白城の医療事務所は、島国の霧が窓に寄り添う朝、儚い静けさに満ちていた。深山蓮は机に座り、白い髪を軽く撫でながらカルテを開く。屈強な体躯に白い瞳が優しく輝き、赤ピンクのネクタイが胸で静かに息づき、黄緑と赤ピンクのマフラーが肩を柔らかく包む。彼は白城の医療の記憶の守り手として、恋の泡がもたらす存在の消融を記録する。患者の名は飛龍——白城の白の上級保安官。三笠への重度片想いが、発症原因不明の毒を呼び起こした。
深山はペンを滑らせ、カルテに儚く記す。手は穏やかだが、瞳に微かな喪失の影が差す。

症例番号：WC-0263 
患者名：飛龍

性別：男性 / 職業：白城の上級保安官

主訴：口泡吐出、進行性透明化、記憶喪失（周囲）
既往歴：特記事項なし。三笠（同僚）への重度片想いを自認（詳細非開示）
診断名：
恋消融解昇華病（Romantic Dissolution Sublimation Disease）／別名：恋消泡吐き病
•恋愛感情が泡吐出を誘発し、寿命・記憶・存在を削る症候群。
発症経過：
患者は約2週間前、原因不明で発症。初期：恋愛感情時、口から無色無香のシャボン玉状泡吐出。泡の特徴：周囲イメージ影響（保安官像ゆえ微かな硬質感）。患者自陳「三笠を想うと、泡が零れる」との記述あり。泡弾裂ごとに寿命短縮、体透明化開始。周囲記憶から患者存在が徐々に失われる。
進行の特徴：泡色濃化・数量増。最終的に完全忘却時、患者が一泡となり消滅。記録抹消。深想者には後遺症（喪失感）残存。
治療経過：
薬物抑制無効。唯一対処：自殺による記憶回復・透明化停止。患者拒否、進行不可逆。予後不良。
予後：
進行性・不可逆。最終的に存在泡化消滅。恋の泡が、記憶を溶かす。
所見：
本症は感情が泡となり、存在を削る象徴。自殺のみの救済が、悲劇を際立たせる。白城の霧のように、泡は弾け、記憶を残さず消える。追跡調査要。
担当医：深山蓮

深山はカルテを閉じ、事務所の奥室へ向かう。患者のベッドは霧の淡光に浮かび、飛龍は白いシーツに横たわる。かつての屈強な保安官の体は今、半透明に揺らぎ、白い髪が枕に薄く溶け込む。白い瞳は虚空を眺め、泡の残り香を探すように唇が開く。深山はベッド脇に座り、黄緑のマフラーを指で巻きながら観察する。赤ピンクのネクタイが彼の胸に儚い光を映す。
「飛龍くん、泡が出るか。三笠くんの名を呼ばないでね」
深山の声は静かだが、患者の唇から無色の泡が零れ、弾ける。飛龍は囁く。
「先生……彼を想うと、泡が……僕が、薄くなる」
体が透明化し、手がシーツをすり抜ける。周囲の記憶喪失が進行——事務所の記録から飛龍の名が薄れ、深山の瞳にさえ影が差す。深山は脈を測り、泡の弾裂を記録。寿命の削れが、愛の重みを物語る。
「自らを絶て。それが、救いだ」
深山は促すが、飛龍の瞳に拒絶の光。泡の色が濃くなり、数が増え、記憶の霧が深まる。
霧の夜が訪れ、飛龍の体が一つの泡となり、弾けた。白い瞳は消え、存在が抹消される。深山の胸に、勿症候群の喪失感が残る。恋消融解昇華病は、泡を吐き、記憶を奪う。白城の医療事務所に、また一つの空白が刻まれた。
（終）