眩い光が夜を裂いた。
 剣に宿った村人たちの想いが、一本の流星のように異形の主を貫く。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 六本の腕が痙攣し、赤い眼が次々と砕け散る。
 瘴気が悲鳴のような音を立てながら崩れ、闇が吹き飛ばされていった。

 巨体が地響きを立てて倒れると、村に深い静寂が訪れた。
 残った魔物たちは支配を失い、蜘蛛の子を散らすように森へ逃げていく。

「……勝った、のか」

 誰かの呟きが広場に落ちる。
 次の瞬間、歓声が爆発した。

「やったぞ! 本当に倒したんだ!」
「アルト様が……アルト様がやってくれた!」

 人々が泣き、笑い、互いに抱き合う。
 その中心で俺は剣を地面に突き立て、肩で息をしていた。

(限界を超えた……体が鉛みたいだ……)

 だが、不思議と心は軽かった。
 皆の力を繋げ、この村を守り抜いた――ただそれだけで胸が満たされていた。

 翌朝。
 戦いの傷跡は村の至る所に残っていたが、人々の顔には確かな誇りがあった。
 誰もが「自分たちで勝ち取った」と実感していたのだ。

「アルト様」
 村長が杖をつきながら近づく。
「あなたのおかげで、この村は救われました。もう誰も、あなたを“役立たず”とは呼ばない」

 その言葉に、胸が熱くなった。

 しかし、喜びも束の間だった。
 昼過ぎ、村の入口に馬蹄の音が響いた。
 青い外套を纏った騎士団が姿を現す。

「ここが……噂の村か」

 先頭に立つ男の胸には、銀の勲章が光っていた。
 “看破の勲章”。昨日の異形と同じ、全てを見抜く力。

 村人たちが怯える。
 だが俺は一歩前に出た。

「俺はアルト・グランヴェル。この村を守ったのは、俺と村人たちだ」

 騎士は冷たい目を向け、口を開きかけた。
 だが、その前に村人たちの声が轟いた。

「アルト様は我らの英雄だ!」
「命を救ってくれた! この村の光なんだ!」
「追放者? ふざけるな! ここでは“英雄”なんだ!」

 百を超える声が重なり、騎士団を圧倒する。

 沈黙ののち、騎士は息を吐いた。

「……見抜くまでもない。確かに、ここに英雄がいる」

 その言葉を残し、騎士団は踵を返した。
 王都に戻れば何を報告するかはわからない。
 だが少なくとも、この場で俺たちを否定することはできなかった。

 夕暮れ。
 畑に芽吹いた苗を眺めながら、俺は小さく呟く。

「追放された俺が……英雄か」

 村の子供たちが駆け寄り、笑顔で手を振る。
 仲間たちが鍬を持ち、未来を耕している。
 その光景こそ、俺のすべてだった。

「俺はこの村と共に生きる。英雄なんて柄じゃないが……皆がそう呼ぶなら、それでいい」

 夕陽が大地を黄金に染める。
 こうして、追放された“凡庸な補助術師”アルトは、辺境の地で真の居場所を得た。

 人々が語り継ぐ――
 彼の名を。
 “辺境の英雄”として。

✅ 完結!