青鎖病の症例報告
白城の医療事務所は、島国の霧が窓を濡らす夜、静かな哀しみに包まれていた。志賀は机に座り、白い髪を指で払いながらカルテを広げる。屈強な体躯に白い瞳が冷静に輝き、白城の軍医として心の鎖を記録する。患者の名は島風——白城の白の上級保安官。三笠への重度片想いが、会えぬ思いを青い鎖に変えた。
志賀はペンを握り、カルテに淡々と記す。手は確かだが、瞳に微かな悲哀が宿る。

症例番号:WC-0265 
患者名:島風

性別:男性 / 職業:白城の上級保安官

主訴:足首青鎖模様、運動抑制、進行性鬱状態

既往歴:特記事項なし。三笠(同僚)への重度片想いを自認(詳細非開示)。
診断名:青鎖病(Seisa-byo)
•会いたい人に会えぬ心因性疾患。青鎖模様による運動抑制と鬱進行。
発症経過:患者は約2ヶ月前、三笠への想いを抑え、会う行動を躊躇し発症。初期:両足首に青い鎖模様出現。患者自陳「三笠に会いたいが、迷惑かと…足が動かない」との記述あり。進行:会おうとする際、足の重度抑制(VAS 9/10)。抑圧感情が鬱状態を誘発、睡眠障害・無気力増悪。末期:完全運動喪失、深い鬱による衰弱。
進行の特徴:自己抑制が鎖を強固化。治療は自ら会う行動のみ有効——他者の来訪無効。
治療経過:行動療法(会う行動の促し)試行も、患者の躊躇強く無効。抗鬱薬・カウンセリング併用も進行抑制せず。予後不良。
予後:進行性・不可逆。末期衰弱による死。会えぬ思いが、鎖を閉じる。
所見:本症は行動抑圧が心身を縛る。白城の霧のように、想いは重く、解放は自らの足に委ねられる。追跡調査要。
担当医:志賀

志賀はカルテを閉じ、事務所の奥室へ向かう。患者のベッドは霧の淡光に照らされ、島風は白いシーツに横たわる。かつての屈強な保安官の体は今、衰弱し、白い髪が枕に虚しく散らばる。白い瞳は虚空を彷徨い、両足首に青い鎖模様がくっきりと浮かぶ。志賀はベッド脇に座り、観察する。
「島風くん、三笠くんに会いに行こう。それが治療だ」
志賀の声は穏やかだが、島風の唇が震える。
「先生…彼に迷惑を…かけられない…」
足が重く、動かず、鬱の影が瞳を曇らせる。志賀は脈を測り、鎖の抑制を記録——想いの重さが、命を削る。患者の心に、三笠の不在が鎖を締める。
「動いて、島風くん。霧を抜けるんだ」
志賀は促すが、島風の力は尽きる。霧の夜、青鎖が心を縛り、息が止まった。白い瞳は閉じ、鎖模様が薄れる。志賀はシーツを整え、カルテに「病死」と記す。青鎖病は、会えぬ想いを鎖に変え、命を奪う。白城の医療事務所に、また一つの重い霧が刻まれた。
(終)