「なにを聞いているの」

「アニソン。聞くか?」

「聞く」

 電車の中で律に問われ、ワイヤレスイヤホンの片方を律に渡す。
 電車通学の二人は仲良く隣に座っていた。

「なんの曲?」

「メンダコパーティーズ」

「なにそれ。変な曲だね」

 律はくすくすと笑う。

 変な曲だと言いながらもワイヤレスイヤホンを返さない。

 ……たしかに。変な曲だけど。

 メンダコが登場するだけの普通のアニメだ。子どもから大人まで楽しめる深夜アニメである。武に薦められて見始めたアニメだが、中毒性があるのか、気づけば毎回見るようになっていた。

 ……楽しそうだな。

 律が楽しそうならそれでよかった。

 電車は揺れる。

 距離感の短い駅と駅の間を勢いよく走る電車の運転の荒さには慣れたものだった。


* * *


「葵」

 葵の部屋に入ったとたん、律の態度は急変する。

 葵があぐらをかいて床に座っていると、律は素早く葵の足を枕にして寝転がった。

 そして、得意げに笑うのだ。

 ……笑顔がかわいい。

 きゅんっとしてしまう。

「葵の足、枕にするの、好き」

「そうかよ。いつもしてるもんな」

「僕だけの特権だから。誰かにしちゃダメだよ」

 律の言葉に葵は苦笑した。
 あいにく、そのような相手は律以外では考えられなかった。

 ……幼馴染に執着するなよな。

 勘違いをしてしまいそうになる。
 その気持ちを抑えて、葵は律の髪を撫ぜる。

 部屋に入ったとたん、律はクールでかっこいい陽キャの人気者から甘えん坊に変化する。