ブルー・ストリート・ボッサ / Blue Streets Bossa

「……あ。
 七海さーん!」

 七海を見つけるなり、舞彩亜は大声で呼びながら手を振った。
 
 朝、舞彩亜が教室の前に着くと、教室の中にはすでに七海がいた。
 七海は机の前に立って、イヤフォンをかけて音楽を聴きながら、椅子の上に置いたリュックから教科書やノートを取り出しているところだった。

 舞彩亜はうれしくて、思わず七海を呼びながら駆け寄った。
 七海も、舞彩亜を見るとすぐ笑顔になって手を上げた。

「あー、舞彩亜さん!」

 舞彩亜は七海のもとに駆け寄って、七海としっかりと抱き合う。

「おはようー!」

 七海も、舞彩亜からいったん身体を離して舞彩亜の両腕を抱え、舞彩亜を見つめると言った。

「おはようー!舞彩亜さん!
 ……っていうか、『さん』とか他人行儀っぽいから、これから『舞彩亜ちゃん』って呼んでいい?
 舞彩亜ちゃんも、あたしのこと『七海』でも『七海ちゃん』でもいいよ!」

「うん!ええよ!
 ほんならあたしも七海さんのこと『七海ちゃん』って呼ばせてもらう!
 かわいくてええね、『七海ちゃん』って名前!」

「あはは、名前はね。
 見た目はそんなにかわいくもないけどね、あははっ!
 でも、舞彩亜ちゃんは名前どおりにかわいいよ!」

「えー、そんなことないよ!」

 そう言い合って二人で、あははは、と笑う。

 そうしているうちに、工が教室に入ってきた。
 舞彩亜はちらと工を見て、ほっと安心する気持ちと同時に、ちょっと緊張を感じる。
 矛盾した、おかしな気分だ。

 工はいつものように、なに食わぬ冷静な表情で舞彩亜にあいさつしてきた。

「嶋野さん、おはようございます」

 舞彩亜の心臓が小さく、どきっ、とふるえたように感じた。
 それでも舞彩亜はなんでもない風で陽気に、

「寺崎くん、おはよう!」

とあいさつを返した。

「寺崎くん、この人が望月七海ちゃん。
 七海ちゃん、彼は寺崎工くん。
 1年生やけど、あたしよりたくさん本を読んでて、いろんなことを知ってて、頭がいいの!」

 そう言って、舞彩亜はケラケラ笑う。
 七海は感心したように言った。

「へえー、すごいね、インテリやね!」

「はじめまして、望月さん。
 1年の寺崎工です。
 嶋野さんの『頭がいい』というのはどうかわかりませんけど、確かに本を読むのは好きです。
 よろしくお願いします」

 七海は元気にあいさつを返した。

「こちらこそ!
 望月七海です。よろしくね。
 ……えと、実際は『はじめまして』ではなくて、先週の入学式で舞彩亜ちゃんと寺崎くんが話してるところをあたしは見てたから、これが二度目やね!
 まあ、寺崎くんはあたしに気づいてなかったかもしれんけど」

 工は照れたように頬を人差し指で掻くと、七海に言った。

「……いえ、ぼくも望月さんに気づいてました。
 入学式で嶋野さんと話をしているところを見てますので」

「そっかー!
 ……で、舞彩亜ちゃんとはもともと知り合いなんやってね?」

 舞彩亜があわてて、

「……あー、その話は長くなるから、またあとで……!」

と言いながら工に、とりあえず行って!といわんばかりに手で合図した。
 工は、くすっ、と笑っておじぎをしてその場を離れ、自分の席に行った。

 七海は舞彩亜と向こうに行った工を交互に見ながら、

「……ふーん?……」

と意味ありげな笑みを浮かべる。
 舞彩亜は顔を歪めて、

「あはは……」

と苦笑いした。

 通信制高校「みなみ学園高校」新入生にとって、きょうが二日目。
 先週の金曜日に行われた入学式から週をまたいで、きょうからが通常の日課開始日になる。
 入学してから数日間は、先生や事務担当の人による授業の進め方、課題レポートの提出方法など、学校で日々行うことの説明が中心だ。

 きょうの午前中は説明会が中心。
 在学中全体のスケジュール、そして日々の授業の内容や、レポートの提出方法(通信制高校では学期ごとの学力確認はテストではなく、レポート提出という形式をとるところが多い。このみなみ学園高校もそうだ)、それから授業以外の行事(学園祭、BBQ大会、eスポーツ大会、体育祭やボウリング大会、フットサル大会などのスポーツレクリエーション、修学旅行など。いずれも生徒は自由参加であり強制はされない)についての説明があった。

 授業やレポート作成・提出を始め、多くの手続きでパソコンを使うことになるため、「PC基礎」という科目や、「国語基礎」「英語基礎」といった科目の授業もきょうからスタートする。
 授業は午後に予定されている。

 これら基礎科目は、新入生(1年生、そして転入学・編入学してきた2年生以上にも)にじゅうぶん配慮した内容で、中学・高校1~2年までの学習内容をおさらいし基礎学力をしっかり固めるためのものだ。
 こうして基礎学力を確実に身につけることで、そのあと本人がどんな進路を希望しても(大学進学であっても、あるいは卒業後に専門学校への進学であっても、また就職であっても)だいじょうぶなように学習システムができあがっている。 

 さて、きょうはこのように学習上の説明や授業もあるが、生徒たちにとっていちばん関心があるイベントは、午後の授業が終わってから始まる「部活動紹介オリエンテーション」だ。
 校内に存在するすべての部が紹介され、その活動内容を部員たちが説明することになっている。

 生徒たちは、あらかじめ配られた「部活動紹介一覧」パンフレットに目を通したうえで、自分が興味を持った部のオリエンテーション開催場所(基本として部室)に足を運び、先輩部員たちの説明を見聞きする。
 そして、希望する者は「仮入部」することができる。
 仮入部期間(2週間ほど)でその部活動を体験したうえで、その部に入部を希望する場合は入部届を部、もしくは顧問の先生に提出し、入部を決めるということになる。

 舞彩亜はもちろん軽音部に興味を持っていた。
 しかし、自分のようにボサノバをやっている部員は新入生も含めておそらくいないだろうから、七海も入部するならいっそう心強いのだが、と考えていた。

 午後の「英語基礎」の授業が終わった。
 舞彩亜は後ろの席にいる七海に尋ねた。

「七海ちゃんは、軽音部のオリエンに行くん?」

 七海は胸を張って答えた。

「もちろん!
 あたしは軽音部しかないっしょ!
 ギターしかやらないし、できないし、それしか興味ないし!」

 舞彩亜は、あはは、そうよね、と予想どおりと思いながら笑った。

「……あたしはボサノバギターやけど、七海ちゃんとおんなじや。
 音楽しかでけへんし、興味あらへん。
 そやから、あたしも軽音部かな!
 でもまあ、決める前にまずはオリエン聴いてからと思って!
 ……いっしょにオリエン行こ?」

「うんうん!
 オリエン行こ行こ!
 そんで、いっしょに軽音入ろうよ!!」

「もう決まってるんかい!あはは!」

 工はアニ研(アニメ・マンガ研究部)に入るつもりでオリエンに行くと言っていたので、オリエンの時間中は工と舞彩亜は別行動になる。
 舞彩亜は工のところに来て尋ねてみた。

「工くん、オリエンはアニ研に行くのやろ?」

 工は舞彩亜の顔を見ると笑顔で答えた。

「ああ、そうですね、そのつもりです。
 ……舞彩亜さんは望月さんと軽音部、行くんですよね」

「うん、そのつもり。
 あとで話し聞かせてな、アニ研どんなやったか!」

 工は、ふふっ、と鼻を鳴らして笑うと舞彩亜を見上げて言った。

「それはもちろん。
 でも、舞彩亜さんも聞かせてくださいよ。
 軽音部、ぼくも興味ありますんで。
 ……ぼくは、楽器はなにもできないですけど、音楽をやる人には興味あるんです」

 舞彩亜は工の前にしゃがむと、工の机の上に両腕を組んでその上にあごをのせた。
 そして、工の顔を上目遣いに眺めながら首をかしげて、ささやくように小さな声で尋ねた。 

「……工くんは、音楽そのものよりも、人間のほうに興味があるのかな?」

 工はちょっとの間考えるように黙っていたが、やがて舞彩亜を見つめて答えた。

「……というよりも、どちらにも興味がある、って言ったほうが正確ですかね。
 音楽そのものにも、そして音楽を作ったり、演奏したりする人にも。
 だって、音楽は人間が人間のためにやるものですから」

 舞彩亜は感心したように何度もうなずいた。

「はあー、なるほどね。
 『音楽は、人間が人間のためにやるもの』かー……。
 ……文学的やね」

「からかってます?」

 工がいくぶん不服そうに、しかし表情は笑って舞彩亜に訊いた。
 舞彩亜はあわてて、両手を工の目の前で振って否定した。

「……いやいや、からかってないよ!
 マジでなるほどなー、って思ってる。
 ……工くんの言うことは、『すごい!そのとおりや!』って思えることがまあまああるわ。
 さすが未来の作家やわ」 

 「もう、それやめてくださいって。
 ……まあ、ぼくの言うことをわかってもらえるのはうれしいことですけど」

 工はわずかに困惑したような表情をしながらも、笑顔でそう言った。
 舞彩亜はまじめな顔になった。

「工くんの言うこと、よくわかる気がするし、工くんはやっぱりすごい。
 ……そう思ってるよ、ほんまに」

 舞彩亜は立ち上がると、自分を見つめる工に手を振った。

「ほんなら、オリエン終わったあとに!」

「はい、またあとで!」

 工も手を上げると言った。
 今度は純粋な笑顔だった。

 舞彩亜は足早に工のもとを離れると、七海のもとにもどった。
 七海がニヤニヤして待っている。

「……どう?
 彼はやっぱりアニ研?」

「うん、もう入部もほぼ決めてるって」

 七海は羨むような微笑を浮かべて舞彩亜に言った。

「いやー、ええなー。
 年下のカレシくんとか、舞彩亜ちゃんも意外とやるねー」

 舞彩亜は真っ赤になって両手を振った。

「……いやいやいや、カレシちゃうって!
 誤解せんといて、七海ちゃん、ちゃうから!」

「ま、とにかく行くか、音楽室!」

 七海はさらっと舞彩亜の反応はスルーして先に立った。
 舞彩亜も、むう、と半分むくれた顔であとに続いた。

 舞彩亜は七海と廊下を歩きながら、ひとり、ふぅ、とため息をついた。

 工くんとはシンプルに友だち、のはずなんやけどな……。

 やがて二人は音楽室に着いた。
 中からすでに音楽が聞こえてくる。BGMだろう。
 エレキギターがメインのロックらしい。

 七海が舞彩亜と顔を見合わせた。
 そして七海はテンションが上がったらしい笑顔でうなずき、舞彩亜は真顔で、ごくり、とのどを鳴らす。

 入口前に大きな立て看板が立っている。
 その看板はが赤やピンクの造花で縁取られ、表面には大きな文字が書かれていた。

 「軽音楽部 新入生歓迎オリエンテーション2025」

 七海と舞彩亜は思わず、おおー、と声を上げた。

「すごいな、思いっきり歓迎、って感じ……」

「気い入り過ぎてて、ちょっとたじろぐな……」

 しかし入口をノックすると、威勢のよい男子の声が、

「はーい!
 軽音部に、いらっしゃーい!
 どうぞお気軽に!」

と飛んできて、すぐに入口の扉が開いた。
 部員と思われる茶髪で制服姿のまあまあイケメンな男子が、にこやかな笑顔で舞彩亜と七海を出迎えた。
 その背後にも、女子、男子の部員たちがたくさん、これ以上ないほどの笑顔でこちらを待ち構えている。
 
 舞彩亜は笑顔の群れの圧に、思わずしり込みしてつぶやいた。

「こんなんで、お気軽に、て言われてもな……」

 しかし七海は、舞彩亜とは正反対に積極的だ。

「まあまあ、とにかく中に入ろうよ!」

 そう言って先にすたすたと入っていく。

 マジか……。
 やはり七海ちゃん、度胸あるわな……。

 舞彩亜はそう思いながら、恐る恐る後に続いて音楽室の中に入った。

 中に入ると、女子の部員がこれまたにこやかに、二人を椅子のたくさん並べられた新入生用と思われる客席のうち、空いている前のほうの席に案内してくれた。
 七海は言われるがままにすんなり座ったが、舞彩亜は怖気づいて、

「……七海ちゃん、ここ、前過ぎない……?
 もっと後ろのほうが……」

「え、なに言ってんの!
 前のほうがよく見えるし、先輩の部員さんがなにか演奏してくれたときによく聞こえるっしょ!
 舞彩亜ちゃんも、そう遠慮せんと、ここ座りや!」

 ……あの、別に遠慮してるんやないんやけど……。

 そう心の中でつぶやきながら、舞彩亜は七海の隣に座った。

 周りを見回すと、すでに客席には十数人の新入生とおぼしき生徒が席に着いていた。
 女子、男子。女子の数が多い。
 やはりここ最近のバンドブームを反映してか、入部希望者は多いようだ。
 
 いっぽう、すでに部員らしい人たちは客席の前のほうのスペースに置かれた椅子に座っている人もいれば、席の前に立ってほかの部員と話している人もいる。
 こちらも女子のほうが若干多いようだ。
 さっき出迎えてくれたイケメン男子さんは、これまたなかなか美人の女子部員さんに話しかけている。
 この女子部員、ストレートな黒髪を肩のあたりまでのばし、制服のブレザーの上に黒のパーカーを羽織っている。
 スカートもアレンジして思いっきりミニにしているので、そこから見えるすらっと細く長い脚がとてもきれいだ。
 そして背も真っすぐで姿勢がよく、貫禄がある。

「あの人が部長の(ひいらぎ)さんらしいよ」

 七海が舞彩亜に耳打ちした。

「え!
 さっきのイケメンさんが部長やないんや」

 七海は、あはっ、と笑って言った。

「舞彩亜ちゃんって、けっこう面食いやね」

「なんでや!」

「だってさ、寺崎くんといい……」

「そやから、工くんとはそういう関係やないって言ったやん!」

 七海は軽く受け流すように、

「はいはい、わかった。
 ……で、あのイケメンさんは、副部長の田島(たじま)さん。
 そうそう、柊さんはキーボード担当、田島さんはベース担当やて。
 二人はいっしょのバンドで活動してる。
 『Cosmic Rhapsody』ってバンド名。
 昨年は全国高校生バンドのコンテストで入賞したりしてて、かなりの実力があるみたい。
 ……いやー、そんな人たちといっしょの部で活動できるなんて、楽しみやわー!」

「へえー。
 七海ちゃん、すごいね。
 すでにいろいろ知ってるんやね」

「ここに入学したいと思った最大の理由の一つが、この軽音部やねんて。
 入る前からいろいろ調べたねん、軽音部がさかんで優秀な学校。
 そやから、ここは第一候補やったのね。
 そんな第一候補の高校に入れちゃったあたしって、しあわせもの~!」

 あははっ、と七海と舞彩亜は笑った。

 やがて開始時刻となった。
 先ほどのイケメン副部長、田島さんがマイクを手に話し出した。

「えー、このみなみ学園高校の新入生のみなさん。
 この学校に数ある部活動の中から、われわれ軽音楽部に興味を持ってくださいまして、まことにありがとうございます。
 いまから、『軽音楽部 新入生歓迎オリエンテーション2025』を開催したいと思います。
 ぼくはこの軽音楽部の副部長、田島定俊(たじまさだとし)です。
 どうぞよろしくお願いいたします」

 新入生たちは、そして七海と舞彩亜も拍手した。

「このオリエンテーションの内容ですが、まず現在の軽音楽部の主な活動をざっと紹介します。
 いまも軽音部内にはいくつものバンド、そしてユニットや、もちろんソロで活動している人もいますので、そうした活動例をお知らせしますね。

 それから次に、時間は短いですが現役部員の演奏を2組、みなさんにお聞かせします。
 演奏する部員は、立候補者の中から部内での独断と偏見によって選考しました。
 アコギ弾き語りをやっている虹東(にじあずま)さんのソロ、そしてロックバンド『突然ヴィンセント』の2組の演奏です。

 そのあと、現役部員も担当している楽器がいろいろありますので、楽器パート別に、みなさんが興味ある楽器について現役部員に自由に質問などできるコーナー『楽器パート別Q&Aコーナー』を設けます。
 ……と、ここまでが本日の内容ですが、ここまでをみなさんに体験いただいて、もう『入部したい!』というかたは、入部届を部長の柊かぼく田島に出してくださってOKです。
 というか、大歓迎です!
 
 また、『もう少し軽音部のことをよくわかってからにしたい……』というかたには、『仮入部』という制度がありますので、これのご利用がおすすめです。
 2週間ほど、この軽音部に仮に入部していただけるという制度ですので、これを利用して、軽音部の雰囲気とか、どんな人が部員なのかとか、そういうことをよーくわかっていただいて、納得していただけたら正式に入部していただく。
 この仮入部を利用していただくのが、絶対まちがいがなくていいかもしれませんね!

 ……ということで、これから約1時間半ほどのお時間ですが、リラックスしてお付き合いください。
 それでは最初に、軽音楽部代表として部長の柊から、新入生のみなさんに向けて歓迎のあいさつをさせていただきます。
 ……じゃ、柊さん、お願いします」

 イケメン田島さんが引っ込むと、代わって先ほど田島さんと話していた凛々しい美人の柊さんが、しゃんと背筋を伸ばしたままスッスッと歩いてきて、田島さんからマイクを受け取ると新入生たちの前に立った。

「みなみ学園高校新入生のみなさん、こんにちは。
 軽音楽部、部長の柊詩乃(ひいらぎしの)です。
 まず、この軽音部に興味を持ってくださって、本当にありがとうございます。
 われわれ軽音部は、この学校設立時から存在する、歴史ある部です。
 これまでにも多くのバンド、ソロで活躍するかたがたを輩出し、プロとして活動されているかたも数多くいます。
 もちろん、軽音部の活動目的は第一には『ポピュラー音楽の演奏を楽しむこと』なんですが、将来本格的に音楽活動をしたい!という目標をお持ちのかたにも、じゅうぶん満足していただけるだけのレベルにあると、私たち部員も自負しております」

「……はあー、そんなレベル高いんや、この軽音部」

 舞彩亜のもらした言葉に七海が反応した。

「そう、舞彩亜ちゃん。
 そやから、あたしら、もし入ったらすごく刺激を受けると思うし、あたしら自身のレベルもすごく上げられると思う!
 そやから、この学校の軽音部に入れるってのは、すごいラッキー、ってこと!」

「……そうかあ……。
 それって、プロミュージシャンへの道にもより近づけるかも、ってこと?」

「ん?
 舞彩亜ちゃん、もしかしてプロ目指してる?
 それ、ええと思う!
 あたしも同じやし!」

「え、そうなん……?」

 二人がそんな会話をひそひそ話でしているうちに、柊さんがこんな話をし出した。

「……えー、それとですね、これは軽音部に興味のあるすべてのかた、特に入部を前向きに検討しているかたには、ぜひともお知らせしておきたいことなんですが、うちの部には、正式に入部してくださったかたがたのうち、希望者に『新入生歓迎会』とは別に、『新歓新入生演奏会』というイベントがありまして。
 すでに現在、楽器の演奏や歌に自信がある、という新入生のかたに、軽音部員の前で1曲演奏をしていただく、という会がございます!
 この会は、軽音部員だけでなく当校の生徒ならどなたでも聴きに来ていただけます! 
 ……ということで、われこそは、と思う新入生のみなさん、正式に入部された際にはぜひ参加していただきたいです!」
 
 新入生の中から、おおー、とどよめきが起こった。
 七海が興奮気味に両こぶしを握ると、小さな声で叫んだ。

「マジで、マジで!
 出るっきゃない!!
 舞彩亜ちゃんも出ようよ!」

 舞彩亜も思った。

「……これは……。
 出たい……出るしかないやろ……」