六本の腕を持つ異形の主は、なおも猛威を振るっていた。
 柵は粉砕され、地面は割れ、村の広場は戦場そのもの。

「【支援魔法・防御結界(シールドオーラ)】!」

 俺が展開した結界は、赤い眼光に照らされた瞬間、霧散した。
 見抜かれ、打ち消されたのだ。

「くっ……!」

 膝が震える。
 魔力はすでに限界を超えつつある。
 だが、倒れた瞬間にすべてが終わる。

「アルト様! もう魔力を使いすぎです!」
 ロイが叫ぶ。

「やめてください! 死んでしまいます!」
 女たちの声が続く。

 だが、俺は首を振った。
 守りたいものがある以上、立ち止まるわけにはいかない。

「俺は――英雄なんて呼ばれる資格はない。ただの追放者だ。
 だが、この村が俺を必要としている限り……俺は立つ!」

 異形の主が再び六本の腕を振り下ろす。
 その衝撃をまともに受ければ、広場ごと吹き飛ぶだろう。

 俺は深く息を吸い込み、詠唱を重ねた。

「【支援魔法・防御結界】と――
 【支援魔法・衝撃吸収】、さらに――
 【支援魔法・反響の幕】、全部……重ねろ!」

 光が幾重にも絡み合い、巨大な多層結界を形作る。
 六本の腕がそれを叩きつけた瞬間、衝撃は吸収され、反射され、さらに結界の外へと逃がされた。

 轟音と共に大地が揺れ、異形の主の巨体がよろめく。

「……やった……!」
「効いてる!」

 俺はさらに詠唱を続ける。
 体の芯が焼けるように熱く、視界が赤黒く染まる。
 だが、それでも止めなかった。

「【支援魔法・身体強化】、【支援魔法・集中力上昇】、【支援魔法・勇気の旋律】――
 全部重ねて、全員に流せ!」

 村人たちの身体が一斉に光に包まれた。
 槍を握る手に力が宿り、震えは消える。
 弓を引く瞳に迷いはなく、狙いは一点に絞られる。

「これが……アルト様の、魔法……!」
「俺たちが、一つになってる……!」

 村人たちの雄叫びが広場を揺らした。

 異形の主が吠え、瘴気を爆発させる。
 だが俺は叫ぶ。

「怯むな! 俺が支える! お前たちの力は、全部俺が繋ぐ!」

 全員が一斉に動いた。
 槍が突き出され、矢が放たれ、斧が振り下ろされる。
 その全てが補助魔法によって強化され、異形の肉体を穿つ。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

 異形の主が呻き、膝をついた。
 瘴気が乱れ、赤い眼が一つ、砕け散る。

 だが、俺の身体も限界に達していた。
 血の味が口に広がり、視界が揺れる。
 それでも剣を握り、声を張る。

「最後の一撃を……俺に託せ!」

 村人たちの視線が集中する。
 誰もが頷き、武器を掲げた。

「アルト様に――託す!」

 その声が一つに重なった瞬間、俺は全ての魔力を解き放った。

「【複合補助魔法――英雄の光(ヒーローズリンク)】!」

 村人たちの力が一本の光となり、俺の剣に収束する。
 眩い輝きが夜を裂き、異形の主の胸を目掛けて走った。