冷蔵庫には、大量のコーヒーと母さんがたまに置いていく料理が入っている。
 こういうときって、お茶を出すのが一般的だよな。

 急に来たかと思えば、「外で話すのもなんだし」って取り立て屋みたいな言い分で家の中に入ってきたナギはリビングからジーッと俺の一挙手一投足を眺めていた。

 「ナ、ナギ……コーヒーしかないんだけど、いい?」
 「おかまいなく!」

 ニコニコと屈託のない笑顔は、記憶の中のナギのままだった。
 最後に話したのは、確か俺の中学の卒業式だ。ナギが卒業して全く連絡を取っていなかったのに、急に母親と一緒に表れたときは柄にもなく、驚いた。今でも鮮明に思い出せるほどだ。

 戸棚から形の違うカップを取り出し、コーヒーを注ぐ。
 冷えたグラスを持って、ひとつをナギの前に置いた。「ありがと!外暑くてさ、喉乾いてたんだ」そう言うと、グラスを手に取り半分以上飲んでしまった。

 俺はナギの前に座り、コーヒーを一口飲んでテーブルに置いた。
 聞きたいことは山ほどある。

 「あ、あのさ、急にどうしたの?てか、なんでこの家知ってるの?実家から結構離れてるし…」

 俺の勢いに飲まれて困ったように眉を八の字にしながら、「順を追って説明するね」と話し始めた。