクッションの色はショッキングピンクで、男の部屋には無さそうな色合いだ。
家族と暮らしているような部屋とも違うし、男子高校生が一人で暮らすような部屋とも違う。甘い香水の香りも含めて、部屋の中は、まるで大人の女の人が住んでいそうな雰囲気があった。
「片付けてる間に風呂もためておいたので」
「でも家主より先にはいるとか悪いし」
「紫苑さんが先に使っていてください。俺はこれから、着替えの用意などもするので」
玲はそう言うと、俺に風呂場を案内した。室内と風呂場をつなぐスペースには洗濯機や洗面台が置かれていて、扉の代わりに仕切りとなる暖簾が棒を使ってつけられていた。少し生活感がある。
「シャンプーとかは、二段目の方じゃなくて一段目の方を使ってください」
「? わかった」
新しいタオルを渡されて、俺は頷いた。浴槽のなかには、半分くらいお湯が溜まっていた。
ゲームセンターを出て近くのチェーン店で夕飯を食べてから、建物の外に出た俺たちは、突然振り出した大雨に途方に暮れていた。
わんぱ犬をゲットするために移動が発生したために、毎朝雨が降るときは母さんに渡される傘を、今日の俺は持っていなかった。
「すいません。実は、いつもは折りたたみ傘を入れているんですが、先日壊してしまって」
そして不運なことに、準備がいいはずの玲も今は手持ちがないらしい。
「あーー。それは仕方ないな……」
とりあえず、近くのコンビニとかを探してでも傘を手に入れるべきだろうか。ただその場合、行くまでに濡れることは確実だ。俺は少し悩んだあとに、とりあえずリュックをビニール袋で覆った。
「何してるんですか?」
「とりあえず、カバーできる分の被害だけでも防ごうと思って。俺は教科書を守る!」
「……なるほど。それは名案ですね」
玲は、何故か俺の返事にふふっと笑った。
「でっかいゴミ袋、玲も使う?」
「ありがとうございます」
玲は俺から受け取ると、自分のスクールバッグをビニールでくるんだ。
それから、玲は少し何か考えるかのような表情《かお》をして、呟くように俺に尋ねた。
「あの……。紫苑さん」
「何?」
「実は、俺の家ここから近いんですけど。良かったら、一旦帰って傘を持ってきましょうか?」
玲は真面目だから、教科書が濡れなくなった今なら、それでもいいと思ったのかもしれない。でも、それは――。
「いや、駄目だろそれは」
俺は断言した。
「なんでですか?」
玲は、俺の返事が予想外だったらしい。驚いた顔が、いつもより少し幼くみえる。
「だって、俺のために玲一人雨に濡れさせて、風邪ひかせたら駄目だし」
「でも、どうせ何もしないで帰っても、俺は濡れますし……」
玲の言い分はわかる。玲は優しいから、「どうせなら」といいたい気持ちも。でも、それを受け入れるのは、俺の主義に反する。
「わかった。それなら俺が、玲の家に借りに行ってもいい? あとシャワー借りたい」
玲一人雨に濡れるのは駄目でも、俺も濡れるなら問題ない。
兄さんの友だちが、前雨に濡れてうちでシャワーを浴びたこともあったことを思い出してお願いすると、玲は目を瞬かせて、少し悩んだあとに誰かにスマホで連絡を入れ、俺のお願いを受け入れた。
■
「濡れた〜〜!」
玲の家は、雨宿りしていた場所から走って6分くらいのところにあった。
「近いって言ってたけど、言うほど近くないじゃん!」
「すいません。気を使わせてしまうかと思って……」
正直、近いかと言われると少し微妙なラインだ。普通に制服は雨で水浸しである。
どうやら玲の気遣いが仇になったようだ。長身の男に申し訳なさそうに言われると、そもそもの提案が俺ためだったこともあり怒るに怒れない。
「紫苑さん。少しだけ待ってもらえますか? 少し片付けが必要かもしれなくて」
「? わかった」
玲の家なら、誰が来てもきちんとしていそうなイメージだったけれどそうでもないらしい。
とりあえずタオルだけ先に渡されたので、体を拭きながら俺は玲を待っていた。
玄関と室内を遮る扉の向こうから、ガサガサという音がする。そして最後に、パーン!と和室の扉を勢いよく閉めるような音がしてから、玲は俺を室内に招きいれた。
「お待たせしました!」
部屋の掃除をする前に、部屋が濡れることを防ぐためだろう。玲は私服に着替えていた。いつもとは違う緩めの服は、普段の玲が垣間見える。
「お邪魔します」
因みに俺が玲の住むアパートに入っての第一印象は、「こんな感じなんだ」だった。
外観もそうだけれど、おそらく俺も含めた周囲の人間が知る「学校での玲」とは、室内のイメージはだいぶ違う。
室内の照明は少し暗い。部屋の中の置物はどこかツヤのある素材のあるものが多くてトーンは暗い。低めのソファに置かれたクッションの色はショッキングピンクで、男の部屋には無さそうな色合いだ。
家族と暮らしているような部屋とも違うし、男子高校生が一人で暮らすような部屋とも違う。甘い香水の香りも含めて、部屋の中は、まるで大人の女の人が住んでいそうな雰囲気があった。
「片付けてる間に風呂もためておいたので」
「でも家主より先にはいるとか悪いし」
「紫苑さんが先に使っていてください。俺はこれから、着替えの用意などもするので」
玲はそう言うと、俺に風呂場を案内した。室内と風呂場をつなぐスペースには洗濯機や洗面台が置かれていて、扉の代わりに仕切りとなる暖簾が棒を使ってつけられていた。少し生活感がある。
「シャンプーとかは、二段目の方じゃなくて一段目の方を使ってください」
「? わかった」
新しいタオルを渡されて、俺は頷いた。浴槽のなかには、半分くらいお湯が溜まっていた。


