「……迷惑ですよね」

 保健の先生って、本当は放課後、僕のことなんか気にしないで自分の仕事できた方が楽なんだよね。放課後は部活で怪我した子くらいしか来ないんだし、自分の仕事が終わったら早く帰ってもいいはずだから。

 そうわかってはいるけど、教室に行く気にはなれない。

「はぁ……あれ?」

 原口が一人で、グラウンドに転がっているいくつものサッカーボールを拾い集めていた。

 え、なんで?

 ボール拾いが終わったと思ったら今度は三角コーンを集めて、ゴール付近へいく。

 まさか、ゴールも一人でしまおうとしている?

 僕、あまり役に立たないとは思うんだけど。

 窓を開けて上履きのまま外に飛び出して、僕は原口に近づく。

「あのさ……他のみんなは? 一緒にサッカーしてた」

「保健室の王子様?」

 え?

「何?」

「あ、すみません。友達が先輩のことそう言ってて。サッカー部の他のやつなら帰りました。俺、みんなに嫌われてて。掃除押し付けられてます」

 うわ、最悪。

「君がサッカー上手いから、妬まれて?」

「あ、上手く見えました? 嬉しいです。……たぶんそう。一年エースだし」

 酷いこと考えるなぁ。

「今までどうしてたの? この量の掃除、1人でやるの無理だよね」

「はい。できるところまではやってから、顧問の先生呼びに行ってます。みんな用事あるからって帰りましたとか、教室で勉強するって先輩達言ってとか嘘ついて」

 本当のことを話せばいいのに。でも。

「話したらいじめ悪化する?」

「するかもしれません。怖くて話せない。最近、サッカーするの楽しくない。練習ではちゃんとできるけど、試合だとゴール外してばっかり。ベンチにいる先輩が俺のこと睨むから」

 原口の瞳から涙がこぼれ落ちる。 

「泣かないで。僕がなんとかするから」

 保健室にいる僕だからこそ、できることがある。